コラム―― という名の反省会
「3.さいこうせいしよう」の内容が、これまでにも増してあまりにあまりだと思ったので、反省の弁を述べることにしました……
何が『根気あるのみです! ここまできたあなたなら出来ます!』ですか…… なんという投げっぱなしジャーマンですか。ひどいにも保土ケ谷ですよ。
思えば『素人があえて伝えるすっごくユルい小説の書き方』などと題して書き始めた癖に、ぜんっぜんユルくねーじゃねーですか。
ユルいの毎回のタイトルが“ひらがな”なだけで、最初から無理難題のオンパレードっスよ。
『準備』はともかく『妄想』ってなんだよ! 普通出来るのかよっ! やってるけど! 脳科学的には誰でもいけそうだけどホントにみんな出来るのかよ! やってるけど!
それに『プロット』キツ過ぎるだろ! これ割とフツーにガチの書き方じゃねーか! もっとサクッといけるユルい手法もあっただろう!
だいたい今お前の『玄人仕事 #8』のプロット調べたら――
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1.ダテ、酒場で酔っ払いを追い出す。(4)
2.ダテ、アパートでの状況説明(4)
3.ムクィドにデイトルが現れる(6)
4.ダテ、店前での掃除中にナタリーが封筒を持って二階に上がるのを見る(7)
5.デイトル、再び現れる(9)
6.世界が■■■に■■。(10~1)
7.ダテ、ナタリーにムクィドを紹介され、■■■■を把握する(1)
8.ダテ、■■会話の中、ナタリーからデイトルの話題を聞き出す(3)
9.デイトルの店へと行く、■■■について詰める(4)
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なんだよこれっ! なんなんだよこれっ!
お前あの時のプロットこれだけじゃねぇか!(よく書けたな……)
※一部伏せ字にしてあります。
……というわけで。
別に嘘をお伝えしてきたわけではないのですが、数年前の『異世界転生できませんでした。』の時に続く、タイトル詐欺になっている本講座。反省することしきりです。
なんのフォローにもなりませんが、ここまで読まれてしまったあなた様は、「あ、これでも小説って書けるんだ」くらいに、肩の力を抜かれても大丈夫なのだとお思いください。
入門者、初心者向けと唄いながら、無茶ぶりばかりのこの体たらく。
せめてものお詫びとなるかはわかりませんが、本コラムでは「3.さいこうせいしよう」で即座に活かせる、『㊙これさえやれば面白くなるっ』という必殺手法、必ず殺すと書いて…… なんて読もう? を、ご用意させていただきました。
取るに足らぬ心ばかりの手法ではありますが、千場の作品作りにおいての秘訣でもあります。ご一読の上、お納めください。
『㊙其の壱.カットの奥義』
物語を書き始めると不要なシーンは山ほど出てしまうわけですが、どのようなシーンも読み返せば読み返すほどに愛着が湧き、中々に切り辛くなっていくものです。
そんな時はシンプルにルールを決め、機械的にバッサリいきましょう。
まずぶった切るのは、『動かないシーン』です。
一切物語が動かない、読み飛ばしても次のシーンからで何も問題無い。そんなシーンは結果として書き手と読み手の時間を奪ってしまうだけなので、切り落としてしまいましょう。
そして次に、『作者だけが楽しいシーン』もカットです。
具体的に言えば「ムダに詳しい知識の披露」や「作者の個人的信条や経験則のみでの何かへの言及」など、一般的な読み手にとって不快なだけだったり、退屈で「ほ~ん」としか思わないだろうシーンです。
§2の「1.かきたいもののみつけかた」でも少し触れましたが、人の脳は『自分語り』に快楽を覚えます。楽しいのは自分だけかな? と思い直し、物語に関係無さそうな部分なら切ってしまいましょう。
最後に、『作者が好きな、お気に入りの会話シーン』です。
意外に思われたかもしれませんが、こいつは最強クラスの大敵です。目に見える実害としては、「中身が無いのにムダに長いだけの会話になりやすい」ということがあります。お気に入りの会話ということだけに、「作者の手を離れ勝手に動き出す登場人物」がこういったシーンには絡むのですが、“目に見えない実害”を考慮に入れれば、それは非常にまずいシーンです。
“目に見えない実害”―― とは、
――『なぜか作者がお気に入りのキャラは、読者には支持されていないキャラ』
という、物語創作においての不思議なセオリーが生み出す害です。
想像してください。あなたの読んでいる作品で、あまり好きでもないキャラが長々ダラダラと中身も無い会話を続けている様を―― さぁ切りましょう! いますぐなう!
なお、映画などの映像作品においては、『取引の無いシーン』が古典的なカットの対象とされています。取引とは、実際に何かが誰かの手に渡ったというわかりやすいものでもあれば、誰かと誰かが会話をして、それによってどちらかの心が動いた、というものでもあります。
これは時間的制約の中、全てのシーンに意味を持たせなければならないという映像作品独特のもので、ことゲームや小説など、長さの制約が薄いものにおいては絶対のものではありません。
無駄な長い説明が知的好奇心をくすぐる、無駄な会話が愛着を呼ぶ―― それを使えるという小説の強みも、頭の片隅に置いておいて損は無いと思います。
『㊙其の弐.プラスの奥義』
『スタート地点 → ? → ? → ………… → 見せ場 → ? → エンディング』
『妄想』のセクションで、このような式をお出ししたのを覚えていらっしゃるでしょうか?
プロットを仕上げられた方は、今頃は全ての「?」がめくれ、物語の全貌が露わになっていると思います。えっちですね。
さて、全てを裸にしたえっちな人は、この式をこうしてみましょう。
『スタート地点 → ○ → ○ → ………… → 見せ場 → ● → 見せ場Ⅱ → エンディング』
これこそは、至上究極とも言える最終奥義です。
はっきり言って、何年も語り継がれるような名作はほとんど全てこの図式で成り立っています。
「見せ場」という最高のシーンがあり、それが終わったあとに全てを覆すような展開「●」から、「見せ場Ⅱ」に繋がり、「エンディング」を迎える。
ミステリー小説で言えば、「名探偵が暴き出した犯人」が、実は「更に奥にいる犯人」への足がかりでしかなかった、というような、読み手であれば燃えざるを得ないような展開です。これをやられて、うっかり夜が白むまでページをめくらされた人は結構にいるのではないでしょうか?
「起承転結」という作法に乗っ取って、順序良い展開があって、綺麗に終わる―― という基本だけの展開も悪くはありません。文学作品なら美しいものが書けそうです。
ですが人は、もっとワクワクしたいのです! もっと予想を裏切って欲しいのです! 箱の中に人が入って、中の人が消えるくらいじゃ「すごいね(知ってた)」で終わってしまうのです!
私は「物語の作り方」で昔話を例に出されるのは、基本と言いながらもなんだか読者を小馬鹿にされているようで正直好きではないのです。しかし、ここはあえて「川から桃が流れてくる話」を元に例えましょう。
あのお話は――
『桃から生まれた少年が、成長して、鬼をやっつけに行って、宝を持って帰る』
――という、まさにお手本のような展開で構成されています。
ですが、「これで誰が喜ぶんですか?」という話なのです。ちっちゃいお子さんか、袴少年が大好きな婦女子くらいでしょう。作品としては見事であっても、面白さや読み応えという点では、物足りないとしか言いようがありません。
「じゃあどうしろっていうんだよ?」って言われたら、私ならこうです。
『宝を持って帰ったら、家が燃えていた』
どうですか? 「なんでだよ!?」って思うでしょう? 年寄り二人は無事なのかよって心配になるでしょう? 誰がやったんだって思うでしょう?
少なくとも、「川から桃が流れてくる話」を温和そうなおばあさんが普通に朗読していたとして、ラストだと思っていたところにいきなりこの展開を聞かされたら、思わず身を乗り出してしまうでしょう?
――と、馬鹿馬鹿しい例え話はさておき。
人は意外性と、それがもたらした驚きの瞬間を強く記憶します。「驚かされた一点」のあった作品は、その一点を元に全体像をも記憶され、読後も長く長く人の記憶に残り続けます。
何年と忘れられず、語り継がれていく名作。“忘れられない”理由の一つは、こういった作者の冒険心、型を強引に破ってでも読者を楽しませたいという、遊び心にあるのではないでしょうか?
さぁ、ビビッときたあなたは早速チャレンジしてください。今から第二の見せ場のために、第一の見せ場に至るより前の時点から、伏線を張りまくっておいてやるのです。
そのためのプロットです。切り貼りしまくって、読者のみなさんを仰天させてやりましょう!
以上、何かの参考になりましたでしょうか?
カタいのが続いて、ちょっと壊れ気味な千場でした(^^)/
え? その後ピーチボーイはどうなるんだよって?
さぁ…… きっと倒れたおじいさんから“大きな桃”の真実を聞かされて、桃に乗って時の川を遡って行くんじゃないかな? それで赤子に戻って川を流れてくるところからもう一度やり直…………
今回は「反省会」という形で書きましたが、連載終了後もコラムの投稿は有りの方向で考えています。
現在は他にコラムの予定はありませんが、本作品は「講座」ということで一部その特性を活かし、本講座をお読みの皆様よりのご質問を賜りたいと思います。
これを機会に本講座への疑問点や、直接千場に問い合わせてみたい事柄などがありましたら、「メッセージ」や「感想」、「活動報告」までお寄せください。
現時点でお約束は出来ませんが、今後ご意見ご質問の多い内容に関しては、また別の機会にコラムにてお答え出来るかもしれません。(ごく個人的かつ、簡単な内容であれば直接答えることも考えています。千場はあくまで個人でありますので、確約はないものとお考えください)
それでは次回からは、『執筆』の講座となります。
是非これをお読みの皆様も、ご自身のプロットを用意してお待ちください(^^)/




