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素人があえて伝えるすっごくユルい小説の書き方  作者: 千場 葉
§4.しょうせつをかこう
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3.ふではこび


 筆運び…… と題しましたが、これは書道用語で小説の専門用語ではありません。

 しかし書道における書き順のように、小説の書き方にも有効な運び方というものがたしかにあります。


 小説の書き方、選び方、それはもちろん作家それぞれです。どの方法が一番いいという型は有り得ませんが、ここではある程度抑えておいて損のない、汎用性の高いものを記しておきます。

 講座冒頭でお伝えしたように、多くの技法はあってもそんなものは記しません。あくまで技法以前の基盤として、自在に書けるようになるまでの指針としてお考えください。




 (1)じょうほうのおきかた


 小説では、書くもの全てが『情報』です。周りの風景描写や人物の些細(ささい)な仕草までが、イメージを(ともな)って読み手に伝わります。


 『白い雲、青空、ギラつくような陽光。歪んで見えるアスファルト―― 日傘』


 単純に思いつくままにこう並べただけでも、読み手は自然にそれに見合った映像を頭に描きます。

 これまでのこの講座の文章に対して、何らかのイメージ映像を頭に描いていた方はどれくらいいるでしょうか? 先天的に文章を映像で捉える人や、学習のためにそういった訓練を積んでいる人を除けば、それほどいないと思われます。

 しかし小説の文章は、読み手やその読み方に関わらず、多くの場合映像で伝わります。小説の文章とはそういうものであり、だからこそ記憶に残り、楽しいものなのです。


 ところで上に置いた文章ですが、これをお読みになっているあなたは、『日傘』を“何色”に想像されたでしょうか?

 私は文章の中に“色”を入れていません。ましてや“日傘を差している人”の存在などは記しておりません。

 そして、舞台は“夏”などと、季節を限定したつもりもありません。


 では、それらの情報をしっかりと入れ、文章を直してみましょう。


 『夏の青空に白い雲が浮かび、降り注ぐギラつくような陽光はアスファルトを歪んで見せる。その上を白い日傘を差した百六十センチ程度の細身の女性がゆっくりとした速度で歩いていた』


 ……例とはいえ、恥ずかしさに負けてやや抑えぎみに書きましたが、実にひどいですね。


 一応に何がひどいかを書いておきますと、これでは“情報が多すぎる”ということです。ざっと目を通していただければわかる通り、この詰め込まれた文章では、頭に映像をイメージしきれないのです。


 一般に若い人は、同時に三つから四つのものに注意を向けられるとの研究がありますが、それは小説の書き方に関しても一つの目安と出来ます。一つの文章の中で、入れる情報の量を三つから四つ程度にしぼり、少しずつ、少しずつ読み手に理解していってもらう必要があるのです。


 一人称形式でも三人称形式でも構いません、手元にある上手い人の小説を開き、地の文を確認してみましょう。さっと頭にイメージが浮かぶ小説ほどに、『情報の置き方』は巧みです。



 ※『情報の置き方』の問題は、物語の一番最初に、長い時代設定や舞台設定を羅列された小説が“良くない”と評される一因でもあります。

 本講座の§4、「1.さいていげんのつうれい」を思い返してください。ずらりと並べられた通例は圧迫感のみが強く、あまり読もうという気にはならなかったのではないでしょうか?

 長い冒頭の語りはこれと同じ効果があります。始まったばかりで読み手を選んでしまわないように、人が理解できる情報量の制限は意識しておきたいところです。




 (2)りずむをとろう


 読点(とうてん)(“、”のこと)は、置こうと思えばいくらでも置けてしまいます。

 また、文章というものは、困ったことに接続詞次第でいくらでも繋げて成立させてしまえます。


 では、一つの文章(書き始めてから“。”で一区切りつくまで)の中、読点を使って繋げていいのはどれくらいなのかというと…… なんとこれも困ったことに、日本語にはそんなルールはありません。

 ただ暗黙的に、一つの文章に対しては三個から四個、それくらいで一区切りとするのが一般的になってはいるようです。


 義務教育で、「読点は息継ぎの所に置く」と習った方は多いのではないでしょうか? この教え方は専門家の人達からすれば大きな誤りとされているようですが、ところがなかなかに、これは馬鹿に出来ない()()です。(義務教育にしては珍しく)


 人はただ目で文字を追っているだけでも、それを「音」にしようと意識しています。斜め読みなど、特別な飛ばし読みの訓練を行った方以外は、黙読しながらも頭の中では「音読」されているのではないでしょうか。

 特に普通、小説は「楽しむための読み物」ですので、一節一節と丁寧に「音読」されている方がほとんどだと思われます。


 それだけに、「息継ぎ」のリズムというのは馬鹿になりません。


 この“素人”が書いているという講座も、これまでそういった「息継ぎ」を無視した悪文が多々あったと思います。これは“素人”ゆえの体たらくではありますが、一つみなさんにとっての反面教師的な教えになります。


 ――『呼吸のリズムを外れた箇所は、頭に入らない』。


 意識の中の「音読」が息切れしてしまうと、それ以上の文章は意識に拒否されてしまうのです。みなさんが一度で理解出来ず、もう一度読み直してしまった所が悪い文章です。

 “、”で軽い息継ぎ。“。”で呼吸を整える。そう考えると、三個から四個で“。”に到着するという心地良さにも納得いただけるかと思います。

 読み手にとって、心地良いリズムを刻んでください。



 そして、三から四といえば、「(1)じょうほうのおきかた」にも繋がります。

 一応と読点には、重文(主語と述語の入る文が、二つ以上重なる文)を分ける部分に打つという、少し専門的な目安もあるのですが、“、”から“。”の間にあまりに沢山の情報が入ると、読み手が内容を把握しきれません。(そう、この文章のように)

 そういった意味でも、出来る限り一つの文章は長くなり過ぎないようにしましょう。



 ※読点は、簡単そうに見えて実は本当に難しいものです。きっと文章がうまくなればなるほどに、どんどんとわけがわからなくなってくると思います。その理由は、「実際には明確なルールは無いから」に他なりません。

 一応の目標としてのゴールラインは、「打った場所のせいでの勘違い」を読み手に与えないことです。

 

 例:僕はにやけた顔で頼りなく笑い、落ち込む彼を励ました。


   僕は、にやけた顔で頼りなく笑い落ち込む彼を励ました。


 そもそもこんな読点一つで誤解を生むような文章を選ぶのもどうかと思いますが、夢中で書いていると充分に起こり得ることではあります。書いてから少し間を置いて見返せば「あれ?」と気づくことがありますので、過去に書いた文章を読み直す癖をつけましょう。少し直せば少しずつ、その経験で文章は上手くなっていきます。




 (3)かきだしからのすすめかた


 文章の『書き出し』は多くの人が悩まれることで、それはこの先ずっと続いていくことでもあります。


 単に“物語冒頭の書き出し”というのであれば、「作品全体の雰囲気がそこだけで伝わる一文を」や「最初のアクションまでは出来る限り早く」など、少し探せば色々なアドバイスを拾うことが出来ると思います。ですが()()()書き出しとなると、最小単位と思われる句点(“。”のこと)のあと、段落のあと、場面転換のあとと何度となくあり、そこに逐一としたそれらしい答えなどは用意されるものではありません。


 実際には「彼は、●●で、●●だった。だから私は~」のように、句点程度からの書き出しであれば、前の文章から論理展開が続いているので迷うことは少ないと思われます。しかしその『書き出し』が全く新しい内容の書き出しであればあるほどに、文章の書き出しは非常に悩ましい問題となっていきます。


 これはいわゆる“産みの苦しみ”というものですので、慣れればどうにかなるというものではありません。むしろ多少書き慣れてきたあとの方が、「またこのパターンでいいのだろうか」、「もっと印象的に書けないだろうか」と難しく感じてきてしまうものです。プロットが有り書くものが決まっていたとしても、この問題を防ぎきることは難しいでしょう。

 結構な経験者の方が「今日は結局一文字も書けなかった」と嘆かれていることが多々ある通り、尽きない問題です。(脳は“慣れ”が大好きなので、さんざん悩んだ挙げ句にいつものパターンというのもよくあることです)


 つまるところ、こればかりは助言しようにもしきれないばかりか、むしろどうしようもないことではあるのです。しかし小説を書き始めて早々に、「何から書けばいいかわからない……」となってしまった入門者さんのために、よく使われる“書き出しからの進め方”を数パターン用意してみました。

 どうしても書き方がわからないという方は、なんとなくなヒントとして。今はちゃんと迷わずに書けているという方は、新たなパターンのアイデア材料として捉えてください。



 ・『背景から入るパターン』


 ドイツの作家ヘルマン・ヘッセなど、古典文学に多く見られるパターンです。

 空の様子や遠く見える景色をダイレクトかつ豊かな表現で描写し、そこから肌に感じる気候や手近な物体にまでフォーカスを絞り、人物の描写へと至ります。遠景から人物のいる近景へ―― 映像作品のようなパターンと認識して差し支えありません。

 表現力と文章力のいる書き出しではありますが、読み手側からすれば映像が想像しやすく、書き手側にとってもある程度の順序通りに書けばいいという感覚なので、やりやすい進め方です。

 作品の冒頭や章の始めにはとても使いやすいパターンですが、冗長になると読み手はすぐに飽きてしまいます。筆力に余程の自信が無い限りは、早く人物に到着出来るよう抑えめに書いた方が無難です。



 ・『会話文から入るパターン』


 一行目、もしくは一行の地の文の直後に会話文を置き、会話文の内容をきっかけにして書き進めていくパターンです。

 会話文の内容が印象的であればあるほどに効果のあるパターンで、うまく読み手の興味を掴むことが出来れば、そのままぐいぐいと物語に引き込んでいくことが出来ます。

 作品の冒頭から使う作品もありますが、最も使いやすいのは物語の場面が切り替わった直後でしょう。ある程度物語が進んでおり、口調一つで人物が想像出来るような状態であれば、読み手の側にも戸惑いはありません。

 他のパターンに比べて堅苦しさが薄い分、どうしても稚拙に見られがちですが、実にムダが無く効率的な書き出しです。唯一欠点があるとすれば“便利過ぎて気づけば乱発してしまう”という点でしょうか。

 パターンが稚拙ではなくとも、工夫を忘れてしまうことは稚拙です。これ一本になってしまわないように気をつけましょう。



 ・『人物から入るパターン』


 三人称形式であれば人物の容姿や略歴などから、一人称形式であれば人物の個人的な独白などから。その物語全体、もしくは章の中心となる人物一人にフォーカスを当てて書き始めていくパターンです。

 推理もののサスペンス形式(犯人がわかっている状態で進められていく形式)の冒頭を想像していただければわかりやすいでしょうか。犯人が個人的な独白を絡ませつつ、実際に犯行に及んでいくまでを描く冒頭も、このパターンの一つです。

 中心となっている人物が余程親しみの湧かない人物で無い限り、このパターンは強烈な吸引力を生みます。書き方としては、基本的にその人物の目に映ったものを書き出していけばいいだけなのですが、そこは“フィクション”の世界です。普通は気にしないだろうという遠くの風景や、ちょっとした体の感覚なども忘れずに示していきましょう。

 


 ・『わざと遠回りで入るパターン』


 社会、歴史、哲学、心理、ことわざなど、物語に全く関係の無い内容の考察から入り、最終的に物語や人物へと絡んでいくパターンです。安っぽさを感じさせない程度の知識量があれば、意外とそれほど難しくはない入り方ですが、一作品につき一回くらいしか使えないところがネックでしょうか。

 やり方次第ではかなりのインパクトを残します。どちらかといえば書き手の側にモチベーションをもたらしますので、面白そうなら挑戦してみるのもいいでしょう。

 くれぐれも、特別な理由が無い限り乱発は控えましょう。




 それらしいことを並べたてていますが、文章は自由なものです。

 §4で語ってきた内容はあくまで全てが“通例”であって、一切答えではありません。


 昔ながらの文学作品で素晴らしいものもあれば、ネット上で見られる会話文のみのSSであっても、一般の小説より面白く感じられるものはいくらでもあります。


 どうか“ルール”ばかりに縛られたり、難しく考え過ぎたりせず、恐れることなく文章を書いていってください。


 私から語ることのできる『執筆』の行程は以上です。

 今はよくわからない部分があったとしても、実際に小説を書き始めるようになり、しばらくしたら是非こちらをもう一度読み返してみてください。


 その時は、今よりも理解できることが増えていると思います。

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