激しい門
私の家は先日強盗に入られた。幸い物が盗られる前に目を覚まし何とか撃退したが、彼らは去り際我が家の門を突き破って逃げ出してしまった。おかげで門には人一人が屈んで通れるほどの穴が開いてしまった。これでは防犯上全く意味をなさない。なので新しい門を作ってもらうためこの町随一の家具職人のもとへと向かった。
「どうしたなんの用かね」
「いえ、その・・・」
彼は梶仙蔵70歳家具作りの腕は一流だがそのほかはあらゆる面が人以下だ。ゆえに彼の口からは信じられないほどの匂いが漂う。念のためマスクをつけてきて正解だった。
「なるほど、家の門がね。で今家は?」
「親戚に見てもらってます」
「そうかい、でどんな門にするんだい」
「そうですね」
せっかくなら前の物とは一風変わったものに取り換えたい。でも私にはデザインのセンスはないので変わったものといっても特にいい案があるわけでもなかった。
「そうだ。こんなのはどうだい」
仙蔵は紙にさらさらと絵を描き私に渡す。それを見て驚愕した。
「これなんのデザインですか」
「ああこれか、これはな。ここいらをなわばりにしてる京極組ってヤクザで流行ってる彫り物のがらだぜ、これならもう強盗どころか警察もろくに近づかない最強の家の完成よ」
「いや、逆にヤクザに狙われるでしょ、何勝手にうちのデザイン使ってんだって」
「その心配はない。あそこの親分さんはうちのお得意さんだから」
「マジで?」
「マジマジ」
そこからしばらく仙蔵爺さんと京極組との関係について話を聞かせてくれた。どうやら今の組の本部事務所の家具は全部この爺さんが手作りしたそうだ。そんなことを聞きに来たわけではないのにと思っていると私の背後から白のスーツに身を包んだ巨漢が現れた
「爺さん。今空いてるかい」
「取り込み中だがなんだ」
「いや今度組の若いのが婚儀を上げるからそのための贈り物をあんたに作ってもらおうと思ったんだが、悪い邪魔したな」
「いや、いいこのあんちゃんの門を直す話をしてただけだから」
「えっとこの人は」
「あんちゃん知らねえのか、この人が京極組の頭さんだよ」
「えっ」
私は思わず腰を抜かしその場に倒れこんでしまった。そんな私を組長さんは悠々と見下ろしていた。
「これが門のデザインかい」
「その一案だ」
「これはうちの彫り物、あんたうちの組員だったのか」
「いいえ、違います」
「いや、このあんちゃんが先日強盗に入られたらしいんだ」
「ほうそれは聞き逃せない話だな。俺の島で勝手に稼ぎを上げるなんて」
「なら門ができるまでこのあんちゃん家守ってやれねえか、もしかしたらついでに強盗も捕まえられるかも知れねえし」
「ほうそれは。かまわねえかあんちゃん」
「・・・・・・・・はい、ありがとうございます」
「よし、そうと決まれば後で人を送る」
「わしはデザインだな、とりあえず和風と洋風どっちがいい」
「・・・・・・和風で」
「あいよ、料金は後々で」
ビビり上がってうまく動かない足で帰ると早速いかつい輩が数人僕の家の門だったものの前をうろついていた。私は彼らの横を上手く抜け家の中に入り、その日はそれから外にでなかった。そして夜。
「いや~助けてくれ、まさかあんたたちの島とは知らなかったんだ」
「うるせえだまって頭のもとまで来い」
「やめて、せめて警察に連れて行ってくれ~」
近所いったいに響きほどの悲鳴と共に昨日の強盗がヤクザ連中に連行されていた。そしてその悲鳴の発生源がうちの前だったことから、私の家の穴が開いたもんは周りから
「激しい門」
と呼ばれることになった。