序
ああ、薄々わかってはいたよ。こうなることは。
そりゃ、私しかいないのだから仕方ない。
未来ある赤子よりも、私に白羽の矢が立つのは仕方がない。
でも、まだ30歳なのに。いや、今年で31の女だけれども。
まだもうちょっと、希望ぐらい抱かせてくれても良かったと思う。
そもそも私しかいないというのは一体全体どういうことだ。
どいつもこいつも顔を赤らめてオズオズと申告するなんて、残酷以外の何物でもないだろう。
言い捨ててやりたいことはいくらでもあるのに、そんな時間を設けてもくれなかった。
満場一致の拍手喝さいで送り出されるなんて、憤りを感じて果てしない。
滅んでしまえ。
なんて叫んだのが運の尽きだった。
ワッと襲ってきた筋骨隆々の男共に取り押さえられ、両手を縛られ目隠しをされて、酒樽か何かに押し込められて、今現在運ばれている。
どこに運ばれているのか、などというのは決まっている。
500年に一度の目を覚ましてくれやがった化け物の元だ。
酒樽ごとバリっと一撃で息の根を止めてくれればもういい。
30年、長いようで短いクソみたいな人生だった。
人生の心残りはただ一つ、あのクソババァとクソジジィが鼻血を吹き出して悶絶するまで殴り飛ばせなかったことだけだ。