人生は夢。「わたしは今生きている」と思う、この瞬間でさえ、はかない一瞬の幻。
題名「霊」
飲んでて終電を逃し、親戚の家に泊まりに行った。急なことだったけど叔母は喜んでくれた。
この家のいとこが昨年の暮れに死んだ。
体格が似ていたから、叔母は僕の姿を見ると、死んだ我が子が帰って来たように思えるのかもしれない。
死んだいとこには高校生の妹がいた。父方のいとこは彼女だけになってしまった。
彼女は僕にとっても妹みたいなものだ。
いとこの寝間着を出してもらった。
叔母は、
「まあ。伸幸が帰って来たみたい……」
そう言った。
「確かに」
僕もそう答えた。
◆
夜中、トイレに起きた。昨夜、ちょっと飲み過ぎた。少し頭が痛い。
そのとき、薄暗い廊下で誰かを見たような気がした。
伸幸……?
驚きながらも、そのまま通り過ぎてから思い出した。
──あそこには大きな鏡が掛けてあった……。
いとこの寝間着を着てるものだから、そこにいとこが居たような錯覚を起こしたのだ。
朝になって、そのことを叔母に話すと、
「あら。おかしなことを言うのね。あの鏡は粉々に割れちゃって、もう掛けてないはずだけど……?」
え? と思い、僕は廊下に出てみた。
鏡はなかった……。
あれは単純に、アルコールが僕に見せた幻……?
それとも、本当にいとこだったか……?
或いは、割れた鏡の霊が現れて、僕を映していたのかも……
了
題名 一日の出来事
ああ日本! この星に、こんな素敵な場所があったとは!
初めて日本にやって来て、今日で十日。私は快適に過ごしている。
日本語は完璧にマスターしている。読み書き、そして会話にも、不自由はない。
今夜、バーベキューパーティーに行って来る。近所の日本人が誘ってくれたのだ。
彼は昆虫の擬態の研究者。(擬態とは、体を変化させて他のものに見せ掛けること)
彼とは五日前に知り合った。彼の職業を聞いたとき──私は一瞬、ドキリとした。
彼の家を訪ねると、子供を含めて二十名の日本人が集まっていた。
一人の女性から、
「そう。転勤で。で、ここに来られる前は?」
そう聞かれたので、
「先月まで四国の香川で五年間。その前は九州にいました」
ここでも私は、彼に言ったのと同じ返事をした。
そんな具合に、庭で彼らと肉を囲んでいると、日本のアニメの宇宙戦士のコスプレをした男の子が、
「宇宙人め! やっつけてやる!」
わめきながら、ホースの水を、そこらへんじゅうに撒き散らし始めた。
イタズラは、すぐに止められたが、私は本当に驚いて、人間の擬態が、一瞬、解けそうに──
了