第18話 マギ&ルージー
うん。この二人は使えそうだ。
「マギです」
「ルージーです」
若いだけに切り替えが早い。従順なら殺されないと理解したようだ。
残り二人は頭が固いようで、従ってはいるが、不満なのはバレバレ。こいつらはダメだな。
「もう一度言っておく。従えば生かす。逆らうなら殺す。しっかりと覚えておくこと」
マギとルージーは頷き、残りの二人は視線を下に向けた。
「じゃあ、穴掘りの続きよろしく。アタシは家の中で荷物を分けているから」
心は男ってのは隠しておいたほうがいいだろう。万が一を考えてな。
家に入り、木窓を開けてテレポする。
「レナ。人間が逃げたらあとを追え」
家を見張るようにしていたレナと合流してそう指示を出した。
「なぜだ?」
「補給基地があるところが知りたい」
レナたちもそこから来てはいるが、もう忘れたとか。ここにいた魔法戦士のペガサスはいるが、レナたちほど意識が強いわけじゃない。馬より賢いくらいで、調教もされているからまだ扱い難いんだよ。
「なるほど。そこも襲うのだな」
「まーな。補給基地は潰しておくに限る」
プラガン帝国がどこにあるかはわからんが、大軍を気軽に出せる距離ではないはずだ。この周辺を探索しているレベルだ、いくつかの国を跨いでいるんじゃないかな?
「わかった。皆に伝える」
レナが飛び立ち、オレは家に戻るとする。
魔法戦士たちはこの家を拠点としたようで、私物やら支給品らしきものが積まれている。使えるものがあるだろうと探るとする。
暗くなってきたので外に出たら案の定マギとルージーだけしかいなかった。行動早っ!
「お疲れさん。暗くなってきたから終わりにしよう。部屋に入りな」
「あ、あの、二人が……」
「気にしなくていい。二人のせいにはしないから。てか、よく二人は逃げなかったね」
「おれたちに穴掘りを任せて、二人で逃げたようです」
見捨てられたってことか。薄情だね~。
「そっか。置いて行かれて正解だよ。あの二人はそう遠くない未来に死ぬから。それよりがんばってくれたから美味しいものを食わせてやろう」
明日から二人で穴掘りや荷物を纏めてもらうのだからな、腹一杯食わせてやるか。食材はたくさんあるんだしな。
魔法の鞄の中に肉があったのでステーキを作ってやる。ワインソース仕立てだ。
「たくさん食って、ゆっくり休むといい。風呂に入りたいなら湯を沸かすよ」
外に石風呂を作ってある。長いこと放置してたが、崩れていたり穴が開いてたりはしない。問題なく使えるだろうよ。
「は、入りたいです」
「了解。じゃあ、用意してくるから休んでな」
テレキで枯れ葉なんかを排除し、井戸の水を汲んでパイロでお湯を沸かした。
「一応、薪も入れておくか」
薪は集めていたようでたくさんあった。四、五本くべておくとしよう。うん、いい湯だ。
「沸かしたから入りな。体を拭くヤツは用意してあるから」
「あ、ありがとうございます」
「構わないよ。ゆっくり入ってきな」
ルージーが出て行き、後片付けをする。
「マギは風呂に入るか?」
「え、えーと、はい。入らしてもらいます」
「着替えがあるなら着替えてきな。汗臭いから」
穴掘りで汗を流したから臭いが凄い。ちゃんと風呂に入って着替えてくれるとありがたいよ。
ルージーが上がって来たらマギが入りに向かった。
「牛乳、飲む?」
「牛の乳、ですか?」
「プラガン帝国では飲まないの?」
「いえ、飲んでいる人はいますけど、わたしらのような者は滅多に飲めません」
やはり技術レベルは前の世界とそう変わらないか。寒いところでも牛が育てられたらいいのにな~。
「そっか。なら、温めて飲んだほうがいいかもな」
暖炉で温めてやった。
「……美味しいです……」
「それはよかった」
マギも上がって来たので冷たいまま牛乳を出してやった。
二人とも牛乳を飲んでもなんともないか。オレが飲んでも平気だったから大丈夫だとは思うんだが、地球のものがこの世界の者に合うかはわからない。その実験を二人で確認させてもらうとしましょうかね。
「明日もがんばってもらうから早めに寝な。寝台を使っていいから」
一緒に寝てもいいし、ルージーに譲っても構わない。どうするかは二人で決めてください。オレはホームで休むんでな。
ぐっすり眠って外に出ると、二人は逃げずにいた。
「おはよう。朝食作るから顔でも洗ってきな。あ、これ、歯を磨く歯ブラシと歯磨き剤ね」
使い方を教える。歯もしっかり磨きなさいよ。
朝食を終えたら穴掘りをしてもらい、順々に死体を埋めていった。
二人ががんばってくれたお陰で二日で埋めることが出来た。お礼に一日休憩を与えてあげよう。
「ゆっくりしてな。あ、ペガサスを様子は見ててね」
普通の馬は放した。面倒見切れないからな。野生に帰れ、だ。
ただ、ペガサスはまだ戸惑っており、縄を外しても逃げることはしない。腹が減ったら草原に出て草を食い、夜になったら戻って来ている。逃げたかどうか見ててくれるだけで構わない。よろしくね。
「レナ。見つけたのか?」
昼頃、レナが戻って来た。
「ああ。見つけた。森の中に百人くらいいた」
「あの二人は?」
「殺した」
短い命だったこと。逃げなきゃ長生き出来たのに。選択肢を間違えたばかりに哀れなものだ。
「じゃあ、殺しに行くか。案内してくれ」
レナの背に跨がった。
「わかった。落ちるなよ」
初めて乗るペガサス。テレキボードとは違う浮遊感。これはこれでおもしろいな。次は馬具をつけさせてもらうとしよう。




