第八十六話「尋問」
「ミハエル。これ、君のものだよね」
ミハエルの名が上がった。
でもちょっと待てよ。
「クレスさん。質問なんですが」
「どうした? アダム」
俺は率直に聞く。
「昨日、俺を襲ったのはNPCだと思うんですが」
「どうしてそう思うんだい?」
「だってもしプレイヤーだったら頭上に名前が表示されるでしょう?」
「ああ、そうだが」
「なのでプレイヤーだったら襲われた時に誰か分かるのでは?」
「なるほど、エレーナ。例のものを」
「分かりました」
おっ! いつの間にエレーナここにいたんだが。
今気づいた。
彼女、気配消すの上手いな。
「この黒いローブなんだが」
クレスがエレーナから受け取った、頭に目のマークが描かれているローブを皆の前に突き出した、
「そのローブがどうかしたんですか?」
「このローブを着れば名前の表示を消すことが出来る」
驚いた。
まさかローブ一着でそんなことが出来たとは……。
「試しに僕が来てみようか?」
「お願いします」
クレスはそのローブを着た。
そしたら何とクレスの頭上の名前が消えたのだ。
「なぜこのローブで名前を消せるのかは分かってはいない」
「……」
「恐らく、カロンがこのローブにのみ特殊な細工をしたのだろう」
なるほど。
しかし、その仕組みに気づいたクレスもすごいな。
さすがクレスといったところか。
「さて、話を戻そうか」
仕切り直す。
「ミハエル。昨日彼を襲ったのは本当だね」
「そ、それは……」
「言い訳は聞きたくないな」
クレスさん怖いです。
殺気を感じます。
「はい……僕がやりました」
クレスの威圧感に負けたのか、
ミハエルは自白した。
「どうして彼を襲ったのか理由を聞いてもいいかい?」
「彼の存在がある以上、このままだと元の世界に戻らざるおえないからです」
ミハエルは語りだした。
「クレスさん、もうやめましょう。この世界の真相を明かすなんて」
「……」
「いいじゃないですか。現実世界の僕たちのことだなんて」
「……」
「僕たちはこの世界では英雄として崇められている」
「……」
「なぜ、腐った現実世界にわざわざ戻らないといけないのか僕は理解できません」
「そうだ! わざわざ元の世界に戻る必要はない」
他の人たちも彼に追従するかのようにそう答えた。
「なるほど」
クレスはしばらく考えた後、こう言い放った。
「僕は皆に元の世界に帰って欲しいと思う」
「……」
「確かに現実世界は残酷で醜い世界だ」
「……」
「だけどその世界が僕たちの居場所であって」
「……」
「その世界で頑張るほうが僕は自然だと思う」
クレスは話を続ける。
「皆、SSSの役目は知ってるね」
「……それは」
「この世界に迷い込んだ人たちを元の世界に返してやること」
「……」
「このまま順調にことが運べばこの世界に巻き込まれるプレイヤーも出なくなるかもしれない」
「……」
「そうすれば僕たちのSSSの役目も終わる」
「ちょっと待ってください」
メンバーの一人が口出してきた。
「SSSの役目にはこの世界の問題を解決するのもあったでしょう」
「所詮この世界はゲームの世界だ」
「それは……」
「それに、この世界のことはこの世界の住人に任せるのが一番だろう。ね、エレーナ」
「クレスがそう言うなら、なんなりと」
エレーナはクレスに対してお辞儀した。
しかし、この二人。
何かの絆で結ばれてる気がする。
何というか相棒って感じかな。
「さて、もし君たちが彼の命を狙うというのなら、僕は君たちの敵となるだろう」
「……」
「話は以上だ。今日のイリジャ遺跡の件だが、嫌なら付いて来なくて構わないよ」
「俺、行きます!!」
「そうだな! クレスさんの言う通り現実世界で頑張るのが普通だ」
何人かが手を挙げた。
「良かったよ。僕の味方をしてくれる人がいて」
クレスが不敵な笑みをミハエルに向ける。
ミハエルはそれに対して、怒っているのか、怒っていないのかよく分からない顔をしていた。
「それじゃあイリジャ遺跡に向かおう。エレーナ、街の外へ出たら白虎を頼む」
「私の白虎は乗り物じゃないんですけどね」
「ごめん、そういうつもりじゃないんだ」
この二人のやりとりは相変わらずだ。
さて、俺たちはイリジャ遺跡に向かうことになった。
カロン・カルライナ。
彼は一体何者なんだ?
さっきの紙を見た感じ、異世界の魔術師みたいだったが……。
まあイリジャ遺跡に向かえば真相が分かるだろう。
俺たちはイリジャ遺跡に向かうことになった。




