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無職とお隣さん

書きたくなったので

のんびりやりますー

 グモンは常々こう言っている──働きたいけどやる気がない。

 働きたくないわけではないのだ。自分ももう22歳、何かしら食い扶持を持たなければならないという焦りもある。もちろん将来への不安も。

 

 だがそれ以上に面倒くさいのだ。やる気が出ない。単純に、それがすべてだった。

 

「おはよすー」

「グモン、ちょっとゴミ捨ててきてー」

「ほいさー」

 

 朝、規則正しく起きて挨拶すれば日課じみたゴミ捨てを任される。

 グモンは無職ゆえ、家事手伝いは積極的にこなしていた。何しろ親へのご機嫌伺いというのは大切だ。

 

 義務教育を終えて10年、成人するまでに手に職を付けてこなかった息子がぐーたら生活を送るには、ちょっとでも存在価値を示さなければならない。

 でなければすぐに家を追い出されてしまう……そうなったら終わりだ。

 

 ここはとある国、とある町。何やら世界中で起こっていたらしい戦争ともほぼ無縁な土地の、とある地域。

 主婦の母、役人の父。程々の上流家庭に生まれ育ったグモンは程よく自活能力に欠けていた。

 

 家を出てすぐ近く、ゴミ置き場にゴミを投げ入れる。この辺りは住宅の立ち並ぶ生活区域で、この時間帯となればそれなりに人も行き交う。

 

「おっ、グモン! お早うさん!」

「おはーっす」

「グモンちゃん、お早う。今日も良い無職ね!」

「おはーっす、そうです悪い無職じゃないっすよー」

 

 ご近所さんと適当な挨拶を交わす──彼は無職だが地域交流には事欠かない。

 気付けば老若男女が仕事やら家事に取り組まんとする朝の忙しい合間を縫って、グモンと軽い世間話などしている。

 

 これも毎度のことだった。無職を中心に出来上がる、不思議な人の輪。

 

「グモンー、今夜空いてる? 飲みに行こうぜ」

「空いてない夜なんてないから良いよー奢りねー」

「こないだ貸してくれた本、面白かった! 続きある?」

「あれ実は遺作で続きとかないっぽいんだー」

「グモンくん、良ければわしの家で茶でもどうかね」

「お金くれたら行きまーす」

 

 入れ替わり立ち替わりグモンの周りを人が流れる。

 目まぐるしい光景だ……ただ一人、ボーッと佇み適当な相槌を打つグモンを除いては。

 

 かれこれ30分と過ごせば、それなりに人も減ってくる。時間的にはそろそろ、普通の職業ならば勤務開始だ。

 残った者たちは隠居した老年が多い。そちらにもやはり適当に挨拶して、グモンはさてと家に帰ろうとした。

 そんな時だ。

 

「グモンくん、おはよう」

「──サーヤさん。おはよーございまーす」

 

 グモンに声をかけるのは、妙齢の美女。豊満な肉付きに美しく熟れた色香漂う波がかった金髪の美女だ。

 サーヤと呼ばれたその美女は、くすりと笑ってグモンに密着した。

 

「ふふ、今日も人気者だったわね」

「いやー皆して無職には憧れがあるみたいでして」

「もう……毎回言うけど、グモンくん自身の魅力よ?」

「働かない男のワイルドさですかねー無謀さともいう」

 

 甘い吐息がかかる程の近さで、サーヤはグモンに触れ合う。

 30もそこそこくらいの年だが、見た目は20代前半かそれ以下にしか見えない……ましてや二児の母になぞとてもとても。

 

 やはり職業柄、生命力に満ち溢れているのだろうかとグモンには思えた……サーヤはこの国の騎士である。

 それもただの騎士でなく騎士団長。この辺でも最強の実力者とされる女傑なのだ。

 豊満な胸が眼前に迫るのを見ながら、グモンは言った。

 

「今日は遅いんですね、出勤。夜勤ですか?」

「ええ。だから暇なの……この時間は。ねえ、グモンくん? もし良ければこれから私と──」

「──何してるの、団長」

 

 顔を赤らめて、いよいよ妖しい雰囲気を漂わせていくサーヤに、後ろから声がかけられた。

 サーヤが振り向き、グモンもそちらへ視線をやる……美女がいた。

 金髪を後ろ手に纏めた、勝ち気そうな顔立ちの10代後半くらいの美少女だ。サーヤにも負けず劣らず豊満な肉体で、しかし彼女にはないエネルギッシュなエロスが感じられる。

 美少女はため息と共に嘆いた。

 

「騎士団長ともあろう方が、朝っぱらからスキャンダルですか? まったく……」

「良いじゃない、私もグモンくんも暇なんだから。ねえ?」

「そーですねー……マニーニャちゃん、やっほ」

「あ、失礼しました。お早うございます、グモンさんっ」

 

 グモンの気の無い挨拶に、しかし少女マニーニャは満面の笑みで応えた。

 彼女もまた騎士だ……それもやはり、ただの騎士ではない。

 

「もう、プライベートにまで口出さないで? 副団長」

「副団長としてでなく、娘として言ってるんです! 年を考えてくださいよもう、グモンさんには私くらいの女の方が相応しいんですからね!」

「あら……そうなの? こんなおばさん、嫌?」

「美人さんですし嫌じゃないです」

「グモンさーん!?」

 

 叫ぶマニーニャ……かくのごとく彼女は騎士団の副団長にしてサーヤの実娘なのである。

 16年前に他界した前夫との間に成した二人の子の、姉の方だ。

 

「もう、いい加減にして母さん! グモンさんを誘惑しちゃダメ!」

「そんなこと言って、あなたも混ざりたいんでしょう?」

「それはもちろ……げふげふ。まさかそんな! グモンさんはこれから私と、騎士になるための試験を受けに行くんです!」

「え、いやです」

 

 言い合う母娘。その中に断じて聞き逃せない部分があり、グモンは即答した。

 冗談ではない──マニーニャは何故だかグモンを騎士に仕立てたいらしく、度々このようなことを言ってくる。控えめに言って職権濫用であった。

 彼女は真顔でグモンに答える。

 

「ダメです」

「聞いてません」

「言ってませんから。さあ今日こそは行きましょう! 大丈夫です、私が手取り足取りで鍛えますから! やがてはあなたを騎士団長に、私が副団長として至れり尽くせり内助の功なんて、うっふふ!」

「あのー、もしもし?」

 

 すっかり何かに取り憑かれたようなマニーニャにグモンが声掛けるも返事はない。

 これもいつものことだった……どういうつもりか、グモンをいつかの騎士団長に据えて、そのサポートをやりたいらしい。

 夢見る目付きのそんな彼女に、母たるサーヤが苦笑して言う。

 

「もう、マニーニャちゃんたら……ダメよ騎士なんて。グモンくんはそんな檻で閉じ込めちゃいけないのよ」

「……またそれですか。良いじゃないですか騎士。冒険者みたいなその日暮らしになるよりかはマシですよ」

「──言ってくれるなあ、マニーニャ」

 

 と。新たな闖入者が現れた。

 グモンのすぐ後ろにぬっと姿を表して、そのまま彼を抱きすくめる。

 デカい──身長も乳も。グモンが思わずそんなことを考えるくらいのスケールだ。

 抱きしめられるまま見上げれば、そこには銀のショートヘアーが日を反射して眩しい、美女がいる。

 

「や、グモン」

「ララ。酒臭い」

「悪い。仲間内で飲んでてさ……一仕事終えたもんだから」

「ほへー……無職には縁遠い世界だぁ」

 

 ぼーっと呟きながら為すがままになる。ララ……サーヤの妹でマニーニャにとっては叔母となる。

 グモンの6つ歳上である彼女は冒険者で、彼にもよくは分からないのだが名の売れている人気者らしかった。

 

「彼氏とかいないの?」

「はー? あたしにゃグモンがいれば良いの。何、妬いてる?」

「どうせ焼くならやる気に火を付けたい……」

 

 にたー、と悪戯げに笑うララは男勝りだが女性としての魅力に満ち満ちている。

 

 服の上からでも伝わる、鍛え上げられた肉体のしなやかな柔らかさ。

 サーヤやマニーニャと同じ家系なだけあってかやはり大きな乳房が後頭部に当たるのがどこか心地よい眠気を誘うのを感じていると、ララは鼻息荒く言った。

 

「えっへへ……ヤル気だなんてそんな。嬉しいよグモン、それじゃあ行こうか!」

「あら、どこへ?」

「決まってんだろ姉貴? あたしの部屋だよ、来るか?」

「そう? じゃあ遠慮なく」

「駄目に決まってるでしょう二人とも! ちょっ……ああもう! 待ちなさい!」

 

 ずりずりと、グモンを引きずって自宅へと向かうララ。それにサーヤがついていき、マニーニャが叫んで止めようとして──結局付いていく。

 これもいつもの日常だ。

 

 はあ、と引きずられながらも息を吐いて、グモンは空を見上げる。

 雲一つ無い空は真白のキャンバスに海をぶちまけたようで、見詰めていると溺れてしまいそうだ。

 

 グモン。お隣さんにやたら溺愛してくるエリート一家が住んでいるだけの、ただの無職。

 ゆるゆるした彼のそんな日常は、今日もこうして始まったのだった。

感想とかブクマとかガンガン募集してますー

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