被撃墜数カウント1
こっから展開変わるよー。
正月早々更新だよー。
質問などがあれば、感想フォームで遠慮なく聞いて下さい。評価ゼロでもオッケーなのでね。
レッドアラート!
機体を捻り上げ、急降下しながら左へとロールし、エンジンを全開にして速度をあげる。
なんとかミサイルは振り切ったが、敵はまだ多い。ちくしょう、敵も上の下って奴ばかりだ。
またレッドアラート! 休む暇もなくまた逃げる。仲間を気遣う余裕もなく、叩くよりも無様に逃げることに集中する。敵はピッタリと俺の後ろに付いてきていて、しつこく狙ってくるのが一機。
右にロールし、機体を背面まで持ってくる。そしてそのまま機体を斜めにロールさせる。地上から見れば、斜め宙返りだろうな。
敵は大きく下にバレルロールしながら俺を追ってくる。だがそれが狙い目だ。
思いっきりブレーキをかけ、速度を落とす。
この機体が異常に腰の柔らかい戦闘機でよかったな。
ころころ曲がるんだよ。
機首を上に向けて、そのまま180°回転する。
これで敵の機影が目の前に見えるようになる。
ほんの一瞬だけどな。
機関銃を掃射しながら、右下に滑り降りる。ミサイルは俺の左を通り抜けていった。
それから地面を触れるか触れないかの所で、左にロールする。それから上を飛んでる敵さんをロック。下から一発撃ち、様子を見る。このミサイルを避けるのにそれなりに必死になってるようだ。俺も絶対にロックを外さないから、かなりしつこくミサイルは追うだろう。
それから機体の速度を上げてから一気に上昇し、真下から奇襲をかける。
「逃げんのが下手くそなんだよ臆病者がッ!」
そのままギリギリまで接近し、下から機銃の雨をお見舞いしてやる。仕上げに追い続けたミサイルが着弾、爆散した。あれじゃ中に乗ってた奴は即死だろうな。
下で戦ってる奴らの少し上で機体を水平にし、ほんの少しだけ、気を休める。機体は横滑りさせたまま。これでもしも突然襲われてもほんの少しだが回避率は上がる。
はずだった。
アラートが聞こえて操縦桿を傾けようとした時には、時既に遅し。
ミサイルは俺の機体に直撃していた。
最後に声が聞こえるかと思ったが、走馬灯もなくただ甲高い音が聞こえただけだった。
俺がまだ、サンタさんを信じていた頃、俺には好きな女の子がいた。
その時はまだ今みたいに擦れていなくて、ナンパどころか女の子と顔を合わすだけで真っ赤になっちゃう純情ハートだった。嘘じゃねえよ。
その子と俺がそれなりにいい雰囲気になってきた時、俺は親の都合で遠い場所に引っ越した。その時の俺は、距離が離れるってことをまだよく分かっていなくて、ちょっと長めの旅行みたいに感じていたんだ。もっともそれが間違いだってことは、少し新居から自転車で走ってみれば分かったんだけどな。どこまで行っても同じ景色。まるで絵本の中みたいだった。新しいお家には冷たい雪が降り積もっていて、周りの家も全部真っ白だった。最初こそ雪ではしゃいだもんだが、2年もすりゃ雪で遊ぶことなんかなくなる。
その子とは一応連絡を取り合っていた。一か月に一回届く手紙っていう、薄くて千切れてもおかしくないものだったけどな。だけど信じられないことに、そんな関係でも俺達はお互いの事を思い続けていた。思えば長く続いたもんだった。俺がジュニアハイスクールの3年の時まで続いたんだからな。
別れとなる日は、俺達が自分達で決めたようなもんだった。
最初で最後、俺達は電車を乗り継ぎ、約束した場所まで会いに行った。
場所は有名な水族館があった港町。俺からは電車で9時間、彼女からは電車で3時間の場所だ。飛行機を使えば良かったんだが、そんな金は学生である俺達にあるわけがなかった。
思えば、この時が一番幸せな時間だった。ただ期待に胸を膨らませて、電車に乗り続ける。深夜に発車する電車に乗ったくせに、俺は半分以上の時間、窓の外の真っ暗闇を見つめ続けて彼女の面影を探し続けていた。手紙に同封された写真を思い浮かべて、その姿を闇に描きながら。
いつの間にか落ちた眠りから目覚めた時、辺りは異常な喧騒に包まれていた。
漏れ聞こえる話を聞く限りでは、線路が爆撃の直撃を受けてこれ以上進めないとか何とか。
そして、目的の町が爆撃を受けたらしいことも。
電車が止まったここからその町までは、そう遠くないはずだった。あと6時間ぐらい歩けばなんとかなる。
他の乗客が止めるのにも関わらずに、俺は歩いた。泣きながら、戦争を恨みながら、金がない自分を恨みながら。走って休んで、走って休んで。諦めそうになっても、彼女の笑顔を思い浮かべて歩き続けた。
思えばこの時が俺にとって初めての戦争との出会いだった。戦争ってのは、いつも突然自分の身に降りかかってきて、それは自分が軍属じゃない限り防ぎようがないんだ。そう分かったのもこの時だ。
着いた街はひどい有様だった。火はもう消えかけていたけど、火傷で苦しむ人の列はどこまでも続いていくかのようだった。
約束の場所は、奇跡的にも爆撃を受けていなかった。多分、敵のご配慮って所だろう。
けどそこには大勢の怪我人が集まる場所となっていた。水族館の職員らしき人間も、血が付いた包帯を両手いっぱいに抱えて走り回っていた。魚たちの水槽にも、血のペイントは時々飛んでいた。その水槽を眺めたまま死んでいる子供もいた。その水槽の中で魚は元気に泳ぎ回っていた。不思議だった。
凄惨な状況の中、彼女の姿を探した。約束の時間はとうの昔に過ぎていたけど、彼女なら待ってくれているかも、とそう思ったからだ。もっとも、そんなの俺の自惚れで、彼女の姿は街中どこを探しても見つかることはなかった。死体の山も半泣きになりながら見たけど、その山から生える女の子の腕を引っ張って、胴体がくっついて来なかったのを節目に諦めた。
そしてそれから彼女からの手紙は届くことはなく、俺も手紙を送るのをやめた。
呆気ない幕切れだった。笑っちまうぐらい、呆気なかった。
既に自分の町になった雪の町に戻って、俺は泣くことすらせずにただ虚ろに毎日を過ごした。その虚ろさから抜け出したくて、色んなもんにも手を染めた。ハイスクールは卒業するのがいっぱいっぱいの成績で、夢なんてもんも希望なんてもんも全く見えなくなっていた。ただ遊び歩いて、彼女の影を忘れるために女に溺れた。愛もクソもない、身体だけの関係に溺れた。相手も似たようなもんで、事が済みゃ示し合わせたようにさっさと互いから離れた。
俺が家に帰らなり、女のぼろアパートでヒモとして暮らしている時に、突然俺の爺さんが訪ねてきた。
堅実な公務員、それが俺の爺さんだ。俺にとっては、昔も今も尊敬するべき人だった。だから爺さんが訪ねてきた時のショックは、今思い出しても胸に刺さる。尊敬している人に軽蔑されることを、俺は今更ながら恐れたんだ。
爺さんは完全に腑抜けになった俺に向かって、いきなり銃を抜いた。
その瞬間、俺はそれを綺麗だと思った。その銃がとても綺麗だ、と。自分に向けられる銃口を眺めて綺麗だなんて思うんだから、俺は相当な変態だろうな。
「すまん」
顔中に苦しさを湛え、しわを一層深くしながら爺さんは短く呟いた。そしてその言葉の意味を悟る間もなく、爺さんはその次の瞬間俺の脚を撃ち抜いた。
その時俺がなんて思ったか、分かるか?
なんで殺してくれないんだ、って思ったのさ。
激痛に喘ぐ俺を尻目に救急車を呼び、俺と爺さんは一緒に病院に行った。
その病院での出来事を、俺は一生忘れないだろう。爺さんは俺に説教をかまし、それから軍隊に入れと言った。軍隊に入って自分を叩き直して来いと。軍隊に学歴は関係ないから、それにこの御時世どんなガキでも入れるだろう、だから心配はいらないと。そして死にたがっていた俺はそれを快くやけくそに承知した。正直、俺の人生をぶっ壊してくれた敵国の馬鹿野郎に銃を撃って死ねるんなら、それもいいと思ったしな。バカだから、死に場所が戦場ってのもカッコいいじゃねぇか、とかアホなことも考えた。
その時、爺さんから俺を撃った銃を渡された。これを持って行け、と。
ガンブルーの芸術品のそれは、SIG-P210といった。昔は一丁1500ドルもした代物で、今ではかなりのプレミアが付いているらしい。ちなみにそんなに高価なのは前期型だ。そして俺が持っているのも前期型。じいちゃんはガンマニアだったのかね。そんな話は聞いたことないが、もしそうだとしたら俺にもその血は流れているんだろうな。
俺はこの銃に誇れるような人間になったのか?
なぁ? どうだと思う?
お前なら答えてくれる気がするんだ。
相棒。
P-210の話:
P-210はスイスが作った傑作の自動拳銃。主なパーツは殆どが鉄の削り出し加工で行われ、古き良き時代の体現とも言える芸術品。本編でも語られているように、その色はガンブルーであり、吸い込まれるほどに美しい。
当時の拳銃としては絶対的で他の追随を許さないほどの命中精度があり、それに比例して値段も高い。値段は本編でも言ってるが、当時で1500ドル。たかだか拳銃一丁にそんなにかけてどうすんだよって言うぐらいバカ高い。
他にも書きたいことあるけどここらへんで乙。