令嬢たちに絡まれました
王宮の中庭に行くと、今日も美しい月が出ていた。私が過去に戻ったデビュータントの日と同じように。
「あの日から、まだ、半年もたっていないのね…」
あの日間違いなく私は、二度と失敗を犯さない。今度こそ何が何でも幸せになって見せると心に誓った。辛い過去を忘れる事は出来ないけれど、少しずつ前に進んでいければ、そう思っていたのに。
「どうしてヒューゴ様は、私にあんなにも執着するのかしら?一度目の私が求めていた時は、見向きもして下さらなかったのに…」
6年間、いいえ、初めて出会った14歳の時から10年もの間、ずっと求めていたヒューゴ様の愛。その愛情は、私に向けられることはなかった。だから今回の生ではヒューゴ様を忘れて、幸せになりたいと思っていたのに…
今の私には、ヒューゴ様を受け入れる事など、到底できない。私は結婚してからの6年間、王妃と言う立場から、友人や両親たちともほとんど会う事が出来ず、唯一見方であるはずのヒューゴ様にも無視され続けて来たのだ。
あの時の辛さは、絶対に忘れない。だから、どんなにヒューゴ様から私への想いを言葉で伝えられても、彼を受け入れる事は出来ないのだ。
「とにかく、なんとかしてヒューゴ様に諦めてもらわないと…」
その時だった。
「ねえ、どうしてあなたはいつも、私たちの邪魔をするの?どうしてお妃候補に名乗りを上げていないあなたが、殿下と最初のダンスを踊るの?おかしいわよね」
ふと声の方を向くと、令嬢が4人立っていた。この子達、お妃候補に名乗りを上げている子たちだわ…
「マリア様、あなた、口では王妃になんてなりたくない、興味がないと言っているけれど、実は殿下に色目を使っているのではなくって?そうとしか考えられないわ」
「そんな…私は本当に、王妃様になりたいとは思っていません。そもそも私は、私だけを見て下さる、たった1人と殿方と結婚したいと考えているのです。ですから…」
「だから一夫多妻制の王族とは結婚しないと言いたげね。そういえばあなた、ディファースティン侯爵家のラアイン様とも、いい感じの様じゃない。随分と身分の高い殿方ばかりに色目を使っているのね。まさか、体を使っているとか?」
「なんて酷い事を言うの?私はそんな事をしていませんわ。そもそもあなた達、これは侮辱行為に当たるはずです。今回の件は、我がレィークス侯爵家から、正式に抗議させてもらってもいいのですよ!」
よく見たら、我が家と同じ侯爵令嬢が2人、家より爵位が低い伯爵令嬢が2人だ。
「べ…別に私たちは、あなたを侮辱しているのではありませんわ。ただ、どうしてそこまで殿下があなたに夢中になるのか、知りたかっただけですわ」
「そ…そうですわよ。それにマリア様、私たち以外誰もいないこの場所で、私たちに侮辱されたと言ったところで、誰が信じるのでしょうか?そうでしょう?」
確かにここには彼女たちと私しかいない。言った言わないの水掛け論になるだろう。
「とにかく、これ以上殿下に色目を使うのは止めて頂けるかしら?目障りなのよ!」
私は別に色目なんて使っていないわ。それなのに、どうしてこんな事を言われないといけないのよ!そういえば一度目の生の時、男爵令嬢のクラシエ様も、こんな風に私を含めた令嬢たちに責められていた。
彼女もきっと、今の私と同じように悔しい思いをしていたのだろう…特に彼女は男爵令嬢だ。自分より身分の高い令嬢たちに酷い事を言われても、ただ耐える事しか出来なかっただろう…
私、一度目の生とは言え、何て酷い事をしていたのかしら…
「ちょっと、聞いているの?」
私が返事をしないものだから、令嬢たちが怒りだした。その時だった。
「マリア、こんなところにいたのか!随分探したんだぞ。あれ、君たちはお妃候補に名乗りを上げている令嬢たちじゃないか。まさかマリアに文句でも言っていたのか?」
やって来たのはライアンだ。
「これはライアン様。こんばんわ。いいえ、ただマリア様と話をしていただけですわ」
「そうですわ」
「へ~、俺にはマリアに色目を使うなとか、目障りとか言っていた様に聞こえたけれど」
「あら、誤解ですわ。さっきも言った通り、ただ話をしていただけですのよ」
嘘ばっかり。散々私に暴言を吐いていたくせに!だんだん腹が立ってきて、文句を言ってやろうと思った時だった。
「そうか、実は君たちの会話、しっかり録音していたんだ。ただ話をしていただけなら、この録音機はマリアの両親に渡しても問題なさそうだな」
ニヤリと笑ったライアン。それを見た令嬢たちは、一気に青い顔をし始めた。
「お待ちください、ライアン様。そのような事は…」
「なぜだ?ただ話をしていただけだろう?マリアの両親がこれを聞いて、どう出るかは俺には分からないがな。とにかく、マリアを侮辱する奴は許さないぞ!さっさと失せろ!」
「も…申し訳ございませんでした」
ライアンが声を荒げた事に驚いたのか、ものすごい勢いで去って行った令嬢たち。
「マリア、大丈夫か?」
「ありがとう、ライアンが助けてくれたから大丈夫よ。それより、よく私の居場所が分かったわね」
「あ…ああ…お前の後を…その…付けていたからな…」
なぜかシドロモドロになるライアン。一体どうしたのかしら?でも、ライアンのお陰で助かった。
「とにかく、もうホールに戻ろう。おじさんやおばさんも心配しているだろうし。それにこの録音機も渡さないといけないからな」
「ライアンったら、本当に録音していたの?」
「当たり前だろう。それよりも、1人で勝手な行動をするな。今日は貴族どもも、たくさん来ているんだぞ。また誘拐されたらどうするんだ!ほら、行くぞ」
ライアンが私の手を握り、歩き始めた。大きくて温かい手…
「ライアン…ありがとう…今日のライアン、あの時私を助けてくれた騎士様みたい…」
ポツリとそんな事を呟いてしまった。
「そうか…それは嬉しいな…お前からそんな言葉が出るなんて…今まで頑張って来た甲斐があったな…」
ポツリとそう呟いていた。
そのまま2人並んで、ホールへと戻ったのであった。




