プロローグ 花鳥風月
この世界には、四つの国があった。
花の香りに満ちた、命を育む花国。
空の高みから未来を見つめる、歌の民の鳥国。
風を読み、草原を駆ける勇者たちの風国。
そして、夜の静けさに包まれ、記憶の魔法を操る月国。
この四つの国は、かつて遠い祖の時代に争いを繰り返していた。
だが、四祝──花・鳥・風・月の霊たちが地に降り、各国に力と「結びの道」を授けてから、世界は穏やかな均衡を保つようになった。
それは、政による盟約。
祭事と、婚姻と、霊力の循環。
四つの国の巫女たち、姫たち、そして神官たちは、己の運命を国家の礎として捧げてきた。
花国は生命を司る地。人々は大地を耕し、花と共に暮らす。
癒しの術に長け、他国からは“再生の地”と呼ばれる。
治癒と希望の象徴として、姫は巫女を兼ね、春の祭りを司る。
鳥国は高地に住む。鳥と共に生き、星の道を読む。
予言と伝承の国。歌と風に乗せて未来を語る。
鳥を従える巫女たちは“空の使者”とも呼ばれる。
風国は広大な草原と峡谷の国。騎馬と武の文化が誇り。
風の流れを読む者は、戦いの吉兆を告げ、軍を導く。
巫覡は戦の祭司であり、風を呼ぶ舞を踊る。
月国は水と霧の国。静寂と記憶の地。
月を信仰し、真理と記録を重んじる人々が暮らす。
記憶に触れる術を持つ者たちは、真実と謎を司る。
四つの国は、互いに干渉しすぎぬよう距離を保ちつつ、霊力の均衡を守り続けてきた。
だが、それも永遠ではなかった。
始まりは、一つの出会い。
そして静かに、均衡は崩れはじめる──。