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なろう発の究極的主人公:爆裂沢(ばくれつざわ) 浩一(こういち)の休日!

 爆裂沢(ばくれつざわ) 浩一(こういち)


 彼は、町中で突如ヒゲダンスを始めながら登場し、「この地球は異世界からの転生者によって乗っ取られている!」と主張しながら刃物を振り回す危険な悪の組織:イマぺー団から市民の安全を守るために日夜戦い続ける正義の戦士である!!


 今回はそんな激闘を繰り広げ続ける彼に訪れた束の間の休日を通じて、爆裂的主人公体質な彼がどのように日常を過ごしているのかに迫ってみよう!









 ――とある日曜日・午前8時――


 昨日、遂に悪の組織イマぺー団のメンバーが警察によって全員検挙されてしまったので、彼らと戦い続けてきた正義の味方:爆裂沢 浩一は今日から爆裂的な暇を持て余す事になった。


 まぁ、世間では昨日から三連休なので明日の月曜日までは、用事もなく昼間の町を出歩いていても特に問題はない。


 そう判断した浩一は、40年間の集大成ともいえる『こ◯亀スペシャル』を無視して録画していた『ラ◯ライブ!サ◯シャイン!!』を観ていた。


「やっぱり、果◯姉ちゃんもエリ◯カみたいに7、8話で加入イベントを消化しとくべきやろ……こんだけμ'◯を意識した話にするんなら、途中で◯歌ちゃん達が東京行ってライブせずに10話くらいで今みたいな目的のもと、みんなで東京に行ってた方が色々スピーディに話進んでたんちゃうやろか?」


 浩一は「何でも無印時代のをおさらいする必要はないけど、それでも『雨の中のライブからの怒涛の困難やピンチの連続、そこからの満員の講堂ライブへと感動的なラストにつながった前作1期に比べると、今回のサ◯シャインの展開って少しばかりゆったりしすぎちゃうやろか……』と感じていた。


 しかし、友人達からのLINEでは「仕事が忙しすぎてツライ……し◯たけ、慰めてくれー!」や「当初から果◯押しだった俺に死角はなかった……」などの純粋に楽しんでいる事が伝わる文面が書かれており、浩一は(好きは好きなんやけど、最初に否定から入るようではワイも余裕がないんか、もしくは年なんかも分からんね)と一人内心で苦笑していたそのときだった。



「浩一おじちゃん~~~!!さっき珍しい妖怪ゲットしたんだよー!!」



 階下から幼い子供の元気な呼び声が響いてくる。


 昨日から実家暮らしの浩一の家には、結婚して福井へと嫁いでいった姉:地母子(ガイア)と小学校に入ったばかりの長男:翔太(ショウタ)、自称:『超幼年級のピカピカの1年生』を名乗る2才児の長女:海里(カイリ)の3人がこの三連休を利用して泊まりに来ていた。


 浩一はとりあえず、ショウタの呼びかけに応じて「ハイハイ、今行きますよ~!」と言いながら、階段へと降りていく。









「あ~、赤鬼だー!!」


「ブブー!!正解はブヒ鬼でした~!!レロレロレロレロレロッ!……というわけで、仲良し兄妹は春巻(はるま)きにしてくるんだ後に喰ってまうでー!」


 キャー、キャー叫ぶ翔太と海里の2人の身体をマットでグルグル巻いた後に、その上から「パクパク!」と食べるふりをする浩一。


 朝食を食べ終わった浩一は、暇を利用して甥っ子のゲームに付き合ったり姪っ子のほっぺたをつぶしたりしながら、2人の相手をしていた。


 今もこうして空のペットボトルを棍棒のように振り回しながら、”赤鬼”という強大な妖怪のふりをして兄妹と遊んでいたのだが、そんな3人の前に一つの影が迫ろうとしていた……。





「!?何奴(なにやつ)!」


冷奴(ひややっこ)、ってね。フフッ……」





 浩一の前に(他の2人はマットにくるまっているから見えていない)姿を現したのは、老後に差し掛かるくらいの年齢と思われる一人の女性だった。


 彼女の名前は爆裂沢(ばくれつざわ) 崩子(ほうこ)


 あの(・・)《完全なる首長竜:滅子(めつこ)》の血を引く者であると同時に、地母子(ガイア)と浩一の母親である女性だ。


 そんな彼女は、最初に姿を現したときと変わらぬ不敵な笑みを携えたまま、浩一に対しておもむろに口を開く。


「フフフッ、浩一。実は貴方に交渉があるんだけど……ちょっと良いかしら?」


「……内容次第による、としか言えないな。とりあえず、話を聞かせてもらおうか」


 部屋の中に緊張した空気が充満する。


 だが、マットの中では翔太の「パクパクしちゃうぞー!!」や海里の「キャー!」という特に変わらない場違いなほど仲良さげな声が聞こえてきていた。


「……本題に入るわね。実は一日中ショウちゃん達を家で遊ばせておくのも可哀想だから、今からおじいちゃんの運転でみんなで近所のショッピングモールに遊びに行かないか、って話になってるの。それでお昼から2時間ほど海里ちゃん達を寝かせた後に、(小声で)ポ◯モンの映画を観に行かせてあげないか、って地母子が言っているんだけど、アタシ達は年寄りだからそういうの分からないし、貴方が地母子達と一緒に映画に付き合ってくれない?」


「あぁ、そんな事か。構わん」


「そう。それじゃ映画に付き合ってくれるなら、イ〇ンで子供達の相手をするのも疲れるやろうし家で休んでくれても良いけど、どうする?」


「いや、問題ない。一緒に行くわ」


 こうして、白熱するかと思われた交渉はあっさり双方納得の上で終わりを見せた。


 崩子の気遣いかは分からないが、今からイ〇ンに行くのなら昼飯もそこで済ますつもりだろうから、せっかくのただ飯の機会をむざむざ逃すなど、浩一にとってはあり得ない事だった。





  ――とある日曜日・午前10時――


 浩一の父である:斬十郎(ざんじゅうろう)の運転によって、一行は子供の遊び場やゲームセンターなどがある最適な遊びのスポット:イオンに到着する事に成功した。


 浩一はそこのゲームセンターに『ラ◯ライブ!』のクレーンや『ワ◯ダーランド・ウォー』の筐体がない事にガッカリしながらも、そこで300円使って『コ◯ラのマーチ 限定版』をゲットする事に成功し、数量限定が書かれていなかったので、もう一つゲットしてそれを翔太達兄妹に与えるつもりだったのだが、欲をかいたのが裏目に出たのか、そっちは1000円崩した内の800円を使っても手に入れる事が出来なかったので、残った200円を妖◯ウォッチのバスターズ版を筐体にした感じの奴に投入し、甥の翔太を遊ばせてあげる事にした。


「そこや、翔ちゃん!!……って何やこのゲーム。まだ始まって2分もせん内にいきなりボス戦になって、全然知らないぬ◯りひょんが勝手に敵を倒してくれたぞ?」


「何やねん、このビッグボス……ノリが完璧に猪◯やんけ!!しかも他のプレイヤーの子と協力して放水する事になったけど、やり方とか全然分からん!!んでもって何か負けた扱いになったみたいやから本当にごめんな、横の少年!」


 その浩一と翔太の圧倒的なコンビネーションぶりを見た崩子は「良いプレイを見せてくれたお礼よ、フフフッ……」と言いながら、浩一にファイトマネーとして千円を差し出してきた。





「サンキュー、マッマ!」チュッ!


「あらあら、まぁこの子ったら……」フフッ……





 ……気持ち悪い親子である。


 だが、こうして新たな軍資金を得る事が出来た浩一はこの千円をきっかり使い、2個目の『コ〇ラのマーチ 限定版』をゲットする事に成功した。





「良かったね~!!これで二人とも仲良く一つずつ食べられるね!」


「(二人で一個を分け合わせて、もう一個をワイだけのモンにするつもりやったんやけど……)オ、オゥ!」





 自腹と棚ぼたの軍資金すら可愛い甥っ子達のために惜しみなく使う献身ぶり。


 これぞ、真の主人公体質であるッ!!(他のなろう発の異世界系主人公、全員真っ青!の巻)










 ――とある日曜日・午後13時――


 昼食も食べ終わり、何事もなく自宅へと帰ってきた浩一達。


 甥っ子の遊びの誘いも「在宅の仕事があるから……」と嘘をついて断った浩一は、まっすぐ自分の部屋に戻り、時間が来るまで圧倒的な主人公力を磨くことにした。(お察し)


 途中でまどろむ事もあったが、何だかんだであっという間に時間が流れた結果、母である崩子の呼び声という開戦の号砲によって、再び戦場--稚児たちとの戯れ--へと赴く事になる。





 ――とある日曜日・午後16時――


 荷物を一片に預かり過ぎた結果、ボップコーンを落とした姉に変わって、上映ギリギリの時間に何とか浩一がポップコーンのLサイズを購入しに行く、といったトラブルがあったものの、何とか無事に映画を観始める事が出来た浩一達。


 子供向けアニメの映画のはずなのに、予告作品が「アルコール認知症の母親と、その娘達を描いたヒューマンドラマ」などがあり、浩一は姉の地母子と一緒に「いや、アニメ映画ねんたら、そういう作品の予告だけでえぇやろ……重いわ!」などと話していた。


 浩一はポ◯モンはゲームでは金・銀、飛んでブラック・ホワイトというプレイスタイルで止まっており、アニメに関してはそれ以前で停滞しているという主人公らしからぬ怠慢を晒す事になってしまっていた。


 姉や甥っ子達も流石にこの映画のシリーズまではプレイしていなかったらしく、結構知らないモンスターもいたようなのだが、映画を観始めた浩一の胸に去来したのは「まず感じたのは、サ◯シのパーティー飛行タイプ多スギィッ!!という事。求めしものは万能のパートナーであるタ◯シの帰還」という感情であった。


 だが、それは既存の世界(じょうえいじかん)を破壊してまで渇望する(ことわり)ではなかったのでヒー◯ラン?(よく知らんけど)らしきビジュアルの気難しい伝説ポ◯モンを主軸に進んでいく物語を大人しく観賞する事にした。




 舐めていた。




 今まで長い年月の間ポ◯モンから離れていた浩一としては、『最初のミ◯ウツーの逆襲以外は全部、限定ポ◯モンをもらうためのおまけな出来』という偏見がどこかにあった。


 だが今回のこの作品は、過去の身勝手な人間と関わった事によって人間に対して懐疑的になった伝説のポ◯モンや傷ついた過去を持つポ◯モン達との交流、過去の凄惨な出来事やその事から学ぼうとせずに身勝手な思想のもとで再び行われようとしている悲劇……劇場版のゲストキャラは悪役もしっかりと際立っており、構成も見事で浩一は今日4人で来た中で一番自分がこの作品に感情移入しているのではないか、とさえ思っていた。


 浩一達の座席は廊下のすぐそばで館内も割とすいていたため、臨場感を得るためかは分からないが翔太や海里は母である地母子と共に浩一のすぐ隣の階段に座りながら、手に汗握る展開を楽しんでいるようだ。


 物語も佳境に近づいてきたそのときである。


 浩一が乱戦に次ぐ激しい乱戦の末、クライマックスともいえる場面で後ろから少しトントン、という音が聞こえてきた。


 だが、日々悪しきイマぺー団との激戦で研ぎ澄まされてきた集中力を使えば、浩一にとっては特に気を乱すような事案でもなく、浩一は気にせず観賞し続けていたのだが……。





「こら、どこ行ってんの!!」





 どうやら、『超幼年級のピカピカの1年生』である海里が映画を観ずに、浩一の後ろの列へと立ち歩いていたらしい。


 そこでよせば良いモノを、地母子(ガイア)がグイッと強く引っ張るモノだから、海里が盛大に泣き出す事になったのだ。





「ウワァァァァァッン!!」


「ヨシヨシ、今映画の最中やから泣かんとこ」


「……いや、考えたら分かることなんやから最初から泣かすなや。てゆうか、他のお客さんに対して迷惑やろ」


「ウワァァァァァッン!!」


「ヨシヨーシ!」


「他の人達に対して迷惑やって言ってるやろ!!一旦外出ろや!」


 二回目の浩一の言葉を聞いて、ようやく外に出た地母子達。


 自分が正しいと判断したなら、身内相手に対しても間違っている事をズバリと指摘する決断力。


 これぞ圧倒的な主人公のみが持つとされる”資質”なのかもしれない。





 なろう系テンプレ異世界主人公達「無法がまかりとおるような中世ヨーロッパ風の世界でも、たまたま都合良くモラルがしっかりした味方キャラばかり集まるように出来ている僕達としては、大変お恥ずかしい限りです。今更ですけど、もう少し謙虚に生きるように心がけます」





 まったくである。


 現に正義を実行したはずの浩一は、今も実の姉を叱責した事を悔いるかのように険しい表情を崩していないのだ。





(……ったく、何であそこで泣かす必要があるねん。おかげでせっかく最高潮に盛り上がってきた気分が台無しですわ。おまけにまだ海里ちゃんが泣いてる状態で館内に戻ってくるし……そこらへんの想像力が少し足りてない、って言うか、本当に姉カスですわ……)





 ……前言撤回である。


 しかしよくよく考えてみたら、浩一が本当に正しい人間なら、自分が率先して映画館の外に姪を連れていくはずであり、平然と映画の続きを観ながら実姉に心の中で文句を垂れている時点でクズであることは明白である。


 でも、『自分の欲求のままに好きなように生きる』っていうのも、なろう系テンプレ異世界主人公らしいと言えるので、この爆裂沢(ばくれつざわ) 浩一(こういち)という人間も、この小説家になろうというサイト、並びにこの時代が生み出した必然の寵児と言えるのかもしれない……。





 なろう系テンプレ異世界主人公達「何だ、その言いぐさは!!それに、さっきの偉そうな態度は一体何様のつもりだ!しっかり謝ったらどうなんだ!!」











 うるせー!てめぇらは死ね!!(刃物ヒュンヒュンッ!)









 ――とある日曜日・午後19時――


 映画を観終わって、帰ってきた浩一達一行。


 帰って早々、ポ◯モンの話を斬十郎に話したかと思えばすぐに妖怪の話題に変わったりする翔太、電卓を携帯のつもりにして遊んでいる海里などを眺めながら、何だかんだ目頭を熱くしながら帰宅した浩一が一人激闘の終わりを告げる冷たいお茶を飲み干していたーーそのときである!!





「やっほ、お疲れ様!」





 横から姿を現したのは、実姉である地母子(ガイア)である。


 現在進行形で彼女の事を”戦犯”扱いしている険しい顔つきの浩一を前に、果たして、彼女は一体どのように接するつもりなのか--。


「……貴様、俺に一体何用だ?」


「ん、これ。アタシがこぼした分のポップコーンを買いに行ってくれたみたいやから、その分」


 彼女が取り出したのは一枚の紙幣だった。


 そこには『千円札』と記されている。


 それを前に、揺らぐことなき意思を秘めた浩一は……。





「サンキュー、アッネ!」チュッ♡


「!?近親な上に不貞行為なんて不埒(ふらち)者!!」バスッ!





 恥も外聞もなく、簡単に目前の千円札に手を伸ばし、調子に乗って姉に唇を伸ばそうとした爆裂沢 浩一は、こうしてその行為を咎めた地母子(ガイア)によって、一刀両断された。


 その名に恥じず、先祖である完全なる首長竜:滅子の天地開闢(てんちかいびゃく)の偉業を彷彿とさせる見事な一撃の輝きを最後に焼き付ける事が出来たのは、彼にとって幸いと言えるのかもしれない。


 ……だが、彼にとってこの場で命を落とす事と休み明けの火曜日から職安に通う日々が始まる事のどちらが幸せだったのか、そして、あれだけテンプレの異世界転生などを馬鹿にしてきた彼が来世で無事に生まれ変わる事が出来るのか、という事は誰にも分からなかった。

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