第九十四話「最後の一日」
現在俺は現実世界にいる。
クレスたちにはヘルフェスを倒してもらい、とあるキーカードをドロップして貰っている。
何でもこれが儀式に必要なものらしい。
俺にはそんなアナウンスは流れなかったが、クレスには流れたようだ。
さて、俺が現実世界にいる理由。
それは、母ちゃんと別れることだった。
何だろう。
これが死ぬ前の人の心境と言うものだろうか。
分からない。
分かりたくもない。
俺は本当は死にたくなんてない。
でも、こうするしか方法はない。
誰かを身代わりにするのは俺には出来ない。
だから俺はこの選択をした。
「母ちゃん、おはよう」
「あら、用太郎。おはよう」
母ちゃんは洋服を折りたたんでいた。
「ねえ母ちゃん」
「何かしら?」
「もし俺が死んだら、母ちゃんどう思う?」
「突然何言ってるの!?」
「いいから答えて!」
俺は半ば強い口調でそう言い放った。
母ちゃんはしばらく考えた後、こう発言する。
「それは、用太郎が死んだら私は悲しいわ。だって用太郎は私の家族なんだから当たり前でしょ」
当たり前。
そりゃそうだよな。
俺だって母ちゃんが死んだら悲しい。
俺は洋服を折りたたんでる母ちゃんを後ろから抱きしめた。
「どうしたの? 用太郎」
「今まで……ありがとう」
「急にどうしたのよ!?」
「いや、何でもないよ」
こうして母ちゃんと別れを告げた。
学校の友達皆にも、同じようなことを聞いた。
やはり俺がいないと皆、悲しいらしい。
周りの皆のそう言った声を聞くと、俺の心に揺らぎが生まれつつある。
ダメだ。俺。
決めたじゃないか、自分の命を差し出すと。
俺は現実世界での最後の一日を過ごし終えた。




