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Q.魔法少女である必要はあるのだろうか  作者: ゆうみん
異能少女 推定危険度:未知数
1/4

すべての元凶ここにあり

見切り発車です

――世界の話をしよう。

数十年前に悪のエネルギーを糧とする化物が現れた。その形は様々で動物や虫を象ったものもいれば、超巨大な怪獣や可愛らしいぬいぐるみとして出現する時もある。化物には共通点があり、一つは【核】と呼ばれる弱点があること。もう一つは、人の悪感情を狙って襲いかかること。人は化物共を、人類の絶対的な敵勢力として【ヴィラン】と呼んでいる。

──魔法少女の話をしよう。

ヴィランと同時期に現れた存在。現代科学兵器が一切効かない化物共へ唯一対抗できる存在。可憐な衣装を身に纏い、様々な魔法を使ってヴィランを屠っていくその姿は、かつて物語で活躍した彼の者たちと酷似していた。当初は化物と同様に危険視されていたらしいが、変身して人々のために立ち向かう同じ人類だと世界へ向けて声明が発表されてから、人類最後の希望として人気を博した。現在では各国の政府機関や世界魔法連盟の手厚いバックアップを受けながらヴィランを倒しつつ、世間にはヒーローでアイドルな存在として受け入れられている。


最後に。

──私の話をしよう。

危険度A級ヴィランの侵攻により街が滅ぶことは、昨今あまり珍しいことではない。その一つが私の故郷だった。逃げ遅れてヴィランに見つかった私は、あまりの絶望に現実を受け入れられず、全てを拒絶し塞ぎこんだ。

ありとあらゆる知覚感覚意識など諸々を内側へ向けた結果、自分の中に渦巻く()()に気が付き、何気なく()()()しまった。

それからは記憶が途切れ途切れであまり覚えていないが、自分を中心として吹き荒れる()()が周辺被害を大きくして、A級ヴィランは擦り切れて消えいって。いつの間にか気絶していたのか、気づいたら辺りが更地になっていた。

呆然としたけど、相変わらず自分の中に燻るものを感じて焦った。とりあえずその場を離れて避難先に転がり込んだはいいものの、大人たちはA級ヴィランが突然消滅したことで大混乱に陥っていた。その原因が自分にあるとバレたら――。そう考えると怖くなって縮こまることしかできなかった。

私は魔法少女ではない。五歳の頃に受けた適性検査で素質無しと判定が下されたから、魔法の力を使うことはできないはずなのだ。なのに、あの現象を引き起こした。今でも体の中でぐるぐると蠢くこの力は、魔法の力でないのなら、一体何なのか。

誰に言うこともできず、家族と会えるまでただただ震えていた。

被害の全容が明らかになった時、両親は瓦礫の下敷きになり死亡したこと、姉は行方不明者リストに名を連ねたことを知った。私は一晩にして災禍孤児となった。

建造物だけでなくライフラインまで破壊された街では生活できないため、住人たちは引っ越しを余儀なくされた。ヴィランがいつ出現するか分からない状況では、重要拠点以外は再建するより放棄することが効率的だった。私たちの街は事実上滅んだのだ。

避難所での生活は誰もが自分のことで必死だったから、隙をついて抜け出すことなんて簡単だった。優しくしてくれた職員さんたちには申し訳なかったが、それ以上に抱えた秘密が大きかった。何となくだけど分かる。この力が知られてしまったら、危ないって。


新星歴三十二年。夜守(やもり)小鳥(ことり)、十二歳。

故郷と、自分の罪から逃げ出した。






****






あの時はただ街から離れたい思いで行動していたから宛先などなく、ただバレてはいけないと警察などの公的機関に助けを求めることもしなかったため、当然力尽きた。たった十二歳の小娘にできることなんて少ないって分かりきっていたことだったけど、思考が正常じゃなかった私はただただ進み続けた。

そして倒れた先で親切な女性に介抱して貰い、なし崩しに匿ってもらうことになった。迷惑がかかるからとこっそり出ていこうとすれば、なぜか先回りされて家まで連れ戻される。そんなことを数回繰り返した後、この人から逃げることは無理だと理解して大人しく居候させてもらうことにした。

明らかに訳アリの子どもを引き取るような強かな女性───篠宮(しのみや)杏奈(あんな)さんは、対ヴィランの政府組織に属する研究者だったらしい。組織の在り方に疑問を覚えた杏奈さんは研究機関を辞職し、直後放たれた追手を撒くために廃区―――放棄された住区、人類生存圏外―――に身を潜めて、独自で研究を続けているそうな。奇跡的にライフラインが生きていた廃区を見つけて好きに改造した結果、ハイテクな空間になってしまったと笑っていた。


一緒に過ごすうちに私も杏奈さんになら、と思って故郷、大柳町(おおやなぎちょう)で起こったことを細々と説明した。かなり支離滅裂になってしまったが、自分の中に魔法の力のようなものが宿っていること、A級ヴィランを消したこと、周囲を更地にしたことなどを伝えた。どういう反応が返ってくるか怖くて仕方がなかったけど、私の話を聞き届けた一言目が「興味あるから調べさせて」だったのが杏奈さんらしくて笑ってしまった。この人はどこまでも研究者なんだなって。

もう一度魔法少女の適性検査をしたり、魔法力を測定してみたりと様々な検査を行った結果、魔法力とは違うが酷似しているエネルギーを宿しているということが分かった。そもそも魔法力とは、宿主である少女の適性能力を具現化する力である。魔法力を消費して具現化したものが魔法と呼ばれており、炎であったり水であったり、剣などの武器や転移能力など多岐にわたる。魔法少女の適性検査ではこの魔法力が備わっているか、という一点において判断される。魔法力があるのはだいたい女性である傾向があるため、五歳になると検査が義務付けられている。もちろん私も七年前に受けたが魔法力無しという判定を受けたし、杏奈さんに再度調べてもらった結果も魔法力無しだった。

しかし試しに私に宿る力を魔法力と仮定して魔法へと変換できないか、という実験をしたところ、これができてしまったのだ。複数の魔法を展開した時は流石に杏奈さんも声が出せないようだった。

魔法へ具現化できたのであれば魔法力でいいのではないか?と考えるだろうが、ここで大事になるのが、魔法は基本的に一人につき一つしか具現化できないという点だ。

宿主の適性能力を具現化したものが魔法であると言ったが、正確には最も適性のある能力を具現化されるのだ。魔法力は宿主の適性に染まってしまうため、一人が二つ以上の魔法を使うことは基本的にあり得ない。

そして最も大事な点が、変身についてである。

魔法少女は変身をしなければ、その能力は一般的な人と同じだったりする。この変身という行為が、普段は宿主の()に溜め込んである魔法力の解放キーとなり、魔法力が()へ出ることで魔法へと変換される。

魔法少女の衣装はデフォルトで備わっている防衛機能であり、適性能力へと消費される魔法力とは別に、鎧である衣装へも魔法力が注ぎ込まれている。これはヴィランからの攻撃を防ぐだけでなく、常人では扱うことができない魔法から宿主を守る役割も果たしている。

つまり、魔法力を持っているか。変身して魔法衣装を纏うことができるか。魔法を使うことができるか。の三点ができて初めて”魔法少女”と名乗ることができるのだ。

私の場合を思い出してみると、何らかの力は宿っているが、変身していないため魔法少女ではないし、魔法衣装を纏わずに使える力は魔法力ではない、という結論に繋がるわけ。


さてさて。

この力を杏奈さんは【霊力】、霊力を練って使う技を【異能】と名付けた。私に宿る霊力は魔法力と違って、いくら消費してもすぐに回復する特性を持つようだ。それは霊力が宿主以外のところから供給されているからじゃないかと杏奈さんが呟いていたけど、とりあえず危険じゃないって分かったからそこまで怖がることもなくなった。

前までは霊力が体を巡る感覚があるだけで過呼吸になったり情緒不安定になったりして、その度に杏奈さんに迷惑をかけていたから。それに比べたらだいぶ良くなったと思う。まだあの時のことを夢に見て跳び起きることはあるけど。

そんなわけでやっと人並みの生活が送れるようになったのが半年経った頃。そろそろ何か恩返しをしなきゃって思って、杏奈さんに相談してみたら。

『じゃあ、核が欲しいな』

そういってニッコリと笑うものだから。顔が引きつってしまったのも仕方ないと思う。

それからというもの、元魔法少女であり研究者である杏奈さんに師事しながら、研究に必要だと言うヴィランの【核】を採取する日々が始まった。核を手に入れるには、ヴィランを倒すしかない。だから霊力の制御を死ぬ気で頑張ってヴィランと戦った。いくら杏奈さんがいるとはいえ()魔法少女は現役と比べて魔法力が格段に弱くなっており、E級ヴィランをやっと倒せるくらいの力しかない。文字通り命懸けで杏奈さんを守りながら戦う日々は、それはもう精神的に擦り切れて消耗したけど、こんな私を拾ってくれた彼女に恩を返せるのだから、それに勝るものはなかった。


そうやって過ごしているうちに、気づけば一年が経っていた。


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