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これが2話目となります。これと後1話で終わります。
「私は人の探しているものを見つけることが出来ます。それがなぜ出来るようになったのかは正直分かりません。ただ、いつから、かということになればあれはそう。母が亡くなった時からだと思います」
そうちかちゃんが言ったとき、私は返す言葉が思い浮かばなかった。私はこれまで順調に生きてきたしこれからもそうだと思う。今はちょっと大変だけど...。両親は元気にしているし、兄弟も受験で忙しそうにしているがその程度だ。唯一の肉親の死は遠くに住んでいる母方の祖父くらい...それも小学校の時に経験した程度であんまり覚えてはいない。それも、色んな知らない人たちと集まって、黒い服でご飯を食べて、お経を聞いていただけだ。祖父とはほとんど話した記憶もないので悲しいという感情や寂しいという感情もない。
ただ、母が一人になったときに辛そうに嗚咽を漏らしていただけ。それを見てこれは悲しい出来事なんだなと思ったから静かにしていた。ただ、それだけの出来事。それを普段は元気な母が嗚咽を漏らすようなことをこの少女は平然と言ったのだ、母は死んだ...と。
意識が現実に帰ってくるとちかちゃんは私を不思議そうに見ていた。まるで何か変なことを言ってしまったのだろうかと考えるように母の死はさも当然であるといったように。それから、ちかちゃんは続きを話し出す。
「母が亡くなってしばらく、私もお父さんもどうしていいかわからなくて、ずっと呆然と日々を過ごしていました。ご飯とかも丸1日食べない時があったり、お風呂だって何日も入らなかったりしてたんですよ。今考えるとすごいですね。そうやって何日も過ごしているうちに、偶々父と手が重なって眠ってしまったことがあったんです。その時に父が、母との思い出の品を夢か現実か分からない状態で探していると思ったんです。そして、それをただ何となく探してみようと思って辿っていく内に、どうやって辿ろうって思ったのかは覚えていません、ただ辿ろうとしか。気が付くとそこは普段は倉庫になっている物置小屋の景色が見えてきたんです。これは何かの啓示だ。そう思いました。そうなったらいてもたってもいられず走り出していました。物置小屋の中を探してみるとそこには父と母の出会った頃の思い出の品や私が小さかった頃の品、アルバムとかが出てきたんです。それを一人でずっと見ていました。気が付くと後ろに父がいて、そのまま一緒に見続けました。私も父も何度も何度も繰り返し繰り返し母との記録を。そして気が付くと少し立ち直っていた...といっていいのでしょうかね?それからは今みたいな感じです」
「そう...それは大変だったのね・・・」
自分だったらどうなるか?受け止めきれるか?そんなことをこの私よりも小さい少女は受け止めてきたというのか。それを思うと社会を世界を少しだけ恨めしく思う。なぜ、こんなに厳しいのかと。
「すいません、話がちょっと脇道にそれてしまいました。戻しますと、その時に感じたことをまた出来るんじゃないかと思って父にも手伝って貰って練習したり実験したんです。その結果分かったのが。直接触っている人が考えている物のある方角と周囲の風景が見えるんです」
「本当に?」
「ええ、嘘はつきませんよ」
「でもそれを使ったらかなりすごいことも出来るんじゃない?」
「すっごく便利って訳でもないんですよ。まず、すごく疲れます。この前の時にやったと思うんですが、あの後2、3日は力が使えないほど消耗します。それだけでなく、新しいものを探そうとするのに更に2、3週間は時間がかかります。大体1月に1個ものを探せるってかんじですね」
「え、じゃあヘアピンも探せないの?」
「いえ、疲れるのは新しく探そうとする場合の話です。探し物は1つ記憶しておくことができて、今はヘアピンを記憶しています。それをもう一度思い出すのはそこまで疲れません」
「へぇ、それでもすごいと思うけどね」
「ありがとうございます。それからまだあってですね。記憶している物についての情報を沢山入れるとより方角がはっきりしたり周りの風景がよく見えるようになるんです」
「それで色んなエピソードを持ってこいって言ってたわけだ」
「はい、そうなんです。因みにあまり思い入れがなかったり、エピソードがなかったらほとんど何も分かりません。ただ疲れるだけで終わってしまいます。絢音さんの場合はかなり鮮明に覚えていて下さったので、周囲に書かれていた地名から大体の場所の目星がつきました」
「それはよかったわ」
「これで全部だと思いますが分からなかったことはありますか?」
「場所が間違っていたことはないの?」
「探し物が置いてある場所が入れなかったりで見つからなかったときはありますが基本的に見つけられなかったことはほぼありません」
「ほぼ?、もし探してるものがなくなってたり壊れてたりしたらどうなるの?」
「それが例外で何も見えないし感じません。ただ、ぽっかりと穴が空いているような空しさだけが残る感じでしょうか?」
「そうなのねわかったわ、大丈夫」
この力は本当なの?すごいと思う。一ヶ月に1回しか出来なくても、それでもなぜ高校生のこの子達がこんなことをしているんだろうか。少しだけ興味が湧く。
ただ槙君?だっけ、男の子が腕を組みながら気難しい表情で目を瞑っている。これはやはり嫌われてしまっているのかしら。しかも堂々とした態度でいるし、がたいもいい為同じ大学の人より大人っぽい。ちかちゃんは気にしないといってくれたがどうだろうか。言葉遣いは丁寧だしとても大人びて見える。彼らより私の方が大人であるはずなのに、なぜ彼らはこんなにも大人びて見えるのだろうか。
「どうかしましたか?」
ちかちゃんが心配そうな顔でこちらを覗き込んでいる。一人考え事をしていたらちかちゃんに心配されてしまった。自分より年下に心配されてしまうなんて、だから私は駄目なんだろうか。
「大丈夫よ。ちょっと考えていただけだから。それより私とヘアピンについてのエピソードだったわね?相手の子のエピソードもいるのよね?」
「はい、情報は多ければ多いほどいいので」
「分かったわ。それじゃあその子との出会いから始めた方がいいかしらね」
「ええ、お願いします」
「あれは小学5年生の時だったかな。最初は5年生になったときの自己紹介で知ったの。私の母校は1学年5クラスあってね、同学年でも知らない子は結構いたの。そんな自己紹介の時、ほとんど彼女についての感想なんてなかった至って普通よ」
「漫画じゃないんですから、それが普通ですよ」
「でしょう?でも、その後も基本的にそんな感じなのよ」
私は軽く笑いつつ続きを話す。
「最初に話したのは席替えの時ね。その時偶々隣同士になったから、自己紹介をもっかい軽くして。そうそう彼女の名前は飯田 舞音っていってね。奇遇にも下の名前に音っていう字が入っていたからちょっと親近感もあったのかも知れないわね」
「飯田 舞音さん...」
「ええ、いい子だったのよ。ちょっとシャイで引っ込み思案だったけれど、周りの空気とか読んで話したり、相手の言いたいことを根気強く聞いて相手を安心させる本当にいい子だった。そんな子だから私は隣同士で良く話しかけて、あっちからも話しかけてきたり2週間も経たない内にお互いの家に遊びに行ったわ。あのヘアピンはそれから2ヶ月くらいたってからかな。確か8月の初旬だったと思う。私の誕生日は8月5日なんだけど、舞音の誕生日は8月8日で、これもかなり近いねーって話していたらお互いに誕生日プレゼントを交換しようってなったのね。それでどっちの日がいいかってなって話し合いの末8日に決まったの。その時にプレゼントして貰ったのがあのヘアピンよ。私があげたのもヘアピンで柄とかは違ったんだけど色々考えて一番似合うと思うものだった。これがその時あげたヘアピンよ」
そう言って私は赤いポーチから小さな袋を取りだすとその中に指を右手の人差し指と親指をいれる。そのままゆっくりと壊れ物を扱うように大事にヘアピンが取り出される。それを少し見せた後、再び大事そうにしまう。
「これは舞音もかなり喜んでくれてね。それから毎日つけていたわ。それを見て私もいいものを選んだと心の中で喝采を挙げていたの。伊達に徹夜しかけるほど考えただけあったわ。それで舞音は舞音ですっごい悩んでくれて、私の髪型の感じはーとか良く着る服とかに似合うのを選んでくれたんだって。私はとっても嬉しかったの。普段は空気を読んで自分のことをしゃべらない舞音が私のことをそんな風に思っていて、それを伝えてくれたことが。それからの夏休みはほとんど毎日一緒にいたんじゃないかしら。お互いの家に遊びにいったり。プールに行ったり、黒山公園に登ったりね。知ってる?黒山公園?」
「ええ、たしか子供でも行ける程度の高さにある山の上の公園でしたっけ?」
「そうよ、今でこそ簡単に行けるけど昔は1日がかりで大冒険していると思っていたわ。その大冒険の途中でね、気性の荒い大型犬に出会っちゃったのよ。家の中で鎖に繋がれていたし、鉄冊の門もあったから今考えたら安全なのにね、その当時は恐ろしくて、そろりそろりと歩いて行ってたんだけど気付かれちゃって、吠えられた時には大慌て!舞音と一緒に一目散に駆け抜けたわ。そしてある程度逃げて、もう大丈夫だと気が付いたとき舞音が言ってくれたの。ヘアピンがないって。私は大慌てで来た道を戻ったわ、ないないって泣きそうになりながら。舞音も一緒に探してくれたんだけど全然見つからなくてもう駄目なんじゃないかって時にあの犬がいた家の前にねおばあさんが立っていたの私のヘアピンを持ってね。それを見て慌てて駆け寄って言ったの。それ、落としたの私だから返してくれませんかって。おばあさんは微笑んで直ぐに返してくれたわ。犬の吠える声と子供の悲鳴が聞こえたから出てきたら家の前に落ちていたんだって。私たちは悲鳴なんてあげていたのかしらね?一生懸命だったから気が付かなかったけれどそうだったかもしれないわ。その日は私も舞音もかなり疲れちゃったから帰ったけど、次の日にはリベンジしていたわ。夏休みのエピソードはそれくらいかしら?それ以降もずっと一緒にいてヘアピンも毎日着けていたくらいね」
「ふたりは本当に親友だったんですね」
「ええ、そうよあの時ほど仲良くなった子は今でもいないわ。それが終わったのも舞音が転校する次の年の8月よ」
「何かあったんですか?」
「特には何もなかったと思う」
「引っ越しについて聞かせて貰えませんか?」
「そうね、引っ越しが分かったのが1ヶ月前だったかしら?確か親の急な転勤とかでついていくことになったのね。それで、何が一番いいか考えたの引っ越しちゃう舞音に色々してあげたくてね。色々考えたわ、っていっても子供だから何か手作りしたり、ちょっといいとこにお出かけしようみたいな可愛らしいことだった。それでね、悩んだ末に出た結論が手紙と一緒に私の宝物であるヘアピンを渡すことだ!って思ったらそれ以外にいい案が出なくなって、それにすることにしたの」
「それで舞音さんがそのヘアピンを持っているんですね」
「ええ、それで手紙を書こうとして何度も何度も書き直したわ。ああでもない、こうでもないって。放課後はいつも舞音と遊んでたけど手紙を書くために一人で書いていたり、学校の休み時間だってずっと考えていたんだから」
「そんなに時間を使ったのなら良い物が出来たんじゃないですか?」
「そうだったと思う。確か舞音が引っ越しする前日の最後の夜まで全然書けてなくって、人生初めての徹夜を経験したのよ。本当に没頭していて終盤はすごいぼんやり書いてしまった気がするけれど合計20枚を越えるくらい書いたのよ?すごいでしょ」
「すごいことになっていますね」
「今思うとそうなんだけどね、当時はこれでも半分も書ききれないって思ってたわ。それでね、徹夜しちゃったせいで引っ越しの時間におくれそうになっちゃってさ、慌てて電車へ見送りに行ったんだけど電車がもう出るところで、急いで駆け寄って手紙とヘアピンを渡したわ。それだけで舞音も気づいてくれたのね、彼女のヘアピンを私に渡してくれたの。その時泣いていたからか顔は背けていて顔は見えなかったけど、気持ちは今も繋がっていると信じているわ」
「それでももう何年も連絡ないんだろ、本当に親友なのかよ」
ずっと黙っていた槙君が口を挟んでくる。呟く様だが小さくともはっきりと聞こえた、聞こえてしまった。その顔は何か嫌な記憶を思い出す様な苦虫を噛み潰す顔だったが、私はそんなことに構っていられなかった。
「きっと理由があるのよ!」
思わず私は声を荒げてしまう。自分でも考えていたこと、考えないようにしていたことをこの少年に言われてついカッとなってしまった。
「「「・・・・・」」」
一瞬の沈黙の後、我に返ると気まずそうにしている槙君と申し訳なさそうにしているちかちゃんがいた。
「幸也、言うことがあるんじゃない?」
「すまんかった」
「すまんかった?」
「すみませんでした」
「私からもすみませんでした。依頼人の方にあんなことを・・・」
「・・・いえ、いいのよ。私も考えたことがなかった訳でもないしね。ただ、人に言われるのは腹がたってしまうわ。それで、どう?探すのに役だったかしら?」
話を変えなければ、何度も考えてしまったけど未だにこの事とは向き合えない。
「はい、かなりの範囲まで見れるようになりました。これで、見つけるのは難しくないと思います」
こういった空気を直ぐに理解してくれる、この子は何て出来た子なんだろうか。
「そう、それじゃあ降りたらどこかで腹ごしらえをしましょうか。お姉さんがご馳走してあげる。勿論二人ともね」
「ホントですか!?やったあ!」
「助かる・・・」
この不安な気持ちを圧し殺すかのように意識を違う方に向ける。そうだ、私達は親友だ。何も間違っていない。考える必要なんてない。
「そういえばここって何が美味しいんですか?」
「そうねー、地鶏の親子丼・・・何てどう?」
「わあ!すごい美味しそうです!」
「どんぶりで不味いものなど存在しない。」
「じゃあ決定ね」
それからこの周辺の話をしていると電車が目的地へと着いた。電車から降りると、他の乗客もまばらに降りてくる。昔はそうでもなかったが、最近は来ることもあるためにこの周辺の地図は頭に入っている。それに従い目的地の店を目指すと幸運によるものか時間によるものか満席の7割くらい埋まっている。
「ラッキーねここって結構人が来るのよ」
「そうなんですか?早く食べたいです!」
そう急かされて直ぐに入ると店員さんが出迎えてくれる。案内に従って席につくと3人ですぐにメニューを開く。私は決まっているが二人はすぐにきめられるだろうか。
「どう?」
「どれもおいしそうで、決めるのに1時間かかってしまうかもしれません。むぅ」
「大盛にしてもいいか?」
「ふふ、いいわよ、ただちゃんと感謝しなさいよね?」
「ありがとうございます」
「ちかちゃん迷ったらおすすめのこれにしておくといいわよ」
「そうなんですか!ありがとうございます!ではそれで」
二人のこういう所は子供っぽいんだなと思いながら店員を呼び注文を伝える。
「親子丼セット二つと」
「そのセットの大盛りで」
「かしこまりました」
それから数十分後店内が満席になり、店の前で待つ客が出始めた頃やっと届いた。
「お待たせいたしましたー」
「待ってました!」
待ち遠しく店員から奪うようにお盆を受けとり、どんぶりの蓋を開ける。そこにはふわふわの卵がしっかり火の通った地鶏に絡み合い、歓声をあげていると錯覚させるほど勢い良く湯気が昇っている。その湯気の匂いを一嗅ぎすれば自分もまた地鶏と一緒に野山を駆け回っている気がするほど、地鶏の濃厚な香りに包まれてしまう。
いけない少しトリップしちゃってた。二人はどうなのかと伺い見るとちかちゃんはしっかりと味わうように噛み締めながら食べており、ほんのりと頬が赤くなっている。更に食べながら時々顔を上に向け、喜びに瞼を震わせている。槙君は一心不乱に親子丼を書き込み続けており、どんぶりの中はすでに半分ほど消え去っていた。ペースが早すぎることに気がついたのか、味噌汁を飲んだり、漬物を食べたりしてペースダウンを図っているがそれでも早い。私も温かい内に食べなくては...
「ふー美味しかったです。」
「やっぱりここのは美味しいわね」
「これには大満足だ」
あっと言う間に3人のお盆は空になってしまった。私は締めのお茶を啜りホッと一息つく。高校生の二人を伺い見ると幸せそうな顔をして親子丼の余韻に浸っている。こうしてみると年相応の表情に見える。
なぜあんなに大人びて見えてしまったのだろうか?彼らは高校生のはずなのに、自分の時間はあの時から止まってしまっていたのだろうか。そう思えてならない。
それからだろうか、人と深く付き合うのが怖い、また同じようなことになってしまうんじゃないかって、とても怖いって思うようになってしまったのは。人生で初めて出来た親友だった。これからもこんな関係がずっと続くと信じていたのに、そうはならなかった。
最近就活が上手くいっていないのもそんな臆病なところが人事の人に見抜かれているからなのだろうか。ヘアピンのことを思い出したのも偶々だ、自己分析の役に立つんじゃないかと藁にもすがる思いでみていたアルバム。それから唐突に思い出した。記憶に封をしていたことを昔の気持ちを心の奥底で人を恐れているのを。
「大丈夫ですか?」
声をかけられて自分が思考の海に溺れていたことに気づいた。
「え?ええ。大丈夫よ。ちょっとお手洗いにいってくるわね」
「はい、お待ちしています」
きょとんとした顔で答えてくれるとかちゃんを尻目にトイレへと急ぐ。自分の気持ちを落ち着けなければ、二人を前にどんな顔をして考え込んでいたんだろうか。ひどい顔をしていなかっただろうか。考えがまとまらないままトイレに入り、手洗い場の水を少し流す。手洗い場に手を付き斜め上から水の流れを見つめる。昔からこうすると心が落ち着いていくのがわかる。
「スーハースーハー」
深呼吸を繰り返して心を更に落ち着かせる。そうして自分の行動を振り返ってみると軽くへこむ。
「別にトイレに来なくてよかったよね・・・」
臆病で困ったことがあったら逃げ出してしまう私。なんでこんな性格になってしまったのだろうか。親のせいか、環境のせいか、それとも舞音のせいか・・・。いけない、そんなことない、そんな風に舞音のことを思ってなんていない。流れ続ける水を見ながら心が落ち着くのを待つ。
読んでくださりありがとうございます。
ここがよかった悪かった等感想があれば1行でもいいのでお願いします。




