第七十七話「押し問答」
「彼女の世話を頼む」
え? 嘘? どういうこと?
もっと大事な頼みかと思ったんだが……。
ってか何で俺がこんな女の面倒を見なきゃいけないんだよ。
”アダム:そんなこと言われても困ります”
”クレス:彼女もSSSのメンバーだ”
”アダム:確かにそうなりたいとは言ってましたけども”
”クレス:君には彼女の育成をお願いしたい”
”アダム:育成ってあれでも彼女充分強いですよ”
俺とクレスの押し問答は続く
”クレス:レア度5のモンスターを持ってないうちは強いとは言えない”
”アダム:それじゃあ、俺の役割はどうするんですか?”
”クレス:それは彼女を育成した後でも出来る。それに”
”アダム:それに?”
”クレス:この世界に迷い込んだからと言って簡単に死ぬわけではない”
確かにラーラもカードバトルオンラインのモンスターを持ち越しているようには見えた。
モンスターを持ち越していればそう簡単に死ぬことはない。
だけど……。
”アダム:俺とブラみたいな事例もありますし”
”クレス:それはイレギュラーなことだ。なかなか無い”
”アダム:それでも”
”クレス:分かった。こうしよう”
クレスは名案でも思いついたような顔をした。
”クレス:他の人をシャイリアに向かわせる。それなら文句は無いだろう”
”アダム:……”
参りましたとでも言うべきなのだろうか……。
確かにSSSのメンバーには優秀な人達が多い。
だけど何で俺が彼女の世話なんてしなきゃいけないんだろう。
”クレス:それじゃあ頼む”
クレスとのパーティチャットが終わった。
「皆、僕は今日も地図作りに専念しようと思う」
「またですか。クレスさん」
「すまない。狩りは自分達の好きなようにやってくれ」
クレスは話を続ける。
「ちなみに僕のルシファーはバウンドケルベロスリーダーから出たカードだ」
「へえ、ってことは」
「ああ、必ずしもヘルフェスを狩る必要は無い」
「マジかよ。初耳だぜ」
周りのプレイヤー達が喜びの声を上げる。
バウンドケルベロスリーダー。
地獄界で最も弱いモンスターだ。
ただ地獄界最弱と言ってもレア度6。
それなりに強いだろう。
まあヘルフェスよりかは相当弱いが。
「それじゃあ僕はそろそろ行くね」
「待ってください。クレス様」
迷惑女のラーラがクレスに話しかける。
「どうしたんだい? ラーラ」
「私もお供したいなと思って」
「済まないが君を連れて行くことはできない」
「そんなあ、お願いします!!」
「って言われても」
「お願いします!!!」
ラーラは食い下がる。
クレスはそんなラーラの頭に手を置きこう発言した。
「僕の帰りを大人しく待ってくれる女性は嫌いじゃないよ」
「クレス様……」
その言葉をラーラはあっさりと受け入れた。
さすがクレスさん。
現実世界ではホストでもやってたんだろうか?
女の扱いが上手い。
クレスはSSS本部を出ていった。
しかし、彼女の面倒を見れと言われてもなあ。
「ん?」
彼女が俺に近づいてきた。
一体何の用だ?
「アダム、腹減った。飯おごれ」
ああ、厄日だ。




