第六十七話「サッカー」
朝。
俺は目覚める。
見慣れた天井。
現実世界だ。
一応時計も確認する。
うん、いつもどおりだ。
さて、
俺はパソコンの電源を付けた。
カードバトルオンラインの様子が気になるからな。
掲示板のカードバトルオンラインスレッドを確認する。
どうやらあの人本当に書き込んでくれたらしい。
皆にこのゲームをやらないよう促してくれてる。
だけどほぼ効果無し。
荒らし認定されて終わったようだ。
「ん?」
俺に関しての事が書かれてる。
前回、カードバトルオンライン内で荒らしを巻き起こした俺についてだ。
普通に”アダムうぜえ”だけならまだいいが俺が注目したのはそこじゃない。
掲示板にはこういった事が書かれていた。
”アダムってやつしつけえよなあ”
”ああ、何度BANされても新しいアカウント作って意味不明なこと抜かしやがるし”
”今アダム何番目?”
”24番目だな”
24番目!?
俺はアダムは8番目までしか作ってないんだが……。
ああ、そうか。
多分、このスレッドの人の中に悪ふざけをして俺の名前のアカウントを勝手に作って遊んでる人がいるんだな。
まあ逆に助かる。
俺が苦労する必要は無さそうだ。
今更こんなこと言うのもあれだけど、何度も垢BANされるのって結構ショックだったんだよ。
「用太郎、今日はお母さんがご飯作っといたから食べてね」
「ああ、ありがとう! 母ちゃん」
俺は今日もいつもどおり支度し、学校へ向かった。
今日の学校も何一つ変わらない。
友達とワイワイガヤガヤと騒ぎ、先生に怒られる。
何も変わらない。
唯一気がかりな点は、友達がカードバトルオンラインをやっているということだ。
今まであのゲームの世界に巻き込まれたのはカードバトルオンラインをやっている人の1%にも満たない。
つまりあの世界に巻き込まれる可能性は宝くじで一億円を当てるほど低い。
だが0ではないのだ。
あの世界に巻き込まれた人間は、現実世界では植物状態になる。
友達にはそうなってほしくない。
だがそのことを理由に添えてカードバトルオンラインをやめろと言っても、
何言ってんだこいつ。
としかならない。
今の俺に出来ることはカードバトルオンラインのサービスが終了することを願うだけだ。
「なあ、用太郎」
「何?」
「サッカー部、戻ってこいよ」
何かと思えばサッカー部か。
俺はサッカーが好きだ。
本当なら戻りたい。
でも家のことがある。
「ごめん、俺、家事をやらないといけないからさ」
「そうか、残念だな。お前、サッカー部のエースだったのに……」
本当に残念だ。
「おいおい、何泣いてんだよ」
「え?」
俺はいつの間にか涙を流していた。
父ちゃんのことを思い出していたのだ。
父ちゃんがいれば、俺はサッカーを続けることが出来た。
父ちゃんがいれば俺たち家族は幸せだった。
父ちゃんがいれば……。
ダメだな、俺。
父ちゃんのことはもう考えないと何度も自分に言い聞かせてるのに。
それに関連する言葉が出るたびに父ちゃんのことを思い出す。
「いやさ、俺がサッカー部に重宝されてたのが嬉しくて、嬉し泣きしちゃった」
「ギャハハ、それぐらいで泣くなんてお前、意外と涙もろいんだな」
そうさ、俺は泣き虫だ。
学校が終わった。
俺はいつもどおり家に帰り、家事をこなす。
カードバトルオンラインスレッドも確認する。
いつもどおりだ。
まとめるとアダムうぜえといった感じだ。
「さて、そろそろ寝るか」
時計は夜9時を回っている。
母ちゃんはまだ帰ってきていない。
母ちゃんは今も家計を支えるために一生懸命働いている。
ふと思うことがある。
もし、母ちゃんが過労で死んでしまったらどうしようかと。
父ちゃんだけじゃなく母ちゃんまでいなくなってしまったらどうしようかと。
そうなったとき……。
俺はどうするんだろう?
ブラやグレみたいにゲームの世界に逃げるのかな……。
ってあまりこんなこと考えないほうがいいな。
俺らしくない。
さて、ゲームの世界でスライム育成でも頑張るか!
俺は眠りについた。




