百合
彼女は、なんというか女の子の欲しいものを全て持ち合わせている子であった。
真っ黒の長い睫毛にふちどられた瞳はいつだって潤っていたし、透き通るような白い肌、柔らかいぴんくの唇はいつも微笑みを湛えていた。
触れたら崩れる、そうしてそのまま指の間をサラサラサラサラ流れていく、第一印象はそんな感じだった。
どうしたの、とわたしの視線に気づいた彼女がゆっくりと顔をあげる。西日に透かされた髪がきらきらしていてる。ただでさえ色素の薄い茶色の髪はわたしのそれとはかけ離れていた。照らされた彼女の顔に陰影がくっきり浮かぶ。ほんとうに人形みたいな顔してんのね、無意識に呟いた言葉になにそれと彼女がゆるく微笑んだ。
窓いっぱいに西日が差し込む踊り場はシンとしていて、おれんじに染まったそこにある全てに不思議な感じがした。積まれたダンボールや錆びたパイプ椅子さえも、なにか引き込まれそうであった。4階を越えたその先にある階段、屋上につながる階段、ここは普段滅多に人が来ない。彼女とわたしが座り込んだ階段には確かに二人のながい影だけが落とされていた。
ふいに下を向いた彼女がねえ、と呟いた。いつもの鈴がなるような声ではなく、低く鈍い押し殺したような声にぎょっとした。気づくと彼女の白魚のような手がわたしの左腕をしっかりと掴んでいる。
いた、爪ささってるよ、どしたの
言うも彼女は掴んだままじっと動かない。彫刻のように動かない。なんだか得体の知れない不安に襲われ、下を向いたの彼女の顔をそっと覗きこんだ。瞬間、何が起きたか理解できなくなった。声にならない衝撃が走った。
小さく震える彼女は泣いていた。
彼女が流しているのはなんと石だった。
透明の液体がぽろりと零れた瞬間、それぞれの綺麗な色をもって個体へと変わっていく。宝石と言ったほうがただしいだろうか、いや、とにかく彼女は悲しそうな、悔しそうな顔をしてそれを流し続けているのだ。ついに噴火してしまったかのように、コップの水が溢れだしたかのように、ぽろぽろとめどなく流れ落ちる。
透明、白、紫、赤、みどり、青、キラキラと小さくまばゆい光を放つそれは彼女の頬をするりと滑りおちる、藍色のスカートに落ちる、、。スカートの上に石がたまる、やがて階段に小さく音を立てて落ちる、、。
彼女はしばらく小さな嗚咽とともにそれを流し続けていた。左腕はすでに彼女のしっかり掴まれたままの、ささった爪によってあかくなっていた。わたしといえば何を言えばどうすれば良いのかもわからずとにかくじっと彼女と彼女の流すそれを見つめていた。ほんとうにほんとうに訳がわからなかったが、ただ綺麗だなと思っている自分がいた。
ゆっくりと彼女がわたしの腕をはなす。それからわたしの目を見つめる。
「好きなのよ。ずっと前から、ずっとずっと前から。」
ぽろぽろと石を流しながら悲しそうな悔しそうな顔で彼女ははっきりそう言った。
ゆっくりとその言葉を頭の中で反芻する。
すきなのよ、ずっとまえから、ずっとずっとまえから
「だから、だから、、ごめん。ごめんね。」
先程とは反対にか細くか細く早口に彼女が呟く。言うやどっと彼女の流すそれは余計に勢いがついたようだった。
わたしはそれをみて慌てて大丈夫よ大丈夫だからと彼女の背中をさする。
彼女はずっと泣いていた。石は彼女を、わたしを飲み込むかのような勢いで流れていた。西日が石をさらに輝かせた。一体がきらきらきらきらしていて、彼女は泣き続けていた。
あんまり泣くので、このままだとそのうちほんとうに彼女自身石になってわたしの指の間をすり抜けていきそうだともおもった。それが恐ろしくて、彼女を失う事は恐ろしくて、ひたすら彼女に、自分に、大丈夫よといい続けた。
あれこれって、もしかして、わたしも、