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初めての投稿作品になります。
宜しければご一読下さい。
「貴方の探し物はなんですか?」
後、1、2時間もすれば夜になるであろう時間に、人が疎らなとあるファミリー向けのレストランで、そう少女は言った。
腰まで届く長い黒髪を背中で大きな二つ編みにし、眦の下がった瞳は優しげで左の目には泣き黒子がある。口角の少し上がった表情は慈しみに溢れており彼女の前に座る女性より大人びて見えるほどだ。彼女の服装はよくある紺のセーラー服で近くの高校の制服であった。
「えっと・・・小学校の頃に親友だった子が居て、その子が引っ越した時にお互いに自分の一番好きだったヘアピンを交換したので、それを探して欲しいんです」
そう言った女性は二十歳を越えた辺りだろうか。薄い茶髪に染められた髪は肩で綺麗に切り揃えられており、目鼻立ちがくっきりしている美しい顔立ちを今は不安げにしている。服装は白のカーディガンに青のロングスカートで女性の清潔さを写し出しているようであった。
「どうしてそのヘアピンを探したいんでしょうか?」
少女は更に質問を重ねる。
「・・・引っ越し前にその子とある約束をしていたんです。向こうについたら手紙を送るって、でも、それが一度も来たことがなくて、最初は忙しいんだろうって気にしてなかったんですが、時間が経つ内に私も忙しくなってきてしまって...それで最近になってアルバムを整理していたら思い出して友達に相談したら貴方達のことを紹介されたの」
そういって少女とその隣に座っている青年のことを見る。
「そういうことでしたか。それではお受けいたします」
少女がにっこりと笑みを深めて女性へと言葉をかける。それを聞いた女性は喜びを顔に浮かべて何か言おうとした時に青年が割って入る。
「但し条件がある。もしその引っ越し先があまりに遠いと分かったら見つけるのは無理だ。それと見てわかる通り俺らは学生、そんなんだから金なんざ大した量はもっちゃいない。だから、移動費とかはそっちに出してもらうし俺たちに同行もしてもらう。それと、俺達は学校までに帰らなきゃいけないから次の土日のみ。それでいいか?」
青年は短く刈り込んだ黒髪で目を常に吊り上げており、目が合っただけで喧嘩を売ってきそうな程荒々しかった。それを証明するかのように身に纏っている学ランは着くずしており袖などもかなり擦りきれている。
「はい、構いません。それで、どうやって探すんですか?」
期待にうっすらと浮かべた笑顔を直ぐに消し、不思議そうに彼らへと問いかける。
「お友達の方からは何も聞いていないのですか?」
「はい・・・実際に目で見ないとわからないだろうから...と」
「なるほど、では今からお見せしますね。ただ、敬語は必要ありませんよ。年上なのですし。ちょっとかしこまっちゃいます」
「そうですか、ううん、そうね。わかったわ。それと、自己紹介がまだだったわね。私は佐久間 絢音、天山大学4階生よ」
「私は桜 ちか、雨風高校の2年生です。そしてこっちが」
「槙 幸也、後はちかと一緒だ」
「よろしくね、桜さんと槙君でいいかな?それでどうやって探すの?」
「よろしくお願いします。名前はちかと読んでください。その前に一つ聞いておきたいんですが、探して欲しいヘアピンは今頭の中で見た目とか手触りとか思いだせますか?」
「ちかちゃんね、わかったわ。ええ、大丈夫よ。紹介してくれた人がそれは出来るようにしておいてって言ってたわ。何でかは言ってくれなかったけど、それと関係あるの?」
絢音は首を傾げてから自分の前に置いてあるアイスティーを軽く口に含む。
「直ぐに分かりますよ。先ずは手をこうして目を瞑ってください」
ちかは机の上に両手を置き手のひらを上に向けた。
「こう?」
そういって絢音はちかと同じようにした後目を瞑る。
「はい、ではそのままヘアピンのことを強く考えてください。質感、重さ、傷、そのヘアピンについて思い出せることなら何でもいいです。それが出来たら言ってください。その時に少し手に触りますね」
「ええ、わかったわちょっと時間を頂戴」
「はい、もちろんです」
そこから数分、店内の小さなざわめきが彼らの周囲を包みこむ。しかし、彼らは僅かにする瞬き以外微動だにしない。この瞬間がとても大事だと分かっているのだ。そして、絢音から声が出る。
「イメージできたわ。私は何をすればいい?」
「いいと言うまでぞのままで居てください。それでは触ります」
「ええ」
ちかはゆっくりと両手を伸ばし、絢音の掌とちかの掌が重なるように絢音に触れる。そしてちかも絢音と同じように目を瞑り、深く深く、何度息を繰り返す。すると、ちかからうっすらと後光のようなものが見え始めた。
幸也はいつものこと、と全く関心を示さず、偶々彼らの方を見た人は太陽の光の具合だろうと、目を擦って視線を元に戻す。そのまま、数分か10分は越えただろうか、唐突にちかがしゃべりだす。
「はい、もういいですよ。ありがとうございます」
そう言ったちかは目を開け幸也から受け取ったタオルでさっと顔を拭く。ちかの顔には疲労感が滲み出ており、汗もタオルで拭った傍からちかの顔に浮かぶ。何回かタオルと汗のイタチごっこを行い、勝利したタオルをちかは幸也へと返す。
「ありがと、幸也」
「おう」
ちかは幸也に礼をいい、いつまでも黙っている絢音の方を見ると、そこには目と口をぽかんと開けた絢音がそこにいた。ちかは絢音の目の前で手を振り問いかける。
「大丈夫ですか?」
その言葉にハッとして絢音が周囲を見渡す。
「私、今どうなってた?何か不思議な・・・でも嫌じゃない暖かい何かが体に入り込んで来た?と思ってそれに身を任せてたら声をかけられて...気が付いたら元に戻ってて...何が起こったの?」
「探し物を探すって言ったじゃないですか」
そういってちかは人好きのする笑みを浮かべる。
「え?ええ、それはそうだけど...っていまのでわかったの!?」
「はい、大体ですが、多分電車でで2時間くらいはかかってしまうので、次の土曜日に天山駅に朝9時集合でどうでしょうか?」
「え、ええ。分かったわ」
「その時に少しまた詳しいお話をしますからね。ヘアピンについてのエピソードとか何かないか思い出しておいてください。それでは」
「じゃあ、ここの会計は話通り頼むな」
「え、ええ」
幸也はそういって自分のコーヒーを一息に飲み干した後ちかに続いて店をでる。そこには唐突なことについていけない絢音が残されるのであった。
「しかし電車で2時間も行くのはいいのか?」
ファミリーレストランからの帰り道で幸也が私に語りかけてくる。
「大丈夫だと思うよ。悪い人じゃなさそうだったし、それに何かあっても幸也が守ってくれるでしょ?」
「そりゃあ・・・そうだけどよ・・・」
私が幸也に笑いかけると幸谷は頬をうっすらと赤く染めながら頬を指先で掻く。
幸也は私が人の役に立ちたいと思って始めたこの仕事を、手伝ってくれる頼れる相棒だ。一人では出来ない力仕事や何と私が出来ないホームページを作ってくれたりネットで仕事を取ったりしてくれる。しかしそれも家で色々勉強している様な努力家なのだ。この仕事を始めたときもよく目の下に隈を作って授業中に寝ていた。
「じゃあ大丈夫」
「そうか・・・それでどんな感じだった?」
「うーん。いつもと大して変わらなかったよ。ただ・・・」
「ただ?」
「なんか・・・嫌?それとも不安?よく分からないけどなんだかよくない気持ちが入ってた気がする」
「まじでそんな仕事受けるなよ・・・」
「すっごい嫌な感じじゃないから...それにあのお姉さんも必死だったし、力になりたかったから」
「それじゃあ仕方ないか、本当は止めたいんだが言っても聞かないからな。それまでにしっかりと休んでおくんだぞ」
「わかってるってそれじゃあ私はここで」
「ああ、気を付けて帰れよ」
「後、家まで100メートルも無いから私でも逃げ切れるよ」
「俺だったら30メートルもあれば捕まえれるぞ?」
「捕まえられたら唐辛子スプレーをプレゼントしてあげるよ」
「さいで、じゃあな」
「うん、また明日」
そういって幸也と別れて暗くなり始めた家路を進む。数分もしない内に家に着くと鍵をだして開ける。
「ただいまー」
誰もいない家に声をかけてから家の中の電気をつけていく。そのまま自分の部屋へ入り着替えていつもの日課である家事をこなす。3年前に母が病で死んでからほぼ毎日やってきたのだ、手慣れたものである。朝に干した洗濯ものを取り込み畳んで父と私のそれぞれのクローゼットへしまい、リビングと廊下に掃除機をかけて、お母さんの遺影が飾ってある仏壇にお参りしてから夕飯の支度をする。
「今夜は・・・何がいいかな?」
冷蔵庫の中身を確認していると丁度カレーの具材が余っているではないか。
「今夜はカレーかな」
調理中は長い髪が邪魔になるため二つ編みをほどいてポニーテールにしている。そしてカレーが完成し、いい匂いが漂ってきた所で父が帰ってきた。
「ただいまー」
そう言って、リビングへと入ってくる。父はくたくたになった茶色のスーツを着ており、それなりに長くなった髪の毛はボサボサで無精髭も生えてきている。
「お、今夜はカレーか。ちかの作るやつは美味しいからな。真奈にも食べさせてやりたいのにな」
「お母さんには供えて置くからさっさと着替えてきて」
「分かったよ」
そういって父は自分の部屋へと入っていく。それを見送ってカレーの火を止めてサラダを作る。二人分のカレーを器に盛り終わって、お母さんの分のカレーも供える。
サラダの準備が出来て椅子に座って父を待つが一向に来ない。一応確認の為に部屋へと向かうと中から。
「それからな真奈...今日はちかがカレーを作ってくれたんだ。とってもいい匂いでな...真奈と一緒に食べたかったな・・・」
父は周りから一目で分かるほどの愛妻家であって、3年前に母が死んだ日から未だに立ち直れてはいない。一人になるとお母さんの幻影に話しかけているのを時々見かける。ああなってしまったら話しかけても無駄で、強く止めようとしても酷く抵抗されるだけだった。
いつか乗り越えて欲しいと思うけどこればっかりはわかんない・・・。その内に気がついてご飯に来てくれるまでにどれだけ時間がかかるか分からないから宿題をする。それが半分ほどすんだ所で父がリビングに出てきた。
「待たせて悪かったね。それじゃあ食べようか」
「ちょっと温めるから待ってて」
カレーをレンジで温め二人でカレーを食べて洗い物をし、お風呂に入って出てきたときにはすでに11時を回っていた。
「ああ、もうこんな時間か、宿題は終わらせないと・・・」
残りの半分を終わらせてベットへ入り落ちるように眠る。こうしていつもの日常が過ぎていく。
「おはよう、幸也」
「ああ、おはよう、ちか」
次の土曜日の朝、遅れないように10分前に行くとそこにはすでに幸也の姿があった。服装は土曜日であるのに制服でいつものようにあちこちが擦りきれている。私は私服で、白のブラウスに茶色のチュールスカートにしている。髪はいつもの二つ編み、この髪型をいつもしているから、これが基本になってしまった。
「待った?」
「5分前くらいに着いた」
「絢音さんは?」
そういって周りを見回して見るが居るようには見えない。
「まだ来てないな」
「じゃあ今のうちに電車の時間確認しておこっか」
「調べずにこの時間を指定したのか・・・.」
「色々あって忘れてたの」
そういってスマホで時間を確認すると9時40分に電車が出るようだった。それなら少し早く来すぎてしまったかな。
「9時40分だってさ」
「後30分後の集合時間にしてもよかったな」
「だね」
そんなことを話ながら20分後。
「こないね・・・」
「来ねえな・・・」
忘れられてしまったのだろうか?それとも怖じけずいて来れなくなったか。幸也の連絡用アドレスにも連絡はないらしく、周囲に姿も見えない。
「どうしよっか?」
「もう少し待ってみるか?」
「うーん、そうだね、これもお仕事だし待ってみようか。一応、連絡入れてみて」
「おう」
そうして連絡を入れて待つが返信はない。そこから10分ほどして、遠くに見たような姿が現れた。目を凝らして見てみると、それは以前ファミリーレストランで見た服装に薄茶色のダッフルコートを着て赤のポーチを下げている絢音さんが走っていた。絢音さんはこちらに気付くと軽く手を振ってきた。無視するのもどうかと思うので私も軽く手を振り返す。幸也は腕を組んだまま絢音さんをに睨みつけているが喧嘩はやめて欲しい。
「ごめん、待たせちゃった?」
「いえ、大丈夫ですよ」「かなり待ったよ、時間も過ぎてるし」
私と幸也の言葉が重なるが内容は正反対のものだった。幸也は腕を組んだままやはり絢音さんを睨みつけているつけたままだ。そんな絢音さんは申し訳なさそうにしている。
「ごめんなさい、昨日の夜ヘアピンについての思い出を振り返ろうとしてて色々なアルバムとか見てたら深夜になってて...本当にごめんなさい」
「いいよ、どうせ時間内ではあるし、しゃべるのはちかの役割だ」
「そうですね、それに私がヘアピンのエピソードを求めてしまったので、私のせいかもしれません。それより電車に乗る切符を買いましょう?話は電車の中でも出来ますから」
「分かったわ、行きましょう」
そういって絢音さんは少し安心した後、何度も来たことがあるかのように駅の中へと迷いなく進んでいく。入ってすぐにエスカレーターがあり、それを昇りきると壁には町の伝統的な工芸品や文化財が飾ってある。木製の車輪やかなり錆びている鉄製の大きな包丁みたいなものは一体何に使ったのであろうか、そんなことを考えているとチケット売り場に来ていたのでお目当てのものを購入してもらう。
「これでいいのね、次に時間だけど・・・」
「40分のですよ」
「そうだったの、結構ぎりぎりだったわ」
「正直その時間までどうしようか迷っていましたから丁度いいですよ。さあ、行きましょう」
そういって改札の駅員さんに切符を渡す。この駅は数年前に改築してかなり綺麗になったはずなのに、未だに駅員さんが改札に立っている。都会の方だったら改札機くらいあるはずなのになぜここは人力なのだろうか、不思議でならない。
しかし、
人力の方が何か都合がいいのかと思いながらホームに入ると既に電車が来ていた。
「それじゃ乗るわよ、座席は流石に自由席ね。いくら休日といっても祭りとかある訳じゃないし、そこまで混まないでしょうからね」
絢音さんはそういってずんずんと先へ行き私たちも後に続く。電車の号車を見て絢音さんがうなずくと「ここね」といい電車に乗り込んだ。
中は人がそこそこおり、席も1/3ほどが埋まっていた。絢音さんは空いている席へ行き椅子の背もたれの肩の辺りを掴み、椅子の前方向へと押し出したのだ。何をするのかと驚いていると、席が向かい合わせになるようになっていた。
「日本の電車ってこんなことになってたんですね...」
「ああ、これはノーベル賞取れるな」
「こんなことで驚かないでよ」
絢音さんは軽く笑い私たちに座るように促す。幸也と並んで座ると絢音さんが興味深そうな目で私の方を見ている。
「それで、ここまで来たら話してくれるのよね?」
「ええ、勿論。私が出来ることをお話します」
私がそういうと絢音さんは続きを促すように軽く頷いた。
読んでくださりありがとうございます。
ここがよかった悪かった、少しだけの感想でもいいのでよければお願いします。




