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橋が架かる

作者: 雉白書屋

 橋が架かる。橋が架かる。

 島と本土を繋ぐ白く大きな橋。

 その橋の上、中央で並び手を握り合う市長と島の長。それに国会議員。

 赤いテープに鋏の刃を当て、頭上にはくす玉。さらにその上は分厚い雲。

 開通式は生憎の曇り空。

 未来を暗示、先行き不安などと思っても口にせず。

それもそのはず。橋は島民の先祖代々の宿願であった。


 無論、これまで島から本土に渡った者がいないわけではない。

橋がなくとも船は出ている。日に数回の定期便だ。

 目的は主に学業。高校に通うため。

 島の学校はたった一つしかない。小中併置校。それも小さく、一つ屋根の下。

尤も、そこに通う子供の数も知れたものだから問題はない。

ただ、盛りがついた者をとどめることはできない。

 

 日用品は船に載せ纏めて届く。自給自足もできている。

ただ飢えた想いだけは海を眺めているだけでは満たせぬ。

 母なる海。いいや、海は海でしかない。

 ましてや魚ならいざ知らず、人間なのだ。

 海から陸に上がり、人となった我々だ。海では生きられぬ。

 年々、島は波に削られ、心もまた削られるようで閉塞感を抱く。

 無論、微々たるものだ。ただの気のせい。

 とも言い切れない。

 飢えた想いは血に刻み込まれている。


 過去。島の者が抱いた閉塞感。島に人が増えればそれは加速的に。

 ポツポツポツと。やがてドバドバと。

 島には人がやってきた。

 ハムスターも狭いと感じれば殺し合う。

 ネズミ以下とされた者たちなら尚の事。

 笑い笑い、怒り怒り、殺し殺し、そしてまぐわった。

 また人が来れば殺し殺され奪い奪われ犯し犯されを繰り返した。

 

 海は海。太陽は太陽。月は月。

 人は人。しかし、ただの人ではなく罪人。

 島は島。ただしその島は流刑の島。

 時間は時間。けれども罪人を人に。流刑の島をただの島に変えた。

 

 現在。ついにその島に橋が架かった。

 笑みを浮かべて手を叩く。

 忘れ去られた島の役割。

 伝え聞いた者もそれを口にすれば今の時代は自分が迫害を受けることになる。

 口に出すことは許されず。顔に出すことも許されず。

 書くことも許されず。思うことも許されず。

 差別は許さない。人は人だ。

 罪人だったのは遥か昔の先祖だ。

 彼らは同じ人間だ。

 そうやって恐ろしい歴史はコンクリートと共に埋められる。

 上に咲くのは菊の花。そのバッジの奥の懐は潤っている。

 知る者は、他のものと同じく笑みを浮かべ手を叩き

そう恐れることはないと自分に言い聞かせる。

 元々、船は出ていたのだ。橋はただ行き来がしやすくなるだけ。

 ただ、これからは一時的なものではなく常に循環。

 血が行き渡る。

 血は遺伝子。

 遺伝は呪い。

 いずれ口をつく言葉、振りかざす拳は誰の意思か。


 人は人。

 元々、人間は罪深い生き物だ。

 気にすることはなし。

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