アデルと少女漫画
ノベル②巻あたりの内容なので、本作を漫画でお読みの方はお気を付け下さい(>_<)
「シャーリー、何を読んでいるの?」
シャーリーが作ったジムで運動したあと、風呂で汗を流したアデルがダイニングへ向かうと、シャーリーがテレビの前のソファに座って何かを読んでいるのが見えた。
つけっぱなしのテレビ電話にはアルベールの姿が映っているが、彼は「ゲーム」というものをしているようだった。アルベールはシャーリーの姿が見えなくなると不安になるようで、シャーリーの用事がないときは、こうしてテレビの前にいてほしいと言って、シャーリーは律儀にもそれを守っている。だが、さすがにゲームとやらに夢中になっているアルベールをぼーっと見つめているのも暇なのか、本を読んでいるようだ。しかしその本を覗き込んだアデルは首をひねった。
(見たこともない絵がたくさんある。なんだろう、これ)
絵のほかにも言葉が書いてあるが、どう読んでいいのかわからない。というかこれは読み物だろうか?
「あ、アデル様。これは漫画ですよ」
「まんが?」
「本なんですけどね、こう、右の上のコマ……絵から順番に読んでいくんです」
「へえ?」
「アデル様も読みますか? 一巻は読みましたから、はい」
「ああ、うん、じゃあ……」
「まんが」とやらが何かわからないが、シャーリーがよくわからないものを出すのはいつものことだから驚きはなかった。風呂上がりに水を飲んで、それからシャーリーの隣に座ると、シャーリーに勧められるままに「王女と騎士1」と書かれた本を手に取る。
絵ばっかりで違和感があるが、文字が少ないからか読みやすい。どうやら王女が騎士に恋をするお話のようだ。
(なんだかまどろっこしいな。好きなら好きと言えばいいじゃないか。気づいてくれないというが、言わなければ気づくわけもないだろう)
読み進めながら、王女の性格にイライラしてくる。さっさとくっつけ、と思う反面、どういうわけかこのくっつきそうでくっつかない微妙な関係がハラハラして楽しくもある。
(だいたい騎士も騎士だ。朴念仁だな。まるでヘンドリックみたいじゃないか。まったく、こう、いくときはぐいっとだな!)
ぐいっといけ、ぐいっと、と心の中で突っ込んでいると、不意に以前ヘンドリックに「ぐいっと」抱きしめられた時のことをふと思い出してしまってドギマギして来た。
一度物語の中の騎士がヘンドリックと重なると、一気に感情が入ってしまって心臓がばたついてくる。
ドキドキしながら一巻を読み終えて、ふとローテーブルの上を見たアデルはギョッとした。
「シャーリー、この本はいったい何冊あるの?」
「ええっと、全部で十五巻ですよ」
「十五⁉」
なんということだろう。このドキドキがまだまだ続くらしい。
シャーリーはアデルを見て小さく笑うと、残りの十四巻もまるまるアデルに差し出してくれた。
「わたし、前に読んだことがあるんで、アデル様に差し上げますよ。巻を追うごとにドキドキ度合いが増していきますから、こういうのは一人の時に読んだ方がいいですし」
なんと、ますますドキドキしてしまうらしい。
シャーリーが、「少女漫画は、ベッドに寝そべって、ドキドキしてきゃーって言いながらごろごろするのが醍醐味なんです」と訳の分からないことを言って、アデルの部屋に「まんが」を運ぶのを手伝ってくれる。
「よくわからないけど、じゃあ、寝る前に続きを読むよ」
本当はすでに続きが気になって仕方がなかったが、恋愛物語だったし、飛びつくように読むのははしたない気がする。
アデルは後ろ髪を引かれつつ階下へ降りて、シャーリーのいれてくれたお茶を飲みながらティータイムをすごした。
そして夜――
(うわーうわーうわーっ)
「きゃー」こそ出なかったが、アデルは漫画を片手に、真っ赤になりながらベッドの上をごろごろし、シャーリーの言うところの「少女漫画の醍醐味」が何たるかを身をもって学んだのだった。










