戦闘の前に
ちょっとおかしいところあるかも。
ちなみにHUDは高度や敵との距離、そしてロックオンを行う透明な液晶みたいなもん。
IRSTは説明がめんどくさいけど、簡単にいえば機首についた超高性能センサーって感じ。見た目はR2D2(スターウォーズの)っぽい。くるくる回るセンサー。
こいつの凄いところは、パイロットのヘルメットと連動していて、パイロットが見ている方向を探知、さらにロック出来ること。
『リトルヴォーゲル隊、高度制限を解除する』
渓谷の出口、広がった部分から出て崖の上まで上昇する。あっという間に崖が真下になり、そこから巡航速で港まで出る。大してでかい港じゃないが、上陸する足掛かりにゃ上場だろう。
「なぁ相棒。ここが攻められるってことは港もぶっ壊されんのか?」
「いや、港には利用価値がある。占領という形になるだろう」
答えが返ってきて安心した。無線の双方向回線を切っているわけじゃないようだ。向こうから俺には通じないが、俺から向こうに通じるようにはなっているらしい。つまり、向こうが会話をしないために無線を切ったが、こちらから向こうへ駄弁った場合、その言葉は相棒に届く。だからもし俺が一方的にベラベラと喋っても聞こえていたわけだ。
そして結局、俺の問いに反応して無線を開けた、と。
相変わらずお人好しだな。言葉は冷たいくせによ。
まぁ実際は無線を完全に切ったらいろいろと面倒な事態に陥りやすいからだろうけど。
「そうなったら港にいるかわいこちゃんとも会えなくなるなぁ。これは是が非でも守らねば」
「お前、ガールフレンドいたのか?」
「いや回数券が溜まってるだけっす」
「くそったれだな」
「今さらかよ?」
「今度こそ見損なった。地面に降りたら横っ面引っ叩く」
「おおこわ。じゃあ地面に降りたらヘルメット脱げねぇな」
『軽口を叩き合っているところ失礼だが、そろそろ敵の編隊が見える筈だ。発見次第、電撃戦を行え。君らが敵の足並みを崩し次第、すぐに応援部隊も交戦に入らせる』
「スペリング了解」
「フォルケ了解〜。てか俺らって当て馬?」
それから数秒沈黙が支配したが、すぐにそれは破られた。
「前方に敵編隊を確認。距離約35」
相棒がそう言った瞬間、俺のヘルメットのHUDにもそれが表示された。一昔前はガラスのつい立に表示されてたもんが、今じゃ常に目の前にあるっていうのは技術の進歩を感じずにはいられない。
ツバメの大移動みたいにきれいに並んでやがるな。といっても遠すぎて固まって見えるが。
ちなみに目視で見えてるのではなく、これは熱源を感知し、HUDに表示している。IRSTのセンサーは、時々そこらのレーダーより性能がいいんじゃないかと思うぐらい、こいつの性能は化物じみてる。
「速度をマッハ2まで上げろ。正面から奇襲をかける」
「正面から奇襲ってのも妙な響きだよ」
速度を上げ、Gを感じながら操縦桿を握りしめる。徐々に体が強張っていくのが分かる。興奮と耐えがたいスリル、そして恐怖の為だ。こんな感覚が味わえるところを、俺は戦場しか知らない。だから戦場中毒者とかが出るんだろうけどな。かくいう俺も、既になってるかも知れねぇ。平和を楽しめない体っていうものほど悲しいものはないね。