第14話 印呪
なんというか、前の世界よりファンタジーをしてねーか、 この世界?
「まさか、お前らの種族にも異界人が生まれたとかないよな?」
「生まれた。わたしたちはその末裔でもある」
あ、あのクソ女、酷いにもほどがあんだろう! せめて人間に転生させてやれよ! 前世の記憶を持たせてペガサスに転生とか、罰でしかないだろうがよ。
……いや、オレも人間ではない種に転生したかもしれないんだったな……。
「我らも誇り高きリュージュ族。同じ異界人の血を持ちながら人間に家畜とされた」
まあ、魔法が使えようと空を飛べる魔法はない。オレが知らないだけかもしれんが、チートな能力をもらわなきゃ無理だろう。移動手段としてペガサスを利用するのも自然な流れだろうな。
「そういや、前の世界に奴隷紋とかあったな。あれの類いか?」
「人間たちは印呪と呼んでいた」
「印呪ね。どこかに刻まれたのか?」
「首に刻まれたが、印主が死ねば印呪は消える」
首を見せてもらったら毛が一部禿げていた。ヒーリングで治るかな?
「なにはともあれよかったじゃん。次は人間に捕まるなよ」
去ろうとしたら後ろで縛っていた髪を噛られた。なんだよ? 体の持ち主だった少女のために髪は大切にしてんだから止めろよな。
「助けてくれ。まだ仲間がいるのだ」
「やだよ。オレになんの得もあるわけじゃないんだから」
オレは正義の味方でもなければ動物愛護団体でもない。ペガサスが滅ぼされようと知ったこっちゃないんだよ。なんの情もないしな。
「その男には仲間がいる。戻らねば不審に思いやって来るぞ。今なら奇襲ができる」
確かに言われてみればそうか。あんなカスがのさばっていたら不愉快でしかないもんな。
まあ、ヤツらが帰らない場合、調べに来るだろうが、脅威と感じるまでは少人数だろうし、雪の降らない時期にしかやって来れない。ナポレオンのロシア遠征より厳しいだろうよ。
「仕方がない。さっさと殺しておくか」
テレキボードを引き寄せ、黒煙が上る場所へと向かった。
ペガサスに騎乗したヤツが何人か見えるが、こちらに気づいてはいない。あのカスのように自分たちより強い者はいないと慢心しているんだろうさ。
気づかれる前にテレポして、騎乗する男の背後に現れ、ナイフで首をかっ切ってやった。
悲鳴も物音も立てさせない。死体を地面に寝かせ、次のカスを背後から襲った。
村を襲い、一段落しているのだろう。気が抜けたヤツらばかりだ。
攻撃魔法も敵を認識して、魔法を発動させる。咄嗟に撃てるものはよぼどの熟練者か小さな魔法ぐらい。デカいのを放とうとしたら数十秒は必要になるのだ。
対人戦なら小技で充分だし、剣で戦ったほうが早いだろうよ。オレはそれを疎かにしたから負けたのだ。いや、ゴブリン駆除なんだからそんなことさせるクソ女が間違っているんだがな。
カスどもは十二人。どいつもいい装備をしている。エリートがなんでこんなところに来ているのやら。絶対、碌でもない理由だろうよ。
「襲撃は得意でも襲撃されるのは苦手なようだ」
オレもどちらかと言えば襲撃するほう。堂々と戦うなんてまっとうなことはしない。別に戦いに喜びを感じる質じゃないんでな。確実に殺すことを重要視するタイプなんですよ。
死体を集め、剥ぎ取れるものは剥ぎ取ってやった。
「こいつら、こんな僻地にまで金を持って来てんだな」
使う場所などないだろうに、重い金貨をたくさん持って来ている。全部合わせたら百枚にはなりそうだ。
今の段階でオレに価値あるものじゃないが、この世界でも金は希少金属。百年後も価値に変化はあるまい。数百年生きる長命種だった場合を考えて貯めておくとしよう。
「鎧も空気に触れないように保存してたら歴史的価値が生まれるかもな」
それまでには死にたいものだ。全生命体が死滅しても自分だけ生きてるとか辛すぎだろう。オレは百年も生きたら充分だわ。ただでさえ三十年以上は生きてんだからよ。
「魔石もあるか」
胸を裂いたら爪先ほどの青い魔石が出て来た。
「人間に容赦しないのだな」
「道徳心のない人間なんてゴブリンと同じ。殺したところで欠片も感情は動かないよ」
やっていることはゴブリンと同じ。罪悪感もグロさもない。ただの生ゴミだ。
「仲間はどうだ?」
「印呪は消えて解放された」
それはなにより。大自然で繁栄してください、だ。
ペガサスがどうなろうと構わない。村がどうなったかのほうが気になるよ。使えそうなものがあるならいただきましょう。
鬼畜と罵りたいのならお好きにどうぞ。毎日毎日ゴブリン駆除をしてみろ。人間らしさなんてなくなるから。三年以上生きていて人間性を失わないヤツがいたらそいつは聖人だよ。誰が認めなくてもオレが認めてやるさ。
「皆殺しか」
だろうとは思っていたが、なかなか残酷に殺して回っていたものだ。なにが楽しいのかね? オレにはわからんよ。
変な病気を撒かれても困るので、死体は集めて燃やした。
「次はいい人生であることを祈るよ」
まあ、どんな時代でも生きることは大変だろうがな。




