第七十二話「被害妄想」
見知らぬ天井。
あれ? ここはどこ?
確か私はカードバトルオンラインをやっていたんじゃ……。
視線を移す。
その瞬間、私の目の前には少年が見えた。
どういうことなの?
現状が理解出来ない。
私は少年に話しかける。
「あれ? ここはどこなの?」
「あれ? ここはどこなの?」
少女は辺りを見回しながら俺に問いかけてきた。
俺はその問いに答える。
「あなたはゲームの世界に迷い込んだんですよ」
その言葉を聞いた後、少女はしばらく黙り込んだ末、こう言い放った。
「意味が分からないんだけど」
意味が分からないのはこっちも同じだ。
いや、俺の役目は理解しているよ。
でもまさか本当に俺の前に現れるとは思わなかったしさ。
ってかスライム狩りてー。
マジでスライム狩りてーは。
まあこの少女が一人紛れ込んだところで俺のスライム育成に特に支障は無い。
さっさとクレスに引き渡すか。
「立てる?」
「ええ」
少女はベッドから起き上がった。
「これからクレスっていう人のところに連れて行くから」
「まさか……私になにかするつもりじゃ!?」
しねーよ。
貴女がスライムなら何かしたかもしれないけど。
ってか、その話はどうでもいいか。
「別に何もしませんよ」
「怪しい」
はあ……。
面倒なやつだなこいつ。
「もし、あなたになにかするつもりならこんな所に運んだりしませんよ」
「まさか、私が気絶している間に!!」
「……何もしてませんよ」
「絶対何かした!!」
ああ!! メンドクセー!!!
ブラといいグレといいこの少女といい。
どうして俺の周りにはこんなやつらしかいないのだろうか?
「だから何もしてませんよ」
「嘘! 何かしたでしょ」
……クソが。
「本当に何もしてませんよ。俺はただ平原で気絶したあなたを宿に運んだだけですよ」
「……」
「とにかくこの街から移動しましょう」
「嫌です」
……。
頑張れアダム。
ここでくじけるな。
とりあえずこう言えば少女も言うことを聞いてくれるだろう。
「元の世界に戻りたくはないですか?」
少女はしばらく考える素振りをしたあとこう言い放った。
「ええ、戻りたいわ」
良かったー。
話を続けよう。
「今からこの街に移動してですね。クレスという人物に会ってもらいます」
「ふうむ」
「クレスに頼れば元の世界に帰れますよ」
「とか言ったりして私をどっかのアジトに連れ込む気でしょう」
どんだけ被害妄想すりゃ気が済むんだこの女。
確かに見た目は悪くないが。
正直スライム好きの俺としてはこんな女、見る価値も無い。
「元の世界に帰りたくないのですか?」
「うっ!!」
とりあえずこの少女は元の世界に帰りたいようだ。
それはいいことだと思う。
やっぱゲームの世界より現実世界だよね!
少女はまた考える素振りをしたあとこう言い放った。
「……帰りたいわよ」
俺はその言葉に答える。
「それじゃあ俺と一緒に元の世界に帰りましょう」
「一人で帰れるわよ」
あのー。クレスさん。
どうやらこの少女をあなたの元に連れて行くのは、
少し骨が折れそうです。
とりあえず俺は少女の説得を続けることにした。




