リアムと地下の魔法陣
12/27よりストーリアダッシュ様にてコミカライズがスタートいたします!
ローゼリア国第一王子リアム・ジルハルト・ローゼリアが、両国の盟約によりブロリア国に入ったのは今からおよそ四年前――十九歳の時だった。
各国に一つずつ存在する女神の遺産、緑の塔は、国が、世界が存続するために欠かせないものだ。魔力持ちの王族は幼いころよりその塔に入り、世界に魔力を供給することの大切さと王族の義務を叩きこまれて成長する。
ゆえに、リアム自身も緑の塔へ入ることに何の疑問も抱かなかったし、それは当然のことだと認識し、覚悟していた。
(……覚悟はしていたんだ)
リアムは塔の地下二階にある洞窟のような部屋で小さく息を吐いた。覚悟はしていた。それは嘘ではない。嘘ではないが、たった一人きりで塔に閉じ込められる孤独と苦痛は、リアムが想像していたよりもはるかに過酷だった。
ごつごつした床には何かの模様が書かれている。それは複雑な模様で、そして文字らしきものも描かれているのだが、見たこともない文字なので何が書かれているのかもわからない。
リアムがこの地下の部屋に興味を持ったのは、三年前のことだ。
ブロリア国の塔の中には、以前ここに閉じ込められていた王族が残した本――手記が数多く残っていて、リアムはそれを読んで日々の暇をつぶしていた。
そこで見つけたのだ。この地下に関して書かれている記述を。
かつてここで生活していたローゼリア国の王族は、塔の中を調べて回っていたらしい。そして彼は地下の部屋の魔法陣をことのほか気に入ったようだ。
―――ある日声が聞こえた。空耳かもしれないし、とうとう精神を病んできたのかと不安になった。けれども声は確かにして、それはもしかしたらこの世に留まる先人の魂の声なのかもしれないと恐ろしくなったけれど、同時に人の声に私は安堵したのだ。それから私は、一日の大半を地下二階の洞窟のような部屋ですごすようになった。声は聞こえたり聞こえなかったりした。その声は女の声だった。時折女が口ずさむ歌は、知らない歌なのに私の心をひどく打ち震わせ、涙させる、懐かしいものだった。一人きりのこの塔での生活の中で、唯一私の心を癒してくれるものだった。
彼の手記の中にはこうあった。
誰もいないはずの塔の中で他人の声がするとはどういうことなのか、リアムは気になって仕方がなかった。もともと研究者気質の彼は、自身が知らないものを探求し、自分なりの答えを導き出すことに至上の喜びを感じるたちだったのだ。
同時に、たった一人きりで塔に閉じ込められているリアムは、空耳でもいいから誰かの声を聞きたかった。
こうしてリアムは、床に変な模様の書かれた地下二階の部屋に入り浸るようになったのだ。
(声なんて全然しないな)
それから三年。この手記にあるような声は僅かなりとも聞こえてこない。この手記を書いた王族が聞いたと言う声は幻聴なのだろう。そう思った、そんなある日のことだった。
――シャーリー!
突如として地下二階の部屋に響いた男の声に、手記を読みふけっていたリアムはビクリとした。
「誰だ⁉」
壁に埋め込まれた蝋燭がオレンジ色に照らす室内をぐるりと見渡して、リアムはゆっくりと首を横に振る。誰かいるはずはない。なぜならこの塔にはリアム一人きりなのだ。すると先ほどの声が、この手記にある「声」なのだろうか。だが、手記には女の声とあったが、聞こえてきたのは男の声だ。
(……だが、シャーリー、か)
シャーリーは女の名前だ。すると「シャーリー」がこの手記にある女の声の正体なのだろうか。
わからない。わからないけれど、一人ぼっちのリアムは、誰でもいいから自分ではない誰かほかの人の声が聞きたかった。
「……シャーリー」
リアムが切望を持ってその名を口にした、その瞬間だった。
「な……!」
ぱあっと床に描かれていた模様が強い光を放って、リアムはあまりのまぶしさにきつく目を閉ざした。
そして、ゆっくりと目を開けた彼の目に飛び込んできたのは、ふんわりとわずかに波打つ蜂蜜色の髪の小柄な美少女。
――リアムは確かにこの時、彼女のことを女神だと思った。
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本作、12/27よりストーリーアダッシュ様にてコミカライズがスタートいたします。
漫画は坂巻あきむ先生です!
漫画の中で元気いっぱいに動き回るシャーリーたちをよろしくお願いいたします(*^^*)
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