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02 準備



 異世界転生の準備が進む。

 妹があちらの世界での星那の肉体情報を作り、兄貴がその素材となる材料を集めてくる。

 両親は異世界転生のためのストーリー作り。

 祖父母は神様への謝罪のために神社へ。

 そして俺は……兄貴とある池に来ていた。


「はい。それでは今日は、ここで外来種の駆除をしていきたいと思います」


 兄貴がカメラの前で淡々と話している。

 動画配信だ。

 兄貴は猟師&外来駆除専門で動画配信のチャンネルを持っている。


「今日は銃じゃなくて釣り竿と網でバンバンやっていきます。あっ、手伝いで弟も来てます」


 ほんとに淡々としてる。

 この後は特に説明もなく、頭にカメラをセットしてひたすらに取っていく。

 それなのに、そこそこ人気があるんだよな。

 不思議だ。

 そんな俺はカメラ外の離れた場所で、ダンジョンマスターな能力を使って網で捕まえていく。

 ほんと、やろうと思えばヒーローコミックみたいなこともできるけど、俺たち一家はそんなことをしない。

 してはいけない。

 この能力はダンジョンマスターとして必要な時にしか使っちゃいけない。

 理不尽だよな。

 だってあの時、俺が迷わずに使っていれば、星那は死なずに済んだはずなんだ。

 それなのに、迷ってしまった。

 その間に星那は死んで、俺はその後悔を消しきれなくて、結局、あいつの魂を異世界になんて送ってしまった。

 輪廻転生はあるのかもしれない。

 あいつはまた、別の命に生まれ変わって、新しい人生を生きられるのかもしれない。

 そう思ったけど、我慢できなかった。

 あいつの人生……木迷星那の人生があんな終わり方なんて嫌だったから。

 例え住む世界が変わっても、ちゃんとあいつとして人生を送って欲しかった。

 だから俺はこの池で、大量の外来種を捕まえている。

 ブラックバスとかミドリガメとか、アメリカザリガニとか……。


 え? これが本当に役に立つのかって?

 ちゃんとなってるんだろうな。

 理屈は聞かんでくれ、俺にもわからん。

 でも、ちゃんと作れるんだ。

 これらでドラゴンだって作ったことがあるぞ。

 ただ、苦労の割に使える場面が限られてるからあんまり作らないけどな。


 そんなわけで、動画に見せる用のブラックバスだけ並べて、残りは軽トラックに積んだどでかいボックスの中に放り込んでいく。

 兄貴が動画を撮り終えて、帰還。


「報告は終わったぞい」


 夕飯時。

 神主と巫女姿の祖父母が帰って来た。

 うちは神社もやってるんだ。


「どうだった?」


 座卓の上座にどっかと座った祖父に、親父が酒を注いで渡す。


「うむ……」


 それを一息で飲んでから、祖父は俺を見た。


「許された。が、さすがにただとはいかんかった」


 最初の言葉でほっとした俺たちが、後半の言葉で緊張する。

 神様に見放されたら、俺たちはダンジョンマスターの仕事を取り上げられる。

 生活をしていく手段は他にもあるかもしれないが、家業として長く続けていた仕事を取り上げられるのは精神的にきつい。

 その空気が居間に充満していた。


「タクト。お前本当に、あっちの世界で星那ちゃんの世話をするんだな?」

「ああ、もちろんだ」

「なら、しばらくは……もしかしたら死ぬまで帰れんかもしれんことになるが、いいな?」

「お義父さん⁉ それは!」


 母さんが悲鳴を上げる。

 だけど祖父は、それを無視して俺を見続ける。

 俺も目を離せなかった。


「今回のことを不問にする代わりに、タクトに仕事が与えられた」

「それは?」


 聞いたのは親父だ。


「チートスキルの回収だ」

「うわっ……」


 今度は妹が声を上げた。


「あいつら厄介だもんね。無駄にダンジョン荒らすから」


 チートスキル。

 まず、前提として……ダンジョンのある異世界にはスキルという概念が存在する。

 特殊な能力には名前が付けられ、保持することができる。

 努力によって身に付くこともあれば、ダンジョン内の報酬として見に付くものもある。他にも手段はいろいろだ。

 なにしろスキルは、別に戦闘に限ったものじゃない。

 あらゆる生物が活動する際に得られた能力の全てに名前が付くのだ。

 料理が上手ければ料理。

 字が上手ければ筆記……という感じにだ。

 そして、チートスキルというのは、普通に生きているだけでは絶対に手に入らないような能力のことを指す。

 その効果はいろいろだ。


「……しかし、異世界転生したならチートスキルはロマンだ」


 と、やはり淡々と兄貴。


「そりゃ、自分がプレイヤーならねぇ。あっ、でも星那ちゃんはプレイヤー側になるのか」

「……返還するタイミングは?」

「それは任せる。まぁ、場合によっちゃ死ぬギリギリまで持っておってもええ」

「ポイントを稼ぐのか?」

「ポイントもあるが、まぁ、神様側の事情だな。それにうちのダンジョンで変換すれば、別のスキルに変えてやれんこともない」

「そうか。じいちゃん、わかった。目標ポイントは?」

「一万は欲しいな」

「一万! チートスキル何個集めればそんなに溜まるの⁉」


 さっきから出ているポイントってのは、ダンジョンを運営する上で特殊なことを行うために必要な力を数値化したものだ。

 これで、例えばダンジョンの目玉になるような特殊な武器や防具を作ったり、あるいはそれこそ、チートスキルを伝授するアイテムや試練を用意したりもできる。

 ダンジョンそのものやモンスターを作るのは、兄貴とやっていた外来種集めとか、畑でできた農作物……しかも農協に卸せない形のおかしい野菜なんかでできる。

 普通にポイントを貯めようとすると、一万ポイントなんて気が遠くなる数字だ。

 俺がダンジョン運営に関わるようになってから、一年で十ポイントも稼げれば良い方ぐらいだ。

 だから、ダンジョン運営しているだけだと、一万ポイントを貯めるなんて千年もかかるような大事となる。

 だけど、外でチートスキルを集めて、それをポイント還元すれば、短縮はできる。

 それでも、人生をかけるぐらいの時間は必要になるかもしれない。

 こういうのは出会いもあるだろうから、うまくいくかどうかわからないが。


 うん、これは本当に……もうこっちには戻れないかもしれないな。


「やるしかないんなら。やるだけだよな」

「やるか?」

「やるさ」

「よし!」


 祖父が膝を叩いた。


「なら、いまあるポイントはお前らに注いでやろう」

「親父、それだと外に出るのに問題がないか?」

「なぁに、抜け穴なんかいくらだってあるぞ。ちょうどいいからお前に伝授してやろう」

「なんだよそれ、聞いてないぞ」

「気付かんお前が悪い」


 祖父と親父が親子の会話をしている。

 祖母と母が泣きそうな顔で俺を見ている。

 兄貴は淡々と飯を食い、妹はデザイン帳に鉛筆を走らせてニヤニヤしている。

 ああ、これを見れるのも、後少しなんだろうな。

 だけど俺は、俺がやらかしたことの責任を果たす。

 星那を一人にしない。

 それだけだ。




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