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第四話 「騎士」

 広間を出た先は薄暗い廊下だった。

 石壁に耳をつけ、軽くコンコンと叩く。

 研ぎ澄まされた俺の耳は、音の反響で洞窟の大体の構造を把握した。

 いわゆるエコーロケーションというやつだ。

 屋敷などに潜入するには便利なのだが、壁に含まれる石や土の組成がバラバラなので返ってくる音も乱れてしまい自然の洞窟では大体の位置関係しか分からない。

 もっと大きな音を立てれば詳細が分かるかもしれないが、それではここにいるぞとバラしてしまうようなものなので大体分かればそれでいい。

 どうやらこの先は十字路のような道が複数分岐しており、それぞれの道の突き当たりに部屋があるようだ。十数メートル先まっすぐ進んだ突き当たり部屋が最も大きい部屋なので団長のものだろう。


 さて、あれ(・・)を使うか。

 俺は背負っていた袋から骸骨の飾りが付いた銀の指輪を取り出し、唇を近付けて囁くように呪文を唱えた。


 「ーーー来たれ、『アシュハッドの騎士』よ。来たりて生者の息を求めよ」

 

 すると骸骨の目が赤く光り、細い灰色の煙がその口から静かに漏れ出て一方向に流れ始めた。

 洞窟の奥へのみ。

 よし、脇道に生存者はいないようだな。

 そう確認すると再び指輪をしまい、俺は静かに洞窟の奥に歩き出した。

 これは『死騎士の指輪』という道具で、一定範囲内の生物の呼吸に反応して煙を出す魔道具(マジックアイテム)だ。

 対象が遠いと人数が判らないし一定以上の大きさの呼吸でないと反応しないのが欠点なのだが、小さい頃から魔法に憧れていた俺の持つ数少ない魔道具(マジックアイテム)なので、割と気に入っている。

 

 しかし、どうしようか。

 俺は再度迷っていた。

 ここまで来る間に強い奴がいなかったということは、この先に元騎士がいる可能性が高い。

 無駄な戦闘を避けてここら辺の小部屋に隠れ、今のうちに解呪にとりかかるべきだろうか。

 

 いや、解呪の間は殆ど無防備な状態になってしまう。

 それに、俺に施されているような規制型の呪いには解呪難易度の基準の一つとして、「禁忌率」というものがある。

 条件に従えば従うほど「禁忌率」は下がり、逆らえばその分「禁忌率」は上がるのだ。

 この場合は出来るだけ敵を倒した方が試験の内容に従う=合格に繋がることになるし、不意の遭遇を避ける意味でもさっさと進むべきか。

 試験官たちが想定しているタイムより早く残りの盗賊を戦闘不能にし、解呪しよう。

 そうと決まれば全速力だ!

 

「『影踏』!」


 数歩で最奥の扉まで辿り着いた俺は扉に耳をつけた。

 すると、何やら言い争うような声が聞こえてきた。


「ジェイッ!話が違うじゃない!私はその子をアリステラに逃す準備ができるまで匿うように依頼したのよ!それを人身売買ですって?!」


「落ち着けよエスシアぁ。お前が大っ嫌いな俺なんかのとこに来たってことはよぉ、他の奴はいくら金を積んでもこんな薄気味悪ぃガキ預かっちゃくれなかったんだろぉ?それをよぉ、今まで元同僚のよしみで預かってやってたんじゃねえかよぉ」


 若い男女の声だ。

 片方が女の声で、もう片方が間伸びした男の声。


 扉の四隅を見ると、どうやら外開きのようだ。

 少しずつ力を入れ、そっと開けようとしてみる。

 すると、音もなくすんなりと開いた。

 俺は出来る限り姿勢を低くして中を覗き見る。

 こんな洞窟には似合わない立派な書斎だ。

 突き当たりに大きな机があり誰か座っているようだが、甲冑姿の人物がその前に立ちはだかっているためこちらは見えない。

 座ってるのがジェイって男で、女がエスシアか。

 エスシアの水色のポニーテールが声を出す度に揺れて、ジェイの顔がよく見えない。


「…『アシュハッドの騎士』よ」


 俺は『死騎士の指輪』に口付けるように囁いた。

 すると煙が三筋流れ出し、いや二筋か。

 ん?今煙が一つふっと消えたような…?

 …まぁ、長く使ってるし故障かなんかだろう。

 そう言うポンコツなとこも気に入ってる。 

 骨だけに。ふはは!


 俺は深く考えずにするりと扉から部屋に侵入した。

 うお、結構広いなこの部屋。 

 山賊の癖に贅沢な。


「何が元同僚のよしみよ!部下だった騎士見習い達と私にイタズラしようとしたのが現行犯でバレて除隊されたから山賊なんかやってるんじゃない!それにお金なら前金で十分に渡したでしょ?!」


「おおっと、そうだったっけなぁ。ま、金のことに関しては俺が悪かったぜぇ。でもよぉ、嘘ついたのはお前も同じだよなぁ?「無害な娘」だって聞いたから預かったんだぜ?ウチの可愛い部下がもう二人もそいつにやられてんだよぉ。ちょっとからかってやろうとしただけで可哀想によぉ」


「危害を加えようとしなければ本当に無害なのよ!もしかして、あんた達年端もいかない子に手を出そうとしたの?!」


「いや、俺だって止めようとしたんだぜ?でもお頭やるのだって大変なのよぉ。少しくらい味見させてやらなきゃあいつら馬鹿だからすぐ裏切ろうとしてくるし、その度に切り刻まなきゃならねぇ俺の気持ちにもなってみろよぉ」


 なるほど。

 ジェイが元騎士のお頭で、エスシアが子供を匿ってもらってた騎士ってわけね。

 騎士が二人とは厄介な。

 …あれ、子供なんて見てないけどな。

 『死騎士の指輪』にも反応なかったし。

 もしかして瀕死とか?


「それに、本当にこんな呪われたガキを逃がしてくれるお人好しがこの国にいんのかよぉ?利用できる内はさんざん「聖女の卵」だの「奇跡の子」だのもてはやしといて、危険だと分かったらすぐに掌返して処刑と来やがる。教会にも貴族にも冒険者ギルドにもどこにも、もうそいつの味方はいねぇだろうがよ。それよかなーんにも知らない奴隷商人に渡してやった方がいくらか生き延びる確率も上がるだろぉ?」


「ギ、ギルティラット卿が必ず逃がすと約束してくださったのよ。暗殺者ギルドに確かな伝手があるからって…」


「ぎゃはは、信じられねぇ!よりにもよってあのクソネズミかよ。それも暗殺者ギルドなんて御伽噺だろ、…ッて危ねぇ!」


ーーーキィィィン!


 女騎士(エスシア)が動揺からか少し体をずらした瞬間に俺の放った短剣が、クルクルと弧を描いて空中に弾かれた。

 チッ、不意打ちのはずだったがやるな。

 いつの間にかジェイの手には抜き身の剣が握られていた。

 …いや、エスシアを襲うタイミングを計って机の下でずっと剣を握っていたのかコイツ。

 下衆な考えで偶々命を拾ったようだ。


 エスシアはというと、ただただ目を見張って固まっているだけだった。

 急な襲撃者の登場への驚きと、今まで会話をしていた相手が机の下で剣を握っていたことによる二重のショックで動けないでいるらしい。


「エスシア敵襲だ!お前も剣を構えろッ!」


 おお、コイツ優秀だ。

 普通の盗賊なら「誰だお前!」とか無駄な問い掛けをしてくる間に二、三回殺してやれるのだが、油断なく剣を構えつつ、瞬時の判断でエスシアを味方戦力に加えようとしてる。

 顔を見ると脂ぎった黒い長髪を腰あたりまで伸ばした、細目で狐顔の痩せた男だった。

 

「き、キミは誰なの?」


 一方のエスシアは残念な子のようだ。

 呆然とした表情で武器も構えず、意味のない質問をしてきた。

 だが、問われたからには答えてやろう。


「俺はヴィルヘルム。暗殺者ギルドから来た。」

 

 その一言を聞くとジェイは瞬時に移動し、エスシアの後ろに隠れた。

 そして剣を振りかぶる。

 それはエスシアの水色の頭に向けて迷いなく降り下ろされた。

 エスシアはそれにも気付かず、まだ訳がわからないといった顔をしている。


「『影踏』」


 しかし、ジェイの剣は間一髪で俺の振り上げた短剣に阻まれた。

 そしてそのままエスシアを横に蹴り転がす。

 悪い人じゃなさそうだが、突っ立ってられると邪魔すぎるからな。

 

「エスシアぁ!裏切ったな手前ぇ!」


 ジェイはすぐさま剣を構え直し、俺に目を向けたまま怒声を上げた。


「…え?私も何も知らないわよ!でも、もしかしてギルティラット卿が本当に…」


 エスシアは何事かブツブツと独り言を言っていたが、そんなやつ知らん。

 というか多分そいつの依頼でこの洞窟の皆殺しが命令されてるんだと思うぞ…。

 いや、あれおかしいな。

 じゃあなんで正規の構成員でもない俺の、しかも入団試験なんかにそんな任務が来るんだ?

 な、何だか嫌な予感がヒシヒシとするなぁ。

 俺はジェイから放たれる高速の三連撃をひょひょいと躱すと、心の中で深い溜息をついた。

 

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