第0話 ヒトミさんの視点かな?
ヒロイン視点から始まります。
私の人生を題材にした物語があったのなら。
その物語を読んだ人はこんな事を言うんだろうな。
「嗚呼なんてつまらない人生」
私に取り柄なんて、なかった。
体力は一般的で、学力も普通。
特に自慢出来るような趣味も持って無いし、優秀な技能も持ってない。
退屈で普通な人生……それが私。
何かが悪い訳でも、私が悪い訳でも無い。
きっと、世界が私を退屈なモノとして扱ったのだろうな。
「はぁー」
あまりの気持ちの虚しさから、ため息を吐いてしまった。
今は、学校からの帰り道。
いつも抱いているこの陰気で憂鬱な気分を少しでも紛らわせようと、辺りの景色を眺めていると電気店のショーウインドの中あるテレビ画面が目に映った。
なんだろうな? と気になって見てみと、放送されているのは最近話題のアニメグッズのコマーシャルようだ。
オタク友達との話の話題に出てきたから私も一通りそのアニメを見ているから知っている。
アニメのタイトルはたしか『終末世界の鐘の呪術』とゆう漫画が原作のアニメだ。
主人公の名前は、風瀬ユイ。
呪術と呼ばれる、札を使った魔法のようなモノがある世界で友情に熱く仲間を助け正義を愛している、まるで絵に書いた様な主人公せいを持った人物だ。
まぁ、漫画の住人だから当たり前と言っちゃあ当たり前なんだけどね。
でも、なんて私とは違う方向性の人間なのだろうか……少し羨ましく感じる。
私にこのアニメの主人公ような個性があれば、人生は色鮮やかなモノになったのだろうか?
いや~なんか変わらない気がする。
よくよく考えてみても私は私だ、ほかの誰にでも無く私だからこそ、断言出来るのだ。
私が変わる事は無い。変わることなんて……出来ないだろうな。
そんな、自分不信なことを思う私だからだろうか?
突然、不幸が訪れた。
高校二年の夏休みにドス黒く見ているだけで、気持ち悪くなるような悪魔を模したような……そんな外装のトラックに引かれてしまった。
意外と呆気ない最後だったな…………。
即死だったのだろう。苦しみは感じなかった。
そして、気づいたら生まれ変わっていた。
生まれ変わったこの世界には呪術が存在しているので、恐らくは「終末世界の鐘の呪術」の世界に転生したのだろう。
今世の私の名前は、「金指ヒトミ」というらしい。
容姿は前世とは、変わっていないようだが……耳も目も口も鼻も前世の私を若くしたかんじになっている。
そう容姿はなにも変わってなどいない。
だが、心だけは前世と変わっていた……いや、変質していたと言った方が正しいかな。
死を経験した私に恐怖を感じさせる物は……おそらく無いのだろう。
だが、それを否定するように私にはどうしても一つだけ怖いことがあった。
前世の名前が思い出せない。そんな些細なことが怖い。
何度も何度も記憶を探ってもあるのは空白ばかり。
怖い怖いとまるで、壊れたラジオみたいに怖いと心のなかで繰り返す。
そう、怖かった。どうしても、怖かった。恐怖だった。
友達と喋った記憶があるのに自分の前世の名前が思い出せない。
家族と喋った記憶があるのに自分の前世の名前が思い出せない。
私の前世の名前の記憶があった筈の場所が、まるで消しゴムで擦った後のノートみたいに消えていて前世の名前が思い出せない。
私は、転生した。そうに違いない。間違いない。
けれど、証拠がない。確証がない。自信がない。
何よりも……前世の名前が思い出せないことが……。
それが私の恐怖。恐れの根源。
そして、この前世の記憶が幻想のようなものであるかもしれないことが一番怖かった。
気持ち悪い、気持ち悪い、狂いそうである。
誰かに助けて欲しいと心の底から初めて思った。
だが、同時に私は誰も私を助けられないと気付いていた。
当たり前だ。転生した私の気持ちを分かる人なんて誰もいない。
だって、私の気持ちが分かるのは同じ転生者しかあり得ないんだから……。
………………。
…………。
……。
そんな私が救われたのは、転生してから初めて小学二年生になった時だ。
あの時の私は、義務教育だからと仕方なく小学校に通っていた。
両親に迷惑をかけたくなかったのだろう……。
私の気持ちは救われず、全てどうでもいいと思っていた。
だから、あの時の言葉はただの愚痴だったのだろう。
「あー転生者の私はひとりぼっちかな?」
それは、意味不明な返答を求めないただの独り言のような愚痴だった。
「え、君も転生者なの?」
だから……返事があったことに驚いた。
見れば、同じクラスになった男の子の一人が私の目の前に来ていた。
「なんで…………!」
「なんでって……君が転生者とか言うからね。僕以外に前世の記憶を持った転生者なのかなって気になって」
転生者。その言葉が私以外の口から出たのに驚いて返事が遅れた。
「えーと、もしかして違った?」
男の子は困り顔になってソワソワしていた。
おそらく、自分が勘違いをしたのではないかと不安になったのだろう。
当たり前だ、偶々同じクラスになった人が転生者とか言っても、その人が前世の記憶がある転生者だとか普通に信じられないだろう。
「いや、違わないわよ。私は転生者であってる」
だから、私は肯定した。
気持ちは驚いていたがとりあえず返事が先だ。
「あーやっぱり! よかったー勘違いじゃなくて!」
男の子は安心したように胸を撫で下ろしていた。
「あなたは、なんで転生者なんて私が言った独り言を反応したの?」
そう、不思議だ。なんでだろうと思う。
だって、転生者だよ?
普通、簡単に信じられないと思う。
自分以外の転生者がいるなんて……。
「えーと……なんだろう、どう言えばいいのかな? 別に嘘でも違ってもいいかな~って気持ちで話しかけたんだ。なんか一度でもそう言った人がいれば、僕以外の転生者なのかなってそう思ったから……」
決まりだ。この子は転生者だ。
私以外の転生者だ。
嬉しい、とても嬉しい。
なんて、私は幸運なんだろう。
この子なら私の不安を取り除いてくれるかもしれない。
そう思った。
「えーと、君は前世の名前を覚えているのかな?」
この質問はズルい……とてもズルい質問だ。
私は今、彼が前世の名前を覚えていようがいまいが関係なく依存しようとしている。
前世の名前を覚えてなかったら、覚えてない同士、気持ちを共有する仲間として。
もし、前世の名前を覚えていたら……私のこの記憶が本当に確かなものだとゆう安心材料として。
私は……彼に依存しようとしている。
「うん、覚えてるよ! 僕は前世『釜無共名』とゆう名前だったんだ。今は『溝野ケイタ』とゆう名前だけどね」
アハハハ! すごい覚えてるんだ!
私は嬉しい。とても嬉しい。
彼は前世の名前を覚えていたんだ。
それは、相対的に私の前世の記憶が夢幻のようなものでなく実際に確かなものである証明であり。
私をひどく安心させるモノであった。
「そうなの? じゃあ君のコトをケイタ君ってコレから呼ぶね!」
今、私の内面は酷く歪んでいるだろう……。
依存の対象を見つけて狂気に塗れているだろう。
だが、それを彼に感じて欲しくなくて……私は表情を取り繕ろいながら話を続けた。
「いいけど……君の名前は?」
「私の名前は『金指ヒトミ』よ」
「そう、じゃあ僕はヒトミさんって呼ぶけど……アレ? 前世の名前は?」
「ゴメンね。実は前世の名前は思い出せなくて……」
「あ、そうだったの? それは悪いコト聞いちゃったかな?」
最悪だ……私。
同情を乞うように話してる。
「ううん。さっきまで私の前世の記憶は儚い幻想みたいなものなんじゃ無いかってずっと悩んでいたんだけど……ケイタ君が前世の名前を覚えてるって聞いて凄く安心したんだ。それなら私の記憶も確かなものなんだろうなって」
「そうかな?」
「そうだよ。同じ前世の記憶があるケイタ君に出会ったのは、とても喜ばしいことなんだよ」
「そ、そっか……」
あれ? ケイタ君の表情が引きつっている?
私なにかしちゃったかな?
すると、目から涙が出ているのに気づいた。
嗚呼、話しているうちに泣いちゃったのか……。
仕方ないよね。とても嬉しかったんだもの。
それから、ケイタ君との話は休み時間や放課後残って話をしたのを総合計して三時間くらいかかったと思う。
同じオタクが見つかるのは良いコトなんだとか言われた時は、思わず殴っちゃったけど……許してくれるよね。
まぁ最後に……。
「ケイタ君は、すごいね。私は前世の名前が思い出せないで不安で不安でしかたなかったのに、そんな元気なんて……」
って本音で話した時にケイタ君の様子が可笑しかったのはなぜだろうか……少し疑問に思ったのでした。
主人公はヒロインに依存されました。
次は主人公視点です。