第1章~樹海を襲う異変 立ち上がる甲虫達~
青木ヶ原樹海。富士の麓に位置するその森には様々な昆虫たちが平和に仲良く暮らしていた。
時折、海の向こうの国からやってきた体の大きな甲虫達もやってきてはいたのだが。昆虫たちにとってさほど大きな問題とはならなかった。
蝶はひらひらと華麗に舞い。蜂達は花の蜜を集め自身の幼虫や蛹の餌として巣に貯めていく。カブトムシやクワガタムシは樹液を舐め・・・その樹液の量や面積、あるいは同種のメスが一匹来た場合は戦い、強い方が強者の特権を得たりしていた。
どこにでもある森の風景。虫達は皆、こんな日々がずっと続いてくれればいいのにな。・・・そんなことを思っていた。・・・しかしよい事や平和というものは永遠には続かないもの。
ある時、森にジェル状の生き物が現れた。その生き物の動きは緩慢でさらにその見た目通りやわらかかったがために甲虫達やカマキリ、蜂が攻撃をして倒し。その生き物の残骸であるジェル状の物体に蝶に蜂やクワガタムシ、カブトムシにカナブン、コガネムシが群がりそれを餌としていた。"甘酸っぱくて癖になりそうな味だった。またやって来て欲しい物だ"・・・とは樹海の甲虫達の中で8cm後半という大きさを持つオオクワガタのシンゲンの言。
しかしてカマキリやカミキリムシなどの昆虫たちは。そのジェル状の謎の生物の事を不審に思っていた。・・・なぜ突然この樹海に現れたんだ。あのジェル状の生物は、一体どこから来たんだ。疑問符を浮かべる一部の昆虫たち。・・・しかしそんな疑問符も。真っ赤な羽を持ち丸々と肥え太った体を持つ蝶のような姿の生き物が表れたことによって彼方へと消し去っていってしまった。
現れた蝶のような生き物達に対し鎌を振り回して捕えバクバクと一心不乱に食べるカマキリ達。・・・森の昆虫たちは思わぬ恵みが舞い降りてきた、と喜びに包まれていた…のだが。固い殻に身を包んだ一匹の生物の出現によってそれは地獄へと変わっていった。
串刺しにされるカマキリ。頭からボリボリと食われていく蜂。Gに至ってはその吐息で一瞬のうちに凍らされ腕白な子供のごとくもてあそばれたのちにその体で押しつぶされた。
これは恵みでも何でもない、災いだ。それを理解すると同時に、昆虫たちは慌てふためき、混乱に陥っていく。その固い殻に身を包んだ生き物に対してはカブトムシやクワガタムシも一生懸命に攻撃を仕掛け、ダメージを与えようとしたのだが傷を負わせることはできず。逆にその生物の前足にぐるぐると巻きつかれそのままその生き物の餌食となってしまった。
どうすればいいの。天国から一転、地獄へと叩き落される昆虫たち。そんな中のある日。一匹のコガネムシが命からがら、ある一冊の本を抱えて飛んできた。
最初その文字は解読不能ではあったものの、エカキムシ(ハモグリバエ)が解読したことによるとその本は生き物たちへと攻撃を仕掛け、ダメージを与えられる手段なのだという。
本当なのであろうか?虫達はその本の内容を不審に思っていたが。おそらく今頼れるのはこの本だけ。藁にもすがる思いで虫達はその本の解読を進めていき。見知らぬ生き物たちが樹海を闊歩し始めてからいくばくかの時が流れた時、それらに対抗しうる一匹目の虫がその見知らぬ生き物たちへと戦いを仕掛け。見事戦果を得た。・・・そのムシの名は、カブトムシのチョウカイ。餌場やメスを争う喧嘩では勝率が一割強であったその甲虫が、見知らぬ生き物たちを相手にダメージを与える手段を使い、見事戦いに打ち勝ったのだという。
その方法、というのは・・・魔法。風の魔法に適性があるといわれたその甲虫は風の魔法を見事に操り、森を我が物顔で歩く正体不明の生き物たちと戦ったのだ。
知らせを聞き喜びに包まれる森の虫達。そこから・・・甲虫達と正体不明の生き物たちの戦いは始まっていった。
・・・そしてその戦いが始まってから幾何かしたころ。植物を模した生き物と思われる残骸を前に。数匹のクワガタムシとカブトムシが集まっていた。
「よし、これで終わりだな。スオペス、よくやったぞ。」
そういって激励の言葉をかけるは黒字にオレンジの線が入った鞘羽と、太く短い大あごにいくつか突起の生えているのが特徴的な甲虫、ハスタートノコギリクワガタのジョーンズ。
「これもみんなの働きのおかげだよ。・・・ありがとう。」
ジョーンズの激励の言葉に恥ずかしそうにしながらもお礼の言葉をいうのは鞘羽のオレンジ色の紋とその湾曲した大あごの特徴的なスペキオシスシカクワガタのスオペス。その甲虫の言葉に、今度は別の甲虫が言葉をかけた。
「あ゛っあ゛っあ゛~、そう謙遜すんなよスペオスゥ~。俺から見てもいい働きだったとおもうぜぇ~?・・・おかげで俺の得物が少なくなってきているけどな!わっはっはっは…コンチクショー!」
特徴的な笑い声と口調で話すのは全体的に茶色っぽい体と挟まれれば傷を負いそうな見た目の大あごが特徴的なサバゲノコギリクワガタのチャンキー。
そのチャンキーに、同じく茶色の体が特徴的なノコギリクワガタのエイキチが言葉をかけた。
「そうひがむんじゃねえよチャンキー。スオペスはここ最近頑張ってきているんだからな。」
「おっとそうだったな。それじゃ、次はもっと獲物がおおい奴を頼みますかね…?」
会話を交わす二匹。その二匹に、むなづのの辺りに生えた毛が特徴的な甲虫・・・ヒルトゥスヘラヅノカブトのヒルナードが声をかける。
「皆さん、そろそろ私たちの拠点に戻りますよ。」
「「はーい!」」
リーダーなのであろうか。ヒルナードは他4匹の甲虫達を取りまとめると。大きく太い木の根元の方へと戻っていった。
・・・此処から、この物語は始まる。