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この頃のイリエーサーは元気がない。あれだけ陽気に振る舞っていたのに、誰かと人格をすり替えられたかのように、陰鬱で無口な留学生になっている。以前と比べると、疲れた表情でため息を漏らすなど、信じられない変わりようである。満が話し掛けたときにはいつもの饒舌さを発揮するが、必要に迫られて無理やりテンションを上げている、といった感じに見える。
日本に飽きてきたのか、はたまたホームシックに陥っているのか。何かしらの原因があることは間違いないが、一番怪しいのは執拗に遊びに誘っている三バカである。学校では声もかけないくせに、放課後になった途端、大森を筆頭に満面の笑みで隣席にやって来る。そして、イリエーサーは嬉しいとも迷惑とも取れる微妙な笑みを浮かべ、言われるがままついて行く。彼らの奇妙な関係には疑問を持たざるを得ない。
昼休みになっても三バカとイリエーサーは別行動で、一緒に弁当を食べることはない。何度かイリエーサーの方から誘ったことはあるらしいが、当たり前のように断られている。仕方がないので、昼は満とアキラが面倒を見ている。三バカの代用品みたいになっているのは癪だが、仲間に入れて欲しいと言ってきた留学生を拒絶したくはなかった。あいつらと同類に成り下がってしまうみたいで不愉快だったからだ。初めのうちは乗り気でなかったアキラも、一週間経って諦めたのか文句の一つも言わなくなり、時間になると素直に弁当箱を持ってきて、満とイリエーサーがくっつけた机の向かい側に座るようになった。ジェスチャーを混ぜた下手くそな英会話にも大分、慣れてきているが、やはりアキラの英語力は心強い。
「いつもそのパン買っているけど、おいしい?」
イリエーサーが頬張っているのは八十円の小さなポテトパンだ。昼食は質素なもので、売店の安いパン二つとジュースだけである。
「ハイ、オイシイです。お気に入りナンデス」
「そうか、お気に入りか。でも、夜まで持つ? それだけで」
「腹がスイタときは、オカシ買いマス。セツヤク、デスヨ」
「節約ねえ……俺は無理だな。貧乏人だが、空腹には勝てん。その大きさのパンだと余裕で五つは行ける」
「育ち盛りだもんな」
アキラは小柄だが、結構な大食いでもある。かなり大きめの弁当箱を持って来ているが、それでも全然足りないとぼやいている。
「お前も頑張れば行けるだろうが?」
「五つはさすがに無理だよ。三つで限界だ」
「三つ? もしかしてお前、ガリのくせにダイエット中か?」
「まさか、小食なだけだよ。てか、このカロリー高そうな弁当見て、ダイエット中に見えるかよ?」
から揚げを箸に刺して、アキラに見せる。弁当箱には他にもレンコンの揚げ物やマヨネーズの掛かったブロッコリーなど、高カロリーなおかずが揃っている。
「まあ、育ち盛りだから仕方ねえよ。卵焼きの一つくらい恵んでやろうか?」
アキラがこちらに弁当箱を向け、箸で卵焼きを掴む。
「いや、いいよ。俺は他人の箸が触れたものが食べれない奴なんだ」
「なんだ、潔癖症か。なら、欲しいって言っても今後一切、やらんからな。お前はどうだ? 欲しかったら一個くれてやる」
「ありがとう……ゴザイマス」
イリエーサーは差し出された卵焼きを素手で摘み、指が油まみれになるのも気にせず、そのまま口に放り込んだ。
「ワイルドに行くんだな。満も少しは見習えよ」
「そう言われても無理なものは無理だからな……。味はどう? 美味しい?」
「オイシイです」
「そりゃあ、どうも。おしぼりは持ってないから、手はどっかで洗ってきな」
「ワカリマシタ」
「何だかんだ言って優しいよな、アキラって」
「うるせえよ」
アキラは口元を綻ばせながら言う。優しいと評価されて照れ臭いらしい。
「あの、皆サンに質問してもイイデスカ?」
「質問?」
「お前は質問をするために質問するのか? まあ良い。何だよ、言ってみろ。卵焼きの作り方か?」
「大森タチのコトです」
「大森って……。クラスのあれか」
「ああ、あれね。大森がどうかしたの?」
「アナタたちはナゼ、彼らを嫌イマス?」
「なぜって言われても……。ムカつくからとしか。あいつらは人様に迷惑掛けるようなことを平気でするし、世界は自分中心で回っていると勘違いしている典型例だよ」
毒を吐き捨てるアキラは、大森たちに対し、あからさまな敵意を向けている。
「そういえば、今日もいないね。三人でピクニックかな?」
「いなくて良いだろ、あんな奴ら。どうせ、こいつと一緒に飯食ってても、いちゃもんつけてくるだけだしな。なら、お前らがハブらなければいいだけだろって話だ」
「ノー。皆サンは大森たちをミスリードしてイマス」
イリエーサーは更衣室前で揉めた時と同様、悲しげな顔をする。仲良くすればいいのにとでも考えているのだろう。満としても可能であればお互いに歩み寄り、彼らとのわだかまりを解消して行きたいと考えているが、残念ながら実現はほど遠い。
「気持ちは分からなくもないが、敵を作っているのはあいつらだからな。自業自得。お前にとっては良い人でも、気の弱い奴には平気で暴言を吐いたり、いじめにも似たようなことをする」
「まあ、日頃の態度を改めてくれないと仲良くするのも難しいよね」
「ノー」
「そういやイリエーサーは、普段あいつらと何をして遊んでんの? 放課後はいつも一緒だけど」
アキラの毒舌が勢いづいてきたので、ここらで会話の流れを変えていく。似たような質問は前にもしているが、途中で邪魔が入ってまだ回答は得られていない。
「ホウカゴ……」
特別な意図があって訊いたわけではないが、なぜか眉間にしわを寄せ、困惑している。
「ゲームしてるんだろ」
「え? アキラ、知ってんの?」
「涼夏から聞いた。ゲームセンターに入るところを見たとか、見ないとか」
「ゲームは……シテイマス」
「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。別に校則違反をしているわけではないんだし」
学校によっては下校時の娯楽施設への寄り道が、禁じられていたりもするが、うちの高校では推奨はしないまでも許容範囲内である。帰りがけ、ゲームセンターに立ち寄ったからと言って、焦る必要はどこにもない。こういった校則についてはイリエーサーもあらかじめ、国際交流部の先生から英訳した書面を渡され、説明を受けている。落ち着きがなく、やたらと周囲を見回しているが、あたふたするほどの大ごとではないのは、本人も分かっている筈だ。
「ゲームセンターは楽シイですヨ。お金はかかりマスガ、楽シイのでイツモいってます」
「いつも行っている? もしかして、節約しているのもそのせいか?」
「いいえ、ダイジョウブです」
訊かれる前から指摘されるのを想定していたのか、妙に回答が早い。
「確かイリエーサーの国だと、千円あれば一週間飲み食いできるんだよね?」
「そうらしいな。金の管理はしっかりしておかないと、いつの間にか売店のパンが一つになるぞ。あいつらは中学の時からカラオケ、ボーリング、ゲーセン三昧。愉快な仲間は他にもいたが、遊ぶたびに金ばっかり使って、なくなったらなくなったで、人におねだりだ。お前も気を付けろよ。金を貸してくれとか言われても、絶対に取り合うな」
「日本ではホントに親シイ相手、信用デキるヒトとしかお金の、シャッキンはシテイナイのですよネ?」
「あ、借金? 何の話だ?」
「大森が言ッテマシタ。信用するヒトどうしでシカお金のヤリトリはシナイ」
「おいおい、まさかとは思うがお前、もう手遅れか。あのクソ野郎どもに騙されて」
「ちょっと待った。そこから先の話はあんまりここでしない方が良い」
アキラの言わんとしていることは何となく分かるが、内容的にこのまま、教室で会話を続けるのはマズい。教室の生徒数は普段より少ないが、昼休みは人の出入りが多く、誰にも聞かれないという保証はない。まだ、真偽のほどは定かではないのに、余計な脚色がついて大森たちに伝わってしまったら、話が非常にややこしくなる。
「言われるとそうだな、場所を変えるか。続きは人のいないところで」
学校で仲間外れにしておきながら、放課後になったらイリエーサーに近づき、掌を返したように優しくする。あの行動は、以前から不可解だった。根拠がなかったので黙ってはいたが、イリエーサー本人が発した一言で彼が体よく利用されている可能性が一気に高まった。しかも、厄介なことに金が絡んでいる。最近、やたらと倹約し始めたのもそのせいだろうか。
「ドウシタのです? ナゼ移動するのデスカ?」
「お前がゲームセンターでどんなゲームをしているのか、聞きたいんだよ」
「ダメです。大森サンとヒミツにする約束ナノデス。トモダチとの約束は絶対デスヨネ?」
脅されているのか、もしくはそう答えるように教え込まれているのか、イリエーサーは必死に相談を拒む。
「ああ、大森のゴミカスはそういったのかも知れないけど、友達に秘密を訊かれたら、絶対に答えなければいけないって、鉄の掟も日本にはあるんだぞ」
「そうそう、覚えておいた方が良いよ。早く行こう」
アキラが機転を利かせたので、便乗させてもらう。少々無理のある方便だったが、イリエーサーは相当、純粋で騙されやすい性格のようだ。あっさりと受け入れていた。
人に邪魔されない閉鎖的な空間で、一年生の満たちが自由に利用できる場所と言えば、トイレか部室である。さすがに三人でトイレに籠って話すわけにはいかないので、消去法で麻雀部の部室へと移動する。先輩たちが集まって麻雀をしていたら、諦めるしかなかったが、幸い人の気配はなかった。
鍵を開け、中に入ると、不快ではないが好んで嗅ごうとも思えない、独特の匂いが出迎えてくれた。正面の窓からは直射日光が差し込み、細かい埃を照らしている。まるで大量の羽虫が浮遊しているかのようだ。棚には麻雀に使う道具や戦術書、部活とは無関係の漫画やライトノベル、人生ゲーム、ジェンガ、教科書などが収納されている。麻雀部は体育会系クラブでもないし、大会に出て優勝を目指すような文化系クラブでもないので、気楽なものだ。放課後に集まって、ゲームで盛り上がるだけで良いのである。満たちは真ん中にある立卓タイプの麻雀卓を囲み、腰を下ろした。アキラが卓上に残っている数牌を拾い、萬子、筒子、索子に分け、小さいものから順に並べていく。彼が必要のないときに麻雀牌をいじるのは、一種のチック症みたいなものである。
「コレはなにデスカ?」
イリエーサーは麻雀牌に興味を示して言う。麻雀は欧米諸国など、海外でも普及しているゲームだが、彼にとっては人生で初めて見るもののようだ。
「牌だよ、麻雀っていうテーブルゲームで使うの」
「マー、ジャン?」
「そう、中国のテーブルゲーム。俺らは部活でこれをやっている。俺らはインドア派だから、グラウンドとか体育館でさわやかな汗を流すより、テーブルゲームが性に合うのさ」
「ちうごく? チャイナ? 日本のモノではナイのですネ」
彼が麻雀を日本独特のデーブルゲームだと思ったのは、牌に漢字が書かれているからだろう。不思議そうに萬子の文字を指でなぞっている。
「まあ、アルファベットを使う国の人だし、日本のものと間違えるのも仕方ないわな。漢字あるし」
「カンジ、難シイです」
「心配するな。日本人でも馬鹿な奴は、漢字もろくに読めねえから」
数牌を三列に並び終え、今度は上に積み重ねていく。あまりに手際が良いので、正式なルールに基づいて遊んでいるのだと、勘違いさせてしまいそうだ。
「麻雀に興味ある?」
「アリます」
「そうか。なら、部員少なくて困っているし、日本にいる間だけでも入部してみたら?」
「おいおい、無責任なこと言うな。誰がこいつにルールとか教えるんだよ? 俺には英語で麻雀のレクチャーをする自信なんてないぞ」
「お願いシマス。アキラさん」
「お願いされてもなー」
「頑張れば何とかなるっしょ」
「まったく、お前は他人事だからそんなこと言えるんだよ。まあ、麻雀がどんなものかどうしても知りたいって言うなら見学でもしに来い。ここならゲームセンターみたいに金も取られねえしな」
「オッケーだってさ、良かったね」
「アリガトウ」
「それはさておき本題だ。イリエーサー、お前はあの馬鹿どもに金払ってんのか? 借金がどうとか言ってたけど、ただの日本語間違いか?」
「ソレハ……」
三バカを警戒しているのか、部室の外を振り返る。
「だからぁ、何でそんなに神経質なのよ? あいつらもここまでは襲撃しに来ないって」
「ヒミツは、ヒミツはどうなるんデスカ?」
「秘密も出来る限り守るから、心配しなくていいよ」
「アキラさんも、ヒミツにシテくれマス?」
「内容次第だ。まずは話してくれや。どうしても言いたくないと言うのなら、無理強いしないが」
「ワカリマシタ」
イリエーサーは肩の力を抜き、詳細を英語で語り始めた。満は二人のやり取りを見守りつつ、文脈から最低限の意味を理解しようと努めてみたが、スラスラと出て来る英単語に耳が追い付けず、最終的に諦めていた。
「……こいつは、ヤバいことになってるわ」
アキラは苦虫を噛み潰したような顔で、積み上げた麻雀牌をぐちゃぐちゃに崩す。何がヤバいのか分からないので、聞きとった内容を和訳してもらう。
「何だよ……それ」
聞き終えてから、三バカのあまりに自分勝手で卑劣なやり方に、吐き気にも似た感情が込み上げてきた。アキラの解釈が正しいとすれば、三バカはイリエーサーを金づるに仕立て上げ、毎日利用していることになる。友達になって何から何まで全部教えてやる、と豪語していたが、それも留学生を騙して金を巻き上げていく前口上に過ぎなかったのである。彼らは歪曲した日本文化や一般常識を擦り込む過程で信頼を獲得し、金の動きに繋げていった。連中のずる賢さは、決してでたらめな常識ばかりを教えているわけでないところからも伺える。例えば、友達との秘密を厳守する、待ち合わせ時間には遅れない、困っている友達は助けるなど、表面的に見れば何ら問題のないものを植え付けているのである。秘密を厳守させたのは告げ口防止のためだろうし、待ち合わせ時間を守らせたのは単にゲームする時間が欲しかっただけだろうが、具体的な実態を突き詰めたりしなければ、満でさえも納得してしまいそうなものばかりである。大森にはそれらを都合の良いように捻じ曲げ、金を出させるように仕向けるしたたかさがあった。話によると、三バカはたまにイリエーサーの遊んだ分まで、払ったりしているらしい。彼が相手を信頼して立て替ていたのには、少なからずそれも影響しているのだろう。
親切を装い適度に金を出してやることで、疑念を抱かせなくする。ここまでは、大森の目論見通りに進んでいる。一人の外国人をターゲットにじわじわと時間を掛け、金を搾取するなんて、いっぱしの高校生が考えるにはあまりに巧妙で、悪質極まりない手口である。払わされた額と払ってもらった額が等しければ、満たちが四の五の言うべき事柄でもないのかも知れないが、三バカに限ってそれはまず考えられない。
「立派な恐喝行為だな。学校に報告しないと」
食費を切り詰めるほど、生活が厳しくなっている様子を鑑みれば、大ごとにするのは当然のことである。二週間で被害総額は五万円強、ビチレブ島だと一ヶ月の生活費を軽くまかなえる額だ。日本に留学するためにコツコツ貯めてきた小遣いを、ハイエナ同然の奴らに奪い取られているなんて、あまりに惨たらしく許しがたい。
「あいつらなら、これくらいはやる。自分たちのわがままを押し通すためなら、汚い手段も厭わない。そんな奴らだ。俺が気に食わない理由もよく分かるだろ? 仲良くできるわけがない。しかし、『クレクレ』ってネーミングセンスはないな」
「先生に言ウつもりデスネ? ノー、ソレはヤメて下サイ。ボク、学校をヤメないとイケマセン」
「いやいや。退学に値する重罪を犯しているのは、お前じゃなくてあいつらだろ。お前は騙されているんだよ」
「ノー、彼らはトモダチです。アナタたちの方が間違ッテイマス。ボクは関係をキズつけたくアリマセン。アナタたちは大森がキライだから言ッテいまセンか?」
実害を被っているのに、イリエーサーは頑なに納得しようとしない。現実を受け入れられず、親切にしてくれた大森たちを悪者だと思いたくない気持ちが強いようだ。見ていて少し同情する。三バカがろくでもない奴らなのは間違いないが、彼にとっては一人で日本にやって来て心細かったところ、初めて遊びに誘ってくれた友達であり、一緒に楽しい時間を過ごしていたのは紛れもない事実なのである。庇う価値はないように思うが、イリエーサーは今でも三人を友達として受け入れている。彼自身も三バカに対して、疑問を抱いたこともあった筈だが、その都度、考え過ぎだと自らに言い聞かせ、深層まで考えないようにして来たのだろう。だから、他人から「騙されている」と指摘させるのが怖いのだ。満たちの言い分を認めるということは、楽しかった時間を嘘で塗り潰すということでもある。主観で何とか誤魔化してきたところに、客観的な見解が入ってしまったらもう逃げ道はない。他人が放った、たった一言が現実から目を背けられなくしてしまう。
「せっかく俺らが何とかしてやろうと思ったのに、そこまでブーブー言うならもう知らん。勝手にしろ」
アキラが掌で転がしていた牌を苛立ち気味に置く。
「イリエーサーの気持ちも分からなくはないけど、このまま放っておいて良いことなんて何もないよ」
「ソレハ…………ソウデスガ」
「そもそもお前、昼休みにあいつらと飯食ったことはあんのか?」
「……イイエ」
「だろ? もうこの際だからはっきり言わせてもらう。これはアドバイスじゃなくて警告だ。日本語で言われて分からないなら、後でいくらでも英訳してやるからよく聞け」
「…………」
「あの三人にとってのお前は、ただの便利な財布なんだよ。ウォレット。情が沸いているみたいだけど、奴らが普段お前に優しくしているのは全部、演技なんだ。えんぎ、分かるか? パフォーマンス。お前は強請りの標的にされているんだ、言葉が通じないからな。このままいくとマジで身ぐるみはがされるぞ」
普通の人なら逡巡してしまいそうなことだが、アキラは容赦なく口にした。ほとんど、日本語だったのでしっかり伝わっているとは思えなかったが、イリエーサーは英訳の要求をして来なかった。悲しみとも怒りとも取れる表情でうなだれるだけである。
「パフォーマンス、なんかじゃアリマセン。財布でも……アリマセン。アナタハ……酷イデス」
「俺は現実を教えてやっただけだ」
「確かに。言い方は厳しいけど、アキラの言い分は間違ってないよ」
「そんなミツルさんまで……」
「俺もアキラもあいつらが気に入らない。それは否定しない。だけど、君の方もどうにかしたいんだろ?」
イリエーサーを二人称で呼ぶのは何気に初めてだ。「君」という呼び方には違和感があったが、他に適切な呼び方が見つからなかった。
「ナゼ、ソウ思うのデスカ?」
「見てたら分かるよ。大森たちのことを打ち明けているときのイリエーサーは、助けを求めているようにしか見えなかった。自分では気付いていないのかも知れないけど……」
「…………」
「俺もアキラもエスパーでも何でもないから、他人の気持ちなんて分からない。でも、もし困っているのであれば力になってあげるよ。君が貯めて来た金は日本の文化を学ぶためのもので、奴らに貢ぐためのものじゃないでしょ」
「俺が協力するのはとにかく、あいつらが嫌いでぶっ潰したいからだ。『クレクレ』とかいうクソみたいな名前の文化を作る奴らに、馬鹿にされているのが気に入らないんだよ」
「分かった、そういうことにしておくよ。じゃあ、まずは手始めに」
「担任にチクるんだよ。決まってるだろ。さっさと行こうぜ」
アキラは楽しそうに笑い、牌を片付けた。