狭い空
えっとですね、急造品なんで所々荒いところがあるかもしれません。それとエースの条件ですが、累積撃墜数が5機以上です。お詫びしておきます。本文でも訂正しておきます。
それと批評くれると嬉しいにゃ〜。
速度をマッハ2で安定させ、HUDの敵性表示を睨むように目を凝らしながら見続ける。距離を示す数字がどんどん小さくなっていく。緊張感はすでに臨界まで来ている。敵ももう気付いていい頃だ。
「20キロ圏内まで近づいたら中距離空対空ミサイルで、どれかれ構わず敵をロック、攻撃しろ」
「了解」
その範囲に入るほんの数秒前に相棒が指示を出した。もう少し余裕を持って指示だしをしてもらいたいもんだ。
敵の数は爆撃機2、護衛機6?
随分少ない。まぁ、もっと先の洋上で迎撃部隊と交戦してるからそのせいだろうな。その迎撃を逃れた悪運の強いヤツだけが、帰るに帰れず目標まで辿り着いちまった、と。これは後ろの連中をを待たなくても相棒が全部落としちまうかもなぁ。
っと、ロック。敵護衛機。
「撃て」
呟くような合図。だが聞きなれた、聞きとりやすい声だ。情熱に踊らされてただ怒鳴るだけの奴よりはよっぽどマシ。むしろ心地いいぐらいだ。
「了解!」
2本の槍が敵まで一直線に伸びていく。その間、敵を俺は見続けなきゃいけない。これはミサイルの性質のせいなのだが、ロックし続けていればこちら側からの情報とリンクし、かなりの機動性で敵を追い続ける。俺なら絶対に使われたくない代物だ。
敵が一気に高度を下に下げ、それを避けた。だがミサイルは尚も追い続ける。悲鳴が聞こえてくるような敵の慌ただしい機動をほくそ笑みながら、俺は警告音がしたのを確認して速度をそのままに保ち、敵より上に上がった。もちろん、機体を反転させて敵をロックし続けている。
それは相棒も同じで、俺より少し前を飛んでいる。
「ロックされている」
「あんたもな」
もう軽口を叩く余裕はない。
敵の護衛機はほぼ全機が俺達の事をロックしていた。距離は既に5キロ内。ドッグファイトに持ち込むつもりか、それともそう見せかけて直前にミサイルを撃つのかは分からない。
「爆撃機を優先的に排除。護衛機は後発に任せていい」
「うい」
「敵の後ろまで行けるなら一気に行け。あとはいつも通りだ」
「アレか」
かなりの高Gがかかるからあんましやりたくないんだけどなぁ、あれ。しょうがねぇ、生き延びる為だし四の五の言ってられんか。それに相棒に置いていかれる二番機ってのも格好がつかねぇしな。
「スペリング交戦」
「フォルケ交戦」
1キロ圏内まで来たとき、俺が見ていた前で敵が墜落した。どうやらミサイルを避けようともがいてた護衛機の一機が海上に激突したらしい。馬鹿じゃねぇの?
どちらにしろ、これでスコアは1プラスだ。
警告音がより一層高くなる。ミサイル接近を告げるものだ。だが悲しいことに、真正面の敵に対してはミサイルは外れることが多い。さっき俺が撃墜した馬鹿野郎は真性マジモンで、引きつけてから回避行動に移ればいいものを、かなり遠い距離からそれに移りやがった。焦りからだと思うが、少しは冷静になれ、と敵ながら言いたくなる。
ミサイルとの距離300m。
機首を一時的に60度まで持ち上げる。割とスレスレでミサイルは俺の後ろに飛んでいった。緊張するが、慣れと経験があればどうってことはない。交戦中にやられたら流石に俺でも怖いが。
敵の編隊の直上、こっからが俺達リトルヴォーゲルの見せ場だ。
マッハ2の状態でのクルビット。(機体の高度を変化させず、機体が進んだまま一回転する芸当)耐G訓練を受けていない人間なら、確実に意識が飛ぶか、下手すりゃ死亡だ。そして反回転、つまり機首が敵さんのケツに向けられた瞬間にロック、二発のミサイルを放つ。
俺達はこれでいくつもの敵を沈めてきた。元アクロバットチームの俺と、この機体のテストパイロットとして訓練してきた相棒。俺達だけの戦闘機動。
爆音、護衛機を2機片づけた。これで俺のスコアが2、相棒が1。
そのままクルビットを終え、機首を正面に戻す。その後、大きく右にターンし、後ろから敵に食らいつく。
これからが本当の空戦、相棒の舞台だ。俺はさながら、スポットライトを操る黒子か。だがそれも悪くはない。
空戦で必要なのは何か? よく新兵に聞かれることだ。
技術? 当たり前だ。
機体のスペック? 二の次だ。
スピード? That‘s Light!
戦闘は短期決戦、電撃戦。これが鉄則だ。それは人間同士の戦闘でも、空でも。
相棒が爆撃機に舵を取る。まるで跳ねるような機動だ。俺はそれになんとか付いていく。
だが護衛機の横からの攻撃が相棒を邪魔する。その瞬間、相棒は叩き落とされたかと錯覚するほどに急激に下降し、今度は垂直に上昇、この時敵にミサイルを放つ、機体を横転させてフルスロットルし、直角に曲がる。相棒のインメルマン反転はまるで振られるナイフのように鋭い。
相棒が忘れずに放ったミサイルは、敵のジンキングによって外れた。本来なら外れるはずもないが、多分相棒はそこまであの機体を落とすことに執着がないのだろう。落とそうと思えばいつでも落とせるから。どちらにしろ、あの戦闘機は長くは持たないだろう。ジンキングとは、機体の不調や被弾などにより上手く飛べない時に行うものだからだ。ただ上や下に波のように機体を飛ばし、なんとか最低限の動きで避けようとする。そこからの攻勢も撤退もない。
相棒の後ろに付いていくと、普段見えないものが見えてくるようになる。天才の視点と言うべきか、死神の視点と言うべきか。凡人では気付かないほんの一瞬のコンタクト。瞬くよりも短い殺しのポイント。そこを相棒は予測し、そのコンタクトが訪れる数瞬前に反応する。勘がいいなんてもんじゃない、相棒にはまるで未来が見えているんじゃないか、そう思うほど。
あるボクシングのチャンピオンは、自分や相手が撃つパンチの道筋が見えると言っていたが、それと同じようなことなんだろうか。降りたら話を聞いてみるか。
そこで敵の上からミサイルを発射。爆撃機に一発。そして左にロールし、護衛機を追う。
「フォルケ、こいつらは雑魚だ。護衛はいらない、自由にやれ」
「うい、了解」
相棒から離れて上に上がる。と、爆音。どうやら相棒が一機落としたようだ。
これで俺が2、相棒が2……っとまた落ちたな。相棒が3、と。
あとは爆撃機が2、護衛機が1。
「じゃあ俺は本丸を仕留めるか……」
機首を垂直に上げ、エンジンの推力を弱め、エアブレーキ。これでストールの完成だ。
機体は機首を上に向けたまま、ゆるゆると回転しながら落ちていく。敵からは機体の故障や、下手な操縦にしか見えない。そして落ちていく。爆撃機と爆撃機の間に。
回転の高Gと独特の浮遊感が体を包む。アクロバット飛行隊、ブレンフェーダー時代によく味わった感触だ。とても幸せな気持ちになれる、落ちていく感覚。
敵の爆撃機の前を落ちていく。向こうのパイロット達と目が合った。顔も見えた。
「すまねぇな」
一瞬だけの顔見知りに謝りながら、真上を通って行く機影をロック。そして引き金を引く。
直撃、爆風、轟音。
ラダーを回転と逆に当てて回転を殺し、それから操縦桿を引いて機体を平行に戻し推力を上げる。
他の奴らはストールを嫌う。落ちていくのは嫌なもんだし、何より隙を生む。リスクが高すぎるからだ。それに、どっちかというと文字通りひよっこのやるミスだしな。だけど俺はこの機動が好きだ。
何故なら俺しか好んでやる奴がいないから。
さっきのは俺達の戦闘機動、だが今のは俺だけの戦闘機動。
と、上を飛んでいた爆撃機がまた落ちた。やったのは相棒か。周りを飛んでいる敵機は無し。
『敵機全機撃墜。リトルヴォーゲル、並びに基地守備隊1から2番まで全機帰還せよ』
やっぱし、増援が来る前に全部やっちまったな相棒。まったく、化け物め。
「フォルケ」
進路を基地に取り、やっと静かになった空。俺が身を包む興奮から抜け出せないまま飛んでいると、相棒から通信が入った。多分お説教だろうな、声が固い。
「なんだよ?」
「あの機動はやめろと言っただろう」
「うるせぇな、俺の勝手だろ? それとも隊長命令かぁ?」
「心配だから言っている。命令ではないが、やるのはやめろ」
「へえへ。せいぜい胸に納めとくよ」