第九十話「身代わり」
さて、俺はグランガの宿で平和的に起きることが出来た。
食卓へ向かうと、ラーラがいた。
「あ、アダム」
「おはようございます」
「おはよう」
俺はラーラの向かい側の席に座る。
しばらくの間、沈黙が流れる。
ラーラの方から口を開いてきた。
「グレ、死んじゃったね」
「ああ」
グレは死んだ。
しかし、こんなことを言うのはあれかもしれないが、
俺はグレの死より、自分のことで頭がいっぱいだった。
だって、俺もグレと同じように死ぬのだから……。
「私、グレのこと嫌いだったけど。嫌いな人でも死んだら悲しいもんだよね」
「……そうだね」
「ねえ、アダム」
「はい?」
「どうして石版の文字を読むのを途中でやめちゃったの?」
……まさかラーラにもそのことを聞かれるとは。
まあ当然ちゃっ当然か。
クレスと俺だけの秘密にしようかと思ったが、
別にラーラに話すのも悪くないな。
俺は父ちゃんとは違う。
自分の悩みは素直に打ち明けようと思う。
「本当は話したくなかったけど」
俺はラーラに全てを打ち明けた。
あの石版の内容。
それを見たときの俺の思いなど。
「……まさか、アダムまで死んじゃうなんて」
ラーラの顔は真っ青だった。
俺も何て言ったらいいか分からない。
「カロンって酷い人だよね」
「そうだね」
カロン・カルライナ。
彼の目的は一体何なんだ?
俺の命が必要ってどういうことなんだ?
その真相は分からない。
でも、俺は彼のために死ななければならない。
俺が死ぬと母ちゃんが悲しむ。
そう思うと彼のことが憎くなってきた。
「アダム。私にこのことを打ち明けてくれてありがとう」
その後のラーラとの食事は無言で終わった。
でも悪い雰囲気ではなかった。
むしろラーラにも全てを打ち明けて良かったと思う。
クレスは俺に選ぶ権利を与えてくれた。
だけどあまりその選択を待たせるわけにも行かないよな。
でも少しだけ甘えていいかな。
この世界と現実世界を満喫して、
それに満足したら自分の命を差し出す。
それでいいだろう。
母ちゃんのことが心残りだが、
いつまでも、このままじゃいけないってことは嫌でも分かる。
俺がこうして悩んでいる間にもこの世界の犠牲者が出てくるんだから。
まあ、今はそんなこと忘れて、この世界でスライム育成でも頑張ろうじゃないか!
よっしゃ! 気を取り直していこう。
そんな時、俺の脳内にアナウンスが流れた。
”プレイヤーの誰かを身代わりにすることが出来ます。”
どういうことだ?
アナウンスがさらに続く。
”プレイヤーの誰かを一人殺すことで自分の命を犠牲にすることなく、全ての問題が解決します”
それってつまり、俺の命を犠牲にしなくても、
誰か一人を殺すことで、その一人の命を犠牲に皆が元の世界に戻り、
かつこの世界に巻き込まれる人も出なくなるってことか……。
どうしよう……。
俺は悩んだ。
誰かを殺せば俺の命は助かることになる。
でもそんなことしていいのか?
いや。
俺の中で一人だけ殺してもいい人物が浮かび上がっていた。
ブラだ。




