第6章~悲劇の翌日、そして吉報~
魔操虫一匹一匹にあてがわれた、土でできたような部屋。そこにはただ何もなく。カブトムシやクワガタムシの蛹の作る蛹室よりも気持ち広めに作られている。
その部屋にいた一匹のカブトムシ…ノブナリは。まだ空に明るみが出てきたころの時間帯に突如飛び起き。息を切らせつつ辺りを見渡した。
まだ静かな時間帯。魔操虫となって以降昼に行動するようになったクワガタムシやカブトムシたちは、未だに眠りについていた。
(…。まだ、あの時の夢を…。)
カブトムシのノブナリが見ていたのは、ホペイオオクワガタのスンパが二本足で立つタカとカラスが合体したような姿を持つ外界生物の急降下攻撃によって犠牲になり、そのまま食われるという光景が映る夢。
目の前で繰り広げられたソレはあまりにも衝撃的であり。ノブナリの脳裏にはとても深く刻み込まれていた。・・・そして、あの時のスンパの惨状も。
魔操虫の象徴たる、不思議な文字と共に刻まれた丸い紋章。それの刻まれている鞘羽や大あご、さらには頭部に胸。・・・その硬いからで守られている部分だけが残された、残骸。
魔操虫たちを統括するミヤグニに自身と同じカブトムシであるタカオが事のあらましを報告し。夜にスンパの通夜が営まれた。
それに駆け付けたのは、T区の支部とS区の支部に所属する昆虫、甲虫、そして魔操虫たち。・・・特にT区に所属していた虫達の中には福島県に対して酷い偏見を持つ虫達もいたようで。その虫達にとって崇められるような存在だったのであろうか。とてもとても悲しそうな様子を見せ・・・そしてノブナリ、トモユキ、タカオの三匹に詰って来ていた。
「お前達が付いていながら、なんでスンパ様が死んでしまわれたんだ!お前たちが身代わりとなって死ねばよかったのに!」
「福島方面支部の方に行って死んで来い!いけにえになって死んで来い!」
「エレファンフットに踏まれて死んでしまえ!」
口々に罵倒されるノブナリ達。・・・特に、コクワガタのトモユキはあの時声をかけた虫なだけあって罪悪感にさいなまれていた。
その時、カブトムシのタカオも慰めの言葉をかけたのだが効果はあまりなく。どこか沈んだ様子のコクワガタのトモユキは・・・ありったけのスラグナーの残骸を前に自棄食いを起こしていた。
(俺達だって頑張ったんだ。それだってのに。それを知らないであの虫達め。)
だんだんと明るみの増す空。その下で、ただただ一匹、ノブナリが愚痴をこぼす。
・・・そののちにノブナリは再び眠りにつき。数時間後。虫達が広場に集まり朝礼を行う。
スンパへの弔いの言葉。そののちに魔操虫達がアクティオンゾウカブトの号令と共に一斉に頭部を上げる。・・・甲虫達にとっての敬礼のようなものだ。
それが終わると同時に始まる新たな一日。グループのリーダーであるカブトムシのタカオが、再び任務を持ってきた。
内容は金川地域の魔操虫達との合同任務。暗い空気がノブナリとトモユキを包み込むが、タカオの次の言葉でその空気が変わった。
「スンパの事は残念だが…。これも魔操虫になっての運命のようなものだ。・・・S区の支部に所属するゴホンヅノカブトのテツトは一緒についていった魔操虫の死ぬ確率が九割を超え"東京都の雪風"だの"佐世保の駆逐が東京にやってきた”だのとさんざんに言われているが、もくもくとグループの甲虫達と共に任務にいそしんでいると聞いているぞ。」
タカオの方を見るノブナリとトモユキ。少ししてトモユキは気持ちを切り替えるかのような様子を見せ。タカオの方を見た。
「・・・。いろいろ言いたいことはあるけど…リーダーなりに僕達の事を励まそうとしてくれたんだよね。・・・ありがとう。」
「気持ちの切り替えができたようだな。」
タカオの言葉に、トモユキとノブナリがうなずく。と、そこへ…一匹の甲虫を引き連れアシナガバチのミハルがやってきた。
「グループの仲間が一匹失ったところごめんなさい。・・・せっかくなのだけど貴方達のグループに一匹はいることになったの。」
「・・・それがそいつ、ということか?」
「そう。・・・挨拶しなさい。」
ミハルの言葉の後に姿を現す甲虫。その姿たるやノコギリタテヅノカブトに似てはいたものの頭に垂直に立つ角が短い種類・・・コブタテヅノカブトと呼ばれるものであった。
「今日付けでカブトムシのタカオリーダーのグループに入ることになりました、コブタテヅノカブトのブラゼルです。皆さんよろしくお願いします。」
テノールの少年の声。その甲虫の丁寧なあいさつに、タカオたちが頭部を縦に揺らす。その直後、ミハルがブラゼルの事について説明をした。
「このブラゼルという魔操虫は新鋭の魔操虫なの。・・・ノブナリ、貴女と同じよ。・・・属性は土、そして炎。・・・五属性の弱点を補いあえる甲虫がようやっとそろったわね。」
「けどミハル、このブラゼルという甲虫…俺の時にはいなかったぜ?」
ミハルの言葉にノブナリがそう返したのち。ミハルはこう言葉を放った。
「同じ富士山のふもとにある本栖湖の方の支部からやってきたの。みんなで互いに成長しあって頂戴ね。」
いきなり入ってきた新入りのブラゼル。少ししてタカオたちは…金川方面へと飛んで向かって行った。
金川方面での合同任務、そこでは何が待つというのか。