距離感
あれから一晩たち日曜日になった。
まず大変だったのが、柚葉が俺から全く離れないということだった。
寝るときもいつもなら一緒のベットでも少し離れて寝るのだが、昨夜は俺の腕にしがみつきながら寝ていた。
だからといって欲情するわけではないが暑苦しいのでやめてほしい。
そして今、俺の家には玲奈と美咲もいた。
朝の8時くらいに来たと思ったらそのまま家に上がって話をしている。
柚葉は二人が来たことに驚いていなかったからたぶん知っていたのだろう。
原因は昨日俺の話したことだと分かっているのだが、ここまで気にされるとは想定外だった。
しかもなんかいつもより物理的に距離が近い気がする。
普通の男共なら喜ぶのだろうが生憎と俺は柚葉たちをそういう対象として見ていない。
昨日少し良い雰囲気だったのは認めるが、だから好きになるということはないのだ。
このままいくと学校でも同じことをしそうだから何とかして止めなくてはいけない。
「なあお前たち、別にここまでしなくてもいいんだぞ」
ただ傷つけたくはないのでどうしても強く言えないからこんなことしか言えない…
「私たちはしたくてやってるからユウにぃは気にしなくていい」
そう言って柚葉たちはまた距離を詰めてきた。
「というか玲奈は恥ずかしいなら離れなさい、こっちまで恥ずかしくなってくる」
そう、昨日から玲奈も距離を近づけていたが毎回恥ずかしそうにしていた。
「イヤ!」
かなり大きな声で俺の提案を拒絶した玲奈は、また距離を詰めてきた。
「は、恥ずかしいけど嫌なわけじゃなくて、私は…一緒にいたいんだよ」
そう言う玲奈はどこか寂しそうで、それでも決意の籠った眼をしていた。
「…」
「わかってるよ、裕斗君が私たちなんかいなくても頑張って立ち直ることが出来る強い人だってことは…でも私は…私たちは、傍にいたい」
玲奈の言葉に柚葉も美咲も頷いていた。
この3人が引っ付いてくるのは俺が悲しんでいると勘違いしているからだと思っていた。でもこの3人は俺の気持ちにはすでに気付いていたらしい。
それならこうして引っ付くんじゃなくて普通の距離感で接してほしい。
「そうか、それなら尚更この距離感はダメだ」
「どうして?」
柚葉たちは本当にわからないというように首を傾げた。
「俺は昨日、これからも一緒にいてくれると嬉しいと言っただろ?」
「うん、だからユウにぃが嬉しくなるならって…」
「違う、俺が言いたかったのはそういう意味じゃないよ。俺が言いたかったのは一緒に話したり笑ったりして、楽しいと思えるようなことをしたいってことなんだよ」
これじゃあまともに話もできないだろ?そういった俺の言葉にまだあまりピンと来ていないのか3人は首を傾げたままだった。
「俺は今のお前たちをあんまり知らないし、お前たちも今の俺をあまり知らないだろ?だからこれからはそういう知らないことを埋めていって、昔みたいにみんなで楽しく過ごしたいって思うんだよ」
これが今の俺の気持ちだ、昔はこの4人でばかり遊んでいたから、知らない事なんてないくらいに仲が良かった。
でも今は、俺が離れてからの数年で何が変わって何が変わらなかったのか、そういうことをまるで知らない。
別に昔みたいに秘密が完全になくなった関係にしたいわけじゃない、そんな関係は子供ではない俺たちにとって何の得もない。
それに昔は、今みたいに引っ付いたりすることもあったが、今そんなことをしていたら周りがどう捉えるか分かったものではない。
「――…だからこそ俺は昔のようにってだけじゃなくて、これからを大切にしていきたい、でも今の状態のままだとダメだろ?」
そう言った俺の気持ちが伝わったのだろう、柚葉たちは普通の人が話すくらいの距離まで離れて申し訳なさそうにしながら言った。
「そうだね、ずっと昔みたいにって考えしかなくて、今だったらどうなるのかを考えてなかったよ。ごめんなさい」
柚葉が頭を下げると玲奈と美咲も同じように頭を下げた。
「別に怒ってるわけじゃないから頭なんか下げなくていいよ。でもこれからは気を付けるんだぞ」
そう言って笑った俺を見て、3人は嬉しそうに「うん」と頷いた。
それからは俺たちが離れていた時についての話をした。
話しているとみんなあまり変わってないんだなということが分かった。人間以外とそんなに変わらない生き物なのかもしれない。
それと話しているときに柚葉が、「スキンシップとかもダメなの?」なんて潤んだ瞳で聞いてくるから仕方なく「たまになら…」と了承した。
まあそんなことはあったが、明日の学校で3人が俺に引っ付きすぎて問題になるということは防ぐことが出来た。
それにいろんな話を聞けて楽しかった。
次は少し遅れるかもしれません。
楽しみにしてくれている方がいるのかはわかりませんが、なにとぞよろしくお願いいたします。
そして、申し訳ございません。