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機動要塞サンクトペテルブルク

 8月某日--ロシア・サンクトペテルブルク--





 春はあけぼの、夏は夜。秋は夕暮れ、冬は(あした)


 そんな日本古来の情緒とは縁遠そうな異国の地に、天上貴族である一人の青年:藤原ふじわら 啓泉けいせんはこの地にあるエルミタージュ美術館へと訪れていた。


 じっくりと歩いて回ると半日くらいかかるほどの広大な美術館であり、そこでは古典絵画史の画廊やピョートル大帝の間、ニコライ2世の図書室と言った多彩な芸術郡が藤原を待ち受けていた。


 さて、当の藤原であるが、普段から"わびさび"や"風光明媚"などと口にしておきながらも実はイランのグリーンパレスや宝石博物館のような金ぴかゴデゴテ!!っとした装飾などが好みであり、意外な事にあまりこういった芸術方面には疎かったりする。


 せいぜい、人に絵画の事を聞かれたときにヒエロニムス・ボスの『快楽の園』を勧めるくらいだが、その理由も、この画家が『装甲悪鬼村正』の主人公:湊斗みなと 景明かげあきと同じネーデルラント出身だから、とかいう理由からである。





「あ~なんで麿は黄色い島国なんかに生まれたんやろ……死ね、死ね、死ね、クソ猿ゥ~……ジャァァァァァァップ!!」


 広大な美術館を歩き回りながら、忙しなく部屋の入り口から部屋全体とその後に美術品を撮影する労力、展示されている芸術作品を理解出来ない己の無教養さなどがない交ぜとなった感情から、藤原の怒りの矛先はよその国の劇場のマークをパクっておきながら「でも、これで日本でも有名になったから、向こうも喜んでるんじゃないですか?」とかいう無知蒙昧なコメンテーターが跳梁跋扈する未開な祖国へと『死ね死ね団』を連想させる呪詛という形で向けられていた。


「ファッキン、モンキー、ヤボンスキー♪」


 思いついた渾身のエスニックギャグを口ずさみながら、藤原は終わりの見えない美術館の中で歩を進めて行く。





 ギリシャやエジプト的な展示コーナーをくぐり抜け、体力的にも精神的にも疲弊した藤原は気づかぬ内に地下のフロアに繋がっているらしい階段を降りていた。


 その先にあったのは、日本的な展示物コーナーであり、藤原は瞳を閉じて両手を広げると、撮影する事も忘れて尊皇スピリッツの回復に務め始めた。


 先程まで祖国を恨んでいた心が嘘のように雲散霧消して攘夷的な意思に満たされて行く--。


 穏やかな気持ちになった藤原は気を取り直して展示物を撮影しようとしたが、それは入り口付近にいた妙齢の女性職員に止められた。彼女曰く、「temple(お寺関係の物なの).」という事なので、撮影する事なく回る事に。





 思えばこれが功を奏したのかもしれない。カメラの狭いシャッター口から解放されて自由に作品を己の眼で見て回り、部屋に充満する"和"の空気が藤原を急速に癒していく。


 だが、もうすぐ一周しそうなので最後に職員の女性に礼を述べようとしたところで、藤原はとんでもない物を目撃する事になる--!!





「--狛犬?」





 そこにあったのは一つの狛犬であった。


 だが、それを観た瞬間、藤原の脳内でこのサンクトペテルブルクで見聞きし体験した全ての事象が、点と点を結び合わせる一つの解答として導き出された--!!


「ま、まさか、この場所は!?」





「クククッ、ご明察だな藤原殿。……どうして気がついた?」





 いつのまにか、藤原の背後には一人の青年が立っていた。何かの制服らしい肩の部分には独特なエンブレムが付けられていた。


(鎌と鍬が交差するエンブレム……こいつが"唯物史観"の理に選ばれし者、ウラジオストクか……!!)


 厄介な相手と当たる事になる、内心そうごちりながら、藤原は振り返り相手の質問に答える。


「……あんたら異国の方には難しいかもしれんが、狛犬ってのは寺ではなく、神社の入口に2体1組で祀られている存在でね。先程の女性職員は私に『ここにある物は寺関係だ』と言っていたが、寺の関係者が神社の狛犬を半端に一体だけあんたらに寄贈する、というイメージがどうにも腑に落ちなかったんだよ」


無言で瞠目する青年。それを肯定、と見なした藤原は話を続ける。


「となると、この日本的なエリアにある展示物は寺や神社などに関係なく集められたモノなのか?という疑問に突き当たる。そんな私の疑問にはコイツが答えてくれた」


そう言いながら、カメラを右手に持ちながらヒラヒラと振る。


「もともとこの場所も展示予定だったのなら、何故他のギリシャやエジプトの品のように堂々と撮影を許可しないのか?……この美術館からしたら少しでも多く観光の目玉になるなら、むしろ大々的に告知していたっておかしくないはずだ」


 となると、撮影を許可しない理由は何なのか。


 その答えは目前の人物からすぐにもたらされることになる--!!





「お察しの通り、このエリアは全て藤原 啓泉というただ一人の人物をおびき寄せるために急造で用意したものさ」




  悪びれることなく、青年があっけなく解答を口にする。


  藤原は目前の相手を睨み付けながら、奥歯を噛みしめていた。


「……それを認めた、という事は、私をここから生かして帰すつもりはない、という事かな?」


「フッ、貴様はその答えをすぐに知る事になる!!」


 そう言うや否や、青年は後方へと勢い良く跳ね上がり、右手を天高く掲げた--!!





「我が名は厳粛と懲罰を司る双刀(鎌とくわ)の担い手・ウラジオストク!!藤原 啓泉よ、時代錯誤な特権階級たる貴様の首を跳ね落とし、我が祖国の繁栄の礎にしてくれる!!」


「な、何ッ!?それはどういう意味だ!!」


「答える道理はヌァァァァァァッイ!!」





 ウラジオストクは藤原の困惑に構う事なく、己の両手に錬成した鎌と鍬を構えて一気に藤原に詰め寄る!!


 それを右手に持った鉄扇でいなしながら、藤原は思考する。





(くっ、……先程からどうにも力が出ない……何か特殊な力場が働いてるような……!?まさか!!)





 鉄扇から含み針を飛ばし、ウラジオストクから一旦距離を取る事に成功する。


 そうしてから、静かに藤原は息を吐き出した。





「まさか……この美術館そのものが巨大な結界だと言うのか!?」





 急造とはいえ、この日本的な展示コーナーの和やかな雰囲気は優雅な天上貴族である藤原をおびき寄せる効果だけでなく、藤原の闘志を鈍らせ、油断を誘うための罠としての一面もあったと考えられる。


 案の定、その答えは目前に佇む青年から高笑いと言う形でもたらされた。


「クハハハハッ!!ご明察、と言ったところだな!……この美術館の展示物は互いが互いの呪力を最大限に引き出し、結界を生成するよう巧妙に配置されているのだ。そして、さらに!!広大なサイズの館内は迷い込んだ者の精神と体力を確実に蝕むように設計されている!!……そうだ、もともと途方もない広さの大地で暮らしてきた我々ルーシの民でもない限り、このエルミタージュを打ち破る事など、何人たりとも出来はせん!!」



 例え、それが神であろうとも、とウラジオストクは続ける。


 その言葉を受けて藤原がガクリ……と頭を垂れる。


「クククッ、やっと自分が何を敵に回したのか理解し、絶望したのか……だが、遅いッ!!」


 人類には早すぎた思想コミュニズム・マルクスを身に纏い、ウラジオストクが疾駆する。


 彼が右手に振りかざした鎌が、藤原の首へと吸い寄せられるように迫る--!!





「あぁ、確かに絶望してるよ。……お前の馬鹿さ加減にな!!」





 藤原は右手の鉄扇を使うことなく、迫り来る鎌の刃を左手でつかみとり、言葉を発すると同時に素手でそれを砕き潰す!!


「なっ……!!あ、有り得ぬ!?我が象徴たる鎌がッ!!」


「お前は思い違いをしているぞ、ウラジオストク。私はこのエルミタージュ美術館の結界、などではなく、これほどの雄大な大地と共に生きながら、世界を……いや、人の意思を統制管理という在り方でどうにでも出来ると高を括っている貴様の浅はかさに絶望したのだッッ!!」


 仮にも"理"に選ばれた存在だろうに、と八百万の"理"を背負いし男が呟く。


 ウラジオストクは歯軋りをしたが、すぐに表情を冷酷な青年のそれへと変貌させた。


「……フンッ、貴様がどう言ったところでこの結界の完全な力場を破る事など出来はせん。潔く諦めて、断頭台の露となるが良い……!!」


 右手に持ち直したくわを正眼に構えるウラジオストク。だが、そんな彼の焦りとは裏腹に高笑いをあげるのは、藤原の方であった。


「……完全無欠など、僅かな亀裂で綻びが生じる。見ていろ、そろそろ私の仕掛けが作動する頃だ……!!」


 なん、だと……!?とウラジオストクが口にするのが先だったか。


 エルミタージュ美術館が突如、ゴゴゴッ……!!と館内に轟音と激震を響かせ始める!



「ッ!!何をした、貴様ァァァァァァァァァァァァァッ!?」



「館内を見学していた時から、観賞させてもらうばかりじゃ悪いと思ってね。ロシア美術ほどじゃないかもしれないが、こちらもクールジャパンを用意させてもらう事にしたんだ。」


 不敵な笑みを浮かべる藤原。


 そんな彼の態度を前にしたウラジオストクは、いつの間にか藤原が手にした手提げバッグのチャックが開きっぱなしになっていた事に気づく--!!


 ……そこには、良く見なければ分からないが、海外の観光地に似つかわしくない漫画などとは違う表紙に肌の露出が多かったり、目が必要以上に大きい少女達のイラストが描かれた小説らしきものが、ぎっしりとカバンの中に詰め込まれていた。


 小説は全て、『やんごとなき麻呂が、アマゾネス集落で野生児達に蹴鞠けまりを教えることになった件について』や『黒下着な女騎士の一撃陥落』といったバラバラのシリーズであり、半端な巻数からしかこの場にはないようだ。


 旅行の途中で雨にでも濡れたのかふやけてしまったものもある事から、とても思い入れがあるとも言えず、これらの小説があと100万冊あったとしても、このエルミタージュ美術館が誇る魔力の総量を上回る、など天地が逆さまにひっくり返ってもあり得ないと言える。




「……だけどひっくり返す必要などはない。ほんの少しでも穴を開けれさえすれば……!!」




 エルミタージュ美術館は、場に馴染まない"ライトノベル"という不純物を内包した事により、"完全無欠"という在り方に齟齬が生じる事になった。


 これが普通の美術館ならば、『海外に来てまでそんなモノを読まなきゃならないのか……』といった感じで周囲の観光客から白い目で見られて終わるだけのはずだが、エルミタージュ美術館はなまじ特別な役割を持つために、自己矛盾に耐えられず、内部からその"理"を崩壊させるに至ったのだ。





「これが日本流"オモテナシ"さ。とくと受け取りな、露助ェッ!!」


「……このヤボンスキーがァァァァァッ!!」





 瞬間、ウラジオストクの力が爆発的に跳ね上がる--!!





「!?そんな!!エルミタージュの結界は確かに破られたはず!」


「……クククッ、言っただろぅ啓泉。時代錯誤な特権階級の貴様の首を跳ね落とし、我が祖国の繁栄の礎にしてくれる、とな……」


(何だと……それなら、もしかして!?)


 ハッ、と気づいたように顔を上げる藤原に対して、ウラジオストクは誰にも見せた事がないであろう下卑た顔でニンマリと笑った。





「そうだ、このサンクトペテルブルクそのものが巨大な結界力場なのだ……!!」






 思えば心当たりがいくらでもある。


 例えば、複数の襲撃犯で観光客を囲み、ナイフでポーチを切ってから奪い逃走するなどの事件が横行する世界でもトップクラスの夜間の治安の悪さ。(実際は劇場で赤ワインを嗜みながら、バレエを観賞した帰りに夜間一人で歩いて帰れるくらいの安全さ。でも、ホテルに帰る途中の照明がない公園で後ろからおっちゃんが音もなく追い越してきたときは本気でビビった)


 例えば、現地の人間は安く、外国人には高く請求するレストラン。(これも現地の感覚によると、外国人だから高くしているのではなく、現地の人には正規よりも安い値段で提供しているよ、という事らしい……よ?)


 例えば、サンクトペテルブルクは広いから10回分先に購入しておこう!!と考えて購入したものの、観光スポットはある程度宿泊する予定のホテル近くに密集していて、全く使う機会がなかったメトロカード。


 これらが単なる偶然などではなく、計算し練り尽くされた罠だとしたら?


 もし、そうだとするなら、エルミタージュ美術館どころか、このサンクトペテルブルクの街並みそのものが藤原ただ一人を倒すために作り出された巨大な狩り場にして、逃げ場のない闘技場であり、さしずめ、敵対したものを確実に歴史の彼方へと屠り去る機動要塞そのものとも言えるのだ……!!





「お察しの通り、我が偉大なるスターリン閣下は生前、己が死んだあと栄光たるソヴィエトが近く崩壊する事を予見されていた。……そうなれば、憎き米敵にこのロシア、いや、世界が蹂躙される事は火を見るより明らか!!なのに衆愚共は己の不平不満をほざくばかりで誰も閣下の苦悩を分かろうとはしない!!……そこで閣下は"唯物史観"の後継者たる私のような者に一つの大命を降されたのだ……!!」


 それは、ロシア革命によって偉大なるソヴィエトが誕生したように、このロシアの地で革命の礎として消されたロマノフ皇族のように、高貴な身分の存在を生け贄にする事により、自分亡き後にも再び、強靭かつ偉大なソヴィエトが新世するための布石を、スターリンは打つ事にしたのだ。


 そのため忌み嫌っていた魔術の力を借りて、サンクトペテルブルクを観光地に見せかけた機動要塞に作り変え、自分に対する忠義が厚く、"唯物史観"を継承するに値するウラジオストクの家系に対して、この地へ藤原のような高貴な存在を誘き寄せ、栄えあるロシアの礎にするように命令したのである。





「……全く、そんな事をする暇があるなら、みなが幸福に生きられる社会を作れば良いものを」


「衆愚などにあの方の大局を見据えた視点など理解出来まいよ。……さて、藤原。貴様の悪あがきもここまでか?」





 作り笑いなどではなく、勝利を確信した醜悪な笑みを浮かべるウラジオストク。


 受ける藤原はそんな相手にも怯む事なく、口許を鉄扇で隠しながら優雅に笑う。


「コココッ……。それでも、最後に勝つのは麿でおじゃる!!」


 刹那、左手を勢い良く地面につけたと同時に、エルミタージュ美術館内に雷光が轟く--!!





「こ、これは……?」


「サンクトペテルブルクという強大な要塞に空いたエルミタージュという一つの綻び……この機動要塞とそれを制御するお前を倒すにはそれでもまだ足りないかもしれないが、この小さな風穴が私に力を与えてくれる……!!」


「何ッ!?」





 如何なるスピリチュアル・パワースポットであろうと、この機動要塞・サンクトペテルブルクの圧倒的な偉容を前にすればあっけなく力場を支配される事は誰の目にも明らかである。この要塞には誰も勝つ事は出来ないし、自然災害か何かのように過ぎ去るのを待つしかない。


 これを視界に入れる事それ自体が敗北そのものであり、どのような権力や武力や財力を持とうが一切関係なく、みな全て等しく平伏して許しを乞うより他にない。


 だが、世界で誰にも勝てないはずのサンクトペテルブルクを打ち破る可能性を秘めた場所がこの瞬間に発生した。





 藤原によって、その在り方を崩壊させられたエルミタージュ美術館は、"完全無欠"の理が破られた事により、いかなる理の存在も許さないという理を滅するための理"空白"を得るに至った。


 いまや、エルミタージュ美術館はサンクトペテルブルクの強大な支配の理すら己の内部に侵入することを拒絶する"聖域"であると同時に、サンクトペテルブルクの堅固な結界すら打破出来るこの世界で唯一の"特異点"といえる存在へと変化していた。


 そんなエルミタージュ美術館が、しつこく己に侵食の魔の手を伸ばす無粋なモノを打ち払うため、--いと高貴なる者フジワラ--に力を与えるための門を開く--!!


「へっ、感じるぜ……このエルミタージュ美術館を通じて、世界中のみんなが麿(まろ)に力を与えてくれるのをなぁッ!!」


「クッ……!?戯れ言を抜かすなァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」





 嘘なんかじゃない。みんなの声援が館内に響き渡る--!!













キム「チョッパリー!!」


ウクライナ人「I want to eat a biscuit!!」


津軽弁の女の子「オラ、頑張るずらー!」


蛭子さん「ギャンブル全部OK、賭け麻雀も相撲賭博も、アダルトも規制なし、大麻も全部おk!」


有吉「暗黒街じゃねーか!」


うすしお たらこ「……」










「ま・か・せ・ろー!!」



 藤原の闘気が爆発的に膨れ上がる--!!


 手にした鉄扇の本地は、神滅魔導具・日緋色金ヒヒイロカネ。あらゆる形状に変化出来るこの奇跡の宝具は現在2本のサバイバルナイフに変化して、藤原の両手に収まっている。





「誰も声援など送っていないではないか!?」


 驚愕の声を上げるウラジオストクに、形態変化モード・突切トツギリで速度を上げた藤原の両刀の構えが追撃し、切り刻んでいく。


(クッ……、これが加害者大国・ジャップスランドの住人の実力なのか!?)


 藤原のサバイバルナイフは着実にウラジオストクを追い詰めていくが、これは藤原が強すぎるのではなく、英雄ならば例え子供でも国を上げて称賛し、罪人ならばどれほどか弱き子供だろうと厳しく処罰する、というソヴィエトの形式に慣れ親しんだウラジオストクにとって、犯罪者を王や貴族のように崇め敬う日本の形式が未知の相手であり、最悪の相性だった事に起因する。


 ウラジオストクは戦いながら、システマという格闘技によって身につけた特殊な呼吸法で空中に真空地帯・鎌鼬かまいたちを作り出すと、そこに向けて己のくわを放り投げた--!!


 鍬は爆散し、破片が鋭く藤原に突き刺さっていく。


「グアァァァッ!!……クソッ、こんな奥の手を隠し持っていたとはな……!」


  今の攻撃で藤原は、ウラジオストクに与えた連撃がチャラになるほどのダメージを受けてしまった。


 ウラジオストクは渾身の力を体内で練り上げ、それを強大な"粛清波動"に転換して己の背後に顕現させる。


 その強大な力は、荒れ狂う白き光の奔流となって藤原のもとへと押し寄せる--!!





「これが私の秘奥義:粛清天ポリティカルパージ・唯物史観ベルトールだッ!!……泣いても笑ってもこれが全身全霊最後の一撃だ。どう出る?藤原ァァァァァァッ!!」


 対する藤原は手にした両のサバイバルナイフを交差させると、一つの黄金に輝く長槍へと変化させていく。


 これぞ永き人の歴史の中で、数多の運命を翻弄してきた神滅魔槍・ロンギヌスの姿を模した存在であり、それが例え日緋色金によるレプリカであろうと秘めた本質と性能はオリジナルと比べても遜色ないほどである。


 藤原は体内で練り上げた渾身の"殄戮テンリク波動"を黒き闇の奔流として顕現させると、それをロンギヌスに纏わせ、ウラジオストクへと打ち放つ--!!


 ……それは、神も楽園も奇跡も信じず戦い続けてきた青年に対する、藤原なりの不器用な手向けだったのかもしれない。





「ウオォォォォォォォォォォォォッ!!」


「おじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」




 光と闇、2つの強大な力が正面からぶつかり合い爆散し、世界から全ての色が失われていく--。









「……閣下の期待に沿う事も出来ぬとは、な。これは貴様の国で言う"ハラキリ"とやらをしなければならないのだろうな」


「いや、もう少し運命の天秤がそちらに傾いていたら、断頭台の露に消えていたのは私の方だ」





 例えどれほど傷つけ合おうとも、戦いの中で紡がれる絆がある。


 ボロボロになりながらも立ち上がり、2人が握手をしようとしたその時だった。





ズンッ……!!








 突如、ウラジオストクが背中から、矢によって貫かれていた。




「ッ!?ウ、ウラジオストクッッ!!」




  慌てて駆け寄る藤原。だがもう助かる見込みがない事は誰の目から見ても明らかであった。


 瀕死のウラジオストクが息も絶え絶えに、最後の言葉を紡いでいく。


「……頼、む、藤原。……閣下、が、愛した……この世界の未来を!……守って、くれ……!!」


 そう言ってウラジオストクは"唯物史観"の理を藤原に託すと、静かに息を引き取った。


 機動要塞としての役目を失ったサンクトペテルブルクの街並みに、藤原の慟哭が響き渡る--。






--9月某日 日本・東京--


「……以上のように調査の結果、ウラジオストク氏を殺害したのは、スーパーインド人:”ニューデリー”によるものと判明いたしました」


「うむ、ご苦労」


 はっ、という返答を終え、藤原の配下である時裏忍軍の首領:源内が退出していく。


 時裏の話によると、ニューデリーはインドを根城にしており、現在は拠点へと戻っているらしい。





(次の舞台は……インドか!!)


 藤原は部屋の中から沈みゆく夕陽を眺めながら、次なる戦いの予感を静かに感じ取っていた……。


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