第5章~初陣、それと現実~
樹海の中でひときわ目立つ大きな木の前。その前の広場にて一匹の昆虫が発した言葉にカブトムシのノブナリは驚いていた。
「ハァ!?俺がグループの一員に入るだって!?」
「そうよ。コクワガタのトモユキ、ホペイオオクワガタのスンパ、そして貴方と同じカブトムシのタカオと共に一つのチームとして任務をこなすの。トモユキは雷、スンパは炎、タカオは氷。それらが扱える魔法の属性だから。相性と一緒に覚えておきなさい。」
その昆虫の名はアシナガバチのミハル。その昆虫はどうも魔操虫達を統括する人事・・・否、虫事の統括者のようであった。
いきなりの事に追いついていないのか、ノブナリが抗議の声を上げようとする。
「ちょっと待ってくれ!俺はまだ訓練期間中の・・・」
「ミヤグニさんからの直々の辞令よ。貴方にはかなり期待しているようね。・・・その期待に応えられるよう、虫達の希望となって頑張っていきなさい。」
ノブナリの抗議の声が聞こえないかのようにふるまい、どこかへと去っていくミハル。その場に残されたノブナリはしばし呆然としたのち。甲虫達のたまり場となっている岩場へと向かって行った。
そこにいたのはスペキオシスシカクワガタのスオペスにカワノエシカクワガタのポーナル、グラントシロカブトのパトリクであった。
「あっ、ノブナリ君。話は聞いたよ。・・・次の任務から戦地に出るんだってね。」
「ああ。コクワガタのトモユキにホペイオオクワガタのスンパ、俺と同じカブトムシのタカオと共に戦うことになった。」
「えっ?・・・ホペイオオクワガタのスンパと?それ、本当?」
怪訝そうな様子を見せるスオペス。そんなスオペスの様子をみてノブナリは疑問に思った。
「なんだよ、その様子は。」
「ホペイオオクワガタのスンパって奴の話、聞いてみる?」
「なんだなんだ?みんなして様子変えて。」
詰め寄るかのような様子のスオペス、ポーナル、パトリク達に若干引き気味になるノブナリ。少ししてノブナリは頭部を縦に振ると。スオペスがスンパの事について話し始めた。
「そのスンパって虫、もともとはT区の支部にいたんだよ。・・・外界生物の科学博物館ともいわれている激戦区。そこからスンパは福島県のある支部の方に行ったんだけど、"福島県は生き物の住む土地じゃない。俺の体が此処の空気で穢れる"とかなんだとか言い出してその福島県で生まれ育った甲虫達、昆虫達から大顰蹙を買ったんだ。誤解しないように言っておくけど、その福島県の支部に言った甲虫達からは"皆誠実で優しく、とてもいい虫達だった"とか"中国地方は西部の土地から来たんだがあそことは正反対でたとえ自身の都合の悪い事でも悪いことはきちんと謝ってくれる。むしろ些細なことでもこちらが恐縮するくらいに謝り倒してくれた"とか好評な土地だったみたいなんだよ・・・話戻すね。それでスンパは栃木は宇都宮の支部から群馬は榛名山支部、埼玉の西部にある支部と南下していって…そこらでも福島の悪評をないことない事ばらまいて此処に流れ着いたんだ。・・・此処でもスンパはやりたい放題。だからみんな、そのスンパってのに良いイメージを抱いてないんだよ。」
スオペスから語られた、スンパの話。それを聞いてノブナリは唖然としていた。
「なんだそいつ・・・。福島の悪評ばらまきながらこっちに来るとか・・・。そいつ本当に魔操虫か?」
「残念ながらね。一匹の甲虫が"任務中に二足歩行の恐竜みたいなやつに頭からバリバリボリボリ食われちまえばいいのに"って言ってたのも聞いてたし。・・・君もスンパと一緒に行く時は気を付けてね。」
「あ、ああ・・・。」
どこか引きながら言葉を口にするノブナリ。少しして彼は、かつて賑わいを見せていた遊園地の廃墟での任務を行った。・・・目的はこの文章上では名を出せないあの虫のお食事どころへのルートの安全を確保するため。
周りには一般でよく見るカラスに紛れ、二足歩行をするカラスにもタカにも似た外界生物が徘徊している。
「アシナガバチの奴からは聞いているが、新鋭なんだってな。・・・そのお手並み、拝見させてもらうぞ。」
「おう!なるべく足手まといにはならないようにするぜ!」
「そうだよぉ~?お前はまだ新虫なんだ。この俺の足手まといにならないよーに、せいぜい頑張ってくれたまえ。」
「スンパ、今回こそはもっと働いてもらうよ。」
「だったらじゅえきをよこして、やくめでしょ。あと獲物狩っといてね~。」
人をイラつかせるかのような言葉遣いのホペイオオクワガタ、スンパに若干イラッとしつつ、ノブナリたちがだだっ広い旧遊園地に降り立っていく。
飛び交う様々な魔法。二足歩行するカラスにもタカにも似た外界生物はどうやら雷と氷が弱点のようで。タカオとトモユキがなかなかに良い活躍ぶりを見せていた。・・・むろんノブナリも負けてはいない。自身の使える風魔法で二足歩行するタカにもカラスにも似た外界生物にダメージを与えていき。やがてそれらを倒していった。
「おやおや~、なかなかに活躍するじゃないかぁ~。」
「スンパ、しゃべっている場合か?・・・まだまだ周りには外界生物が残っているんだぞ。」
「オオっとそうだったね~。それじゃ、俺様の素晴らしい魔法、行っちゃうよー!」
そういってスンパが放ったのは焼けつくように赤い球体。その幅はスンパの横幅の倍はあろうかと思われる。それをスンパは敵の外界生物に投げつけるような格好で放ち。命中させた。
「ふっふーん、クリティカルヒット、といったところかな?」
得意げなスンパ。・・・そこへ上空の高いところからあたかも爆撃機の急降下がごとく二足歩行する鳥型の外界生物が襲い掛かる。・・・その外界生物の羽の部分はまさしくダイブブレーキのように逆立っており。急降下するスピードを抑えることに一役買っていた。
「スンパっ!上を見て!得意げになってる場合じゃないよ!」
「ほえっ?うわっ、ぎゃあああああっ!!!」
トモユキの言葉の直後、外界生物の全体重がスンパのその体にのしかかる。その後に広がるはあまりにもスプラッタな光景。人間である我々で例えるならば・・・かなり過激な表現のあるパニックホラー映画が該当するであろう。スンパがすでに死んでいるのは、もう明らかであった。
驚きのあまり固まるノブナリ。その甲虫の前にいた鳥型の外界生物を、氷の礫の嵐が襲い掛かる。・・・タカオの魔法によるものだ。
「・・・。」
「魔操虫。・・・俺達の仕事がどんなに危険か、わかったか?・・・任務、つづけるぞ。」
「あ、うん。」
タカオの言葉にうなずくノブナリ。任務はその後上手く行き。スンパ以外の3匹は無事に自分たちのいたところへと戻ることができた。
あまりにも凄惨な現場を見てしまったノブナリ。・・・しかし戦うという現場に入った以上、これは逃れられないことなのだ。