第15話 プラガン帝国
いただけるものはいただいたので帰ることにする。
「じゃあな。元気に生きろよ」
ペガサスたちに別れを言ってテレキボードに乗った。
「待ってくれ。わたしたちもついて行っていいか?」
「お前たちが生きるには厳しいところだ。暖かい地にでも行け」
ペガサスの生態などまったく知らんが、一年の半分は冬みたいなところ。生きるには厳しいところだ。草原がある地にでも行っておもしろおかしく生きたらいい。
「じゃあな」
構わずテレキボードを浮かせて湖の小屋に向かった。
テレキボードはそんなに速くは飛ばせない。時速にしたら五十キロくらいか? それ以上だと寒いんだよ。
それに浮かせながらテレキバリアーを張るとなかなかなに精神力を持って行かれる。オレの超能力は全然チートではないんだよ。
「頼るところもないのだ、お前について行くしかない」
まったく、とんでもないのに出会ってしまったな。オレ、獣に好かれる匂いでも出してんのか?
「好きにしろ」
別にオレの土地ってわけでもない。住みたきゃ勝手に住めばいい。イエティたちと食うものが被らないと思うしな。
湖の小屋に帰って来ると、ペガサスを見たイーダたちが戸惑いを見せていた。そりゃそうだ。
「どうしたんだ?」
「関わったらついて来られた」
「マリーダらしいな」
オレらしいってなんだよ? お前ら以外、関わったことねーだろうが。
「まあ、いいんじゃないか。見た感じ、草を食べる種族のようだからな。そこら辺の草を食ってくれると助かる」
確かにここら辺の雑草の伸びが早い。刈るのも面倒だったので、食ってくれるならありがたい限りだ。
「先住の者が住んでいいとさ。自分たちの食い扶持は自分たちで探せよ」
「わかっている。どこか雨風が防げる場所はないだろうか?」
「イーダ、こいつらが雨風防げる場所が欲しいんだとさ。てか、こいつらの言葉、わかるか?」
「すべて聞き取れるわけじゃないが、なにを言っているかはわかる」
「異界人の血か?」
「そうかもしれんな。昔、おれらは人間とも話せたらしいからな」
どんなDNAが働いているのやら。クソでも女神。とんでも能力が働いてんだろうよ。
「いい洞窟がある。案内しよう」
そんな場所、あったか? 気になったのでついていってみた。
「とりあえず、ここを使ってくれ。手間ができたらあんたらの小屋を作ってやるよ」
イーダが案内したのは洞窟だった。
中に入ると、かなり広い。コウモリみたいな生き物もおらず、草藁が敷かれていた。
「昔、数が多いときはここにも住んでいた。今は若いのが二人っきりになりたいときに来たりする」
うん。そんなこと知りたくもなかったよ。勝手によろしくやってろや。
「感謝する」
「草藁が欲しいときや交換したいときは言ってくれ」
イーダたちはペガサスをウェルカム。せっせと洞窟を整えてやった。
どうなることやらと思ったが、ペガサスたちはここの環境に満足している。自由に走り、自由に飛び、雪が降っても元気で、春には仔を産んだ。
ほんと、獣は盛んである。
「名前をつけてくれ」
「親がつけたらいいだろう」
なんでオレにつけてもらいたいんだ? てか、お前の名前も未だに知らんのに名前なんて必要なのか?
「男か? 女か?」
「男だ」
「じゃあ、セイヤだ。勇敢なる男の名前だ」
漢字では呼ばないことにする。いろいろ厄介なことになりそうだからな。
「この仔もつけてくれ。女だ」
「んー。じゃあ、カグヤだ。異界人の世界で有名な名前だ」
ペガサスにつけていいのかわからんが、まあ、嫌な感じはしてないのでセイヤとカグヤに決定しました。
二匹──いや、二人は元気に育ち、一年もしないで成体と変わらない体になってしまった。
「オレは相変わらずだけどな」
成長はしていると思うんだが、未だに百四十六センチを突破しない。全然幼さが消えてくれないよ。
「完全に人の成長速度じゃないよな、これ」
お前、いったいどんな種族なの? 人間の四、五倍は成長速度が遅いように感じるんだけど。四、五百年生きるとかないよな?
「これは、本格的に人生設計を考え直さないといかんかもな」
人間社会で生きるのは望まないが、必要なものを揃えようとするなら人間社会に行かなくちゃならない。この世界の技術がどれほどのものかも知りたい。
可能なら異界人とも会って情報交換がしたい。同じクソ女に拉致された者同士ならわかり合えるような気がするしな。
「マリーダ! 山の向こうに人間が来たぞ!」
湖で釣りをしていたらペガサスが慌てて降りて来た。
山の向こうとはオレが最初に住んでいたほうだ。あそこはちょっとした草原で、春から秋にかけてペガサスが食べられる草がなっているそうだ。
「去年、オレが殺した人間の仲間か?」
「ああ。プラガン帝国のヤツだ」
帝国ね~。いったいなにを求めてやって来たんだか。碌でもないことは確かだろうがよ。
「数は?」
「二十から三十だ。魔法戦士と魔道師もいた」
魔道師? 魔法使いではなく?
「皆は逃げられたか?」
「ああ。今は遠くから見張っている」
ペガサスの視力はかなりよく、三キロ先のモグラを見つけられたりするのだ。
「わかった。オレが殺しに行くよ」
カスの仲間はカスでしかない。話し合う価値すらない。みつけたら殺していい存在だ。




