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第2話 ヤギと懇願


 体が軽い。フワフワしてる。

 でも、全身の感覚が無い。

 あー、あれだ。中学生の頃にあった金縛りみたいな感じだ。

 でもあの時より軽い・・・というかこの浮いてる感覚はなんだ?

 

 ―――まさか!死んだ?

 いやいやいや、ちょっと落ち着こう俺。うん。


 えーっと、夢・・・ではないな。夢にしては意識がハッキリしてる。

 それにしても、なんで何にも見えないうえに体がこんなに軽いんだ?


 そういえば何してたんだっけ?えーっと・・・あ!!不法侵入者!!

 思い出した!家帰ったら誰かいたんだ!

 怖い怖い怖い!誰アレ!?何アレ!?なんで俺ん家に!人影しかわからなかったけど、あれ人間だよね?幽霊じゃないよね?ホラーとかマジ無理なんですけど!

 ・・・そこから思い出せない。なんで?


 ①殺された

 ②恐怖で気絶した

 ➂全部夢


 いくらなんでも殺されたなら痛いだろうから、ちょっとくらいは覚えてそうなもんだし、殺されたとは思えない。本当だったら嫌だし。気絶・・・はありえる。心臓止まるかとおもったし。夢もありえる。それにしてはハッキリしてる気が―――

 その時、いきなり足の指の感覚が戻ってきた。だんだん下半身の感覚がはっきりしてきた。立ってる?あ、いや、そういう意味じゃなくて、どこかに足で立ってる感覚よ。なにこれ?上半身の感覚ないのに、下半身の感覚だけあるなんて。こんな時どこかの野獣めいた男に襲われちゃったらひとたまりもないな☆hshs・・・とか思ってるうちに、手の感覚も戻ってきた。下から上に向かって感覚が戻ってきてる。肩、首、口、鼻の感覚も戻ってきた。


 (え?)

 

 感覚が戻ってくる感じが、目にまで届いたと同時に、足元には異様な光景が広がっていた。

 魔方陣にしか思えない陣の中に、俺は立っている。

 凄い。光りすぎなくらい光ってる。

 そして、頭の感覚が戻ってきたのと同時だった。

 

 「オ゛ウ゛ェェェッ!!」


 とてつもない痛みが頭を襲い、胃液が一気にこみあげてくる。頭痛なんてもんじゃない。立っていられない。痛みにたえられなくなって、頭を地面にたたきつける。

 (痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいぃぃぃいいいぃぃいいいいぃぃぃぃぃぃ――――――――――――――――ッ!!!!!!)

 

 気を失ったかと思った。しかしそうじゃない。異常な程の頭痛が、一瞬で消え去った。

 うずくまる体のあちこちが痛い。あまりの頭痛に暴れたからだろう、ところどころ血が出ている。自分の吐しゃ物の上で暴れたなんて最悪だ。


 (汚ない・・・。)


 いつの間にか、床の魔方陣の光は消えていた。

 誰かの声が聞こえる。声は聞こえるけど、何と言っているのか聞き取れない。

 脳裏に浮かんだのは、夢にまで見た『異世界召喚』。脱・現実世界、祝・異世界!


 (さぁ、この声はどんな世界の女神さまだろう!それともどこかの国のお姫様?神官様?だれだれだれ??夢にまで見た異世界生活がここからスタートするのね!)


 そんなことを考えながら、声のする方へ視線を向ける。

 一番近くに立っていたのは、大きなヤギだ。


 (ん?)


 目をこすり、もう一度視線を向ける。

 

 (・・・うん、ヤギだわ。)


 ヤギが黒いフードを着て、直立している。

 獣人とかそういう世界?えー、ないわー。ヤギとか萌えポイント見つけられないんですけど。

 暗さに目が慣れてきたのか、ヤギの後ろにも結構な人影が見えてきた。

 よく見ると、ヤギの後ろには他の動物たちが並んでいる。狼、獅子・・・とあとはよくわらない動物たち。


 「主よ、感謝致します。」


 ヤギがしゃべった。しかし、ヤギの口は動いていない。よく見たら、被り物だ。

 ヤギの言葉に、ヤギ同様他の動物の被り物をした奴らが歓喜にも似た声をあげている。

 

 (これ、見たことある。魔方陣に、薄暗い部屋、そして動物の被り物した怪しい集団・・・て、黒魔術的な奴だよね?魔方陣キャッホイどころじゃないよね、コレ。殺されちゃうやつじゃん!)


 「お願いします、殺さないで!」


 俺の力いっぱいの情けない声が、その場に響く。先ほどまでの騒ぎが嘘のように、あたりは静まり返った。さっきまでの期待に満ちたドキドキが、今は先の恐怖に向けて動悸となって胸を打つ。

 ヤギの後方から、ヤギよりも大柄な狼が近づいてくる。無機質な被り物の目が、不気味にこちらを見ている。警戒する俺の目の前に、狼は膝をつく。

 

 「痛いのはムリ!痛いのはムリ!お願いします、助けて!!」

 

 殺される、そう思った瞬間だった。


 「あなたに害を加えるような者は、ここにはおりません。」

 

 ひどく優しい、男の声だった。


 「あなたは、我らが長年待ち続けた存在なのですから。」


 そう言って、狼は俺の両肩を支え、俺を立ち上がらせた。不思議と、先ほどまでの恐怖がひいていく。

 

 「我らの呼びかけに応じて頂き、感謝致します。」


 ヤギがその場に跪き、それに続いて他の奴らも跪く。


 「あの・・・俺は殺されずにすむということでよろしいんでしょうか?」


 (なんだかよくわからないけど、とりあえずこれが最優先。助かるならはっきりそう言って下さい!)

 心の中で祈った。

 

 「ご安心ください。そんなことは致しません。」


 ヤギは続ける。


 「あなたは、我らの王なのですから。」


 (・・・へぁ?)

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