第六十六話「地図作り」
さて、そろそろ目的地へと着く。
そう言えば今までクレスがどんな感じに地図を作っていたのか気になるな。
質問してみよう!
「クレスさん」
「何だい? アダム」
「その地図どこまで出来てるんですか?」
「そうだなあ、北西をずっと進むとカーラ遺跡がある。ただそこは結界がある。だから中には入れなかった。そこを南に進むとイリジャ遺跡がある。その遺跡に入ってみたが意味が分からない文字が書かれている石版があった。さらにその南にはイニシガの森があってそこに住み着いている魔物は」
ダメだ。
マシンガントーク過ぎて全然頭に入らねえ。
「そこに住み着いている魔物はトゥレントという魔物で」
「いや、もう十分です」
「そうかい」
とりあえず俺たちは目的地へと辿りついた。
見る限り山道だ。
そうだ! もう一つ気になることがあったんだった。
「クレスさんは行った場所に自分で名前を与えてるんですか?」
「いや、アナウンスで流れてるだけだよ」
アナウンス?
それなら俺にだって流れてもおかしくない。
さらに聞いてみることにした。
「俺の場合、アナウンスは流れませんでしたよ」
「どうやらこのアナウンスは僕だけに流れるみたいなんだ」
「ちなみにこの山の名前は分かりますか?」
「ギエール山だね。」
なるほど。
しかし、クレスだけに流れるとは不思議だな。
やはり個人差か?
「僕もイレギュラーな存在かな」
クレスが唐突にそう言い出してきた。
「多分この世界に一番初めに迷い込んだのは僕だよ」
なるほど。
だとしたらクレスだけに特別にそういったアナウンスが流れるのも若干納得できる。
「さて、そのまま進むか。エレーナ」
「分かりました」
エレーナが白虎リーダーを山道の先へ進める。
この山には特に木という木がない。
平原みたいな山だった。
「ここにはモンスターは住み着いてないのかな?」
確かにモンスターがいる気配がない。
俺たちはそのまま山頂に進むことにした。
「ん?」
山頂に辿り着いたがその中心に大きな巣がある。
ここに何か住み着いているのだろうか?
「ぎゃおおおおおおおおおおお」
突然だった。
遠くから咆哮が聞こえたと思ったら、ドラゴンが現れた。
色を見るにブラックドラゴンかな。
ブラックドラゴンを見るとクズニートのブラを思い出す。
やめてもらいたい。
しかし、彼、どうして自分の名前に”ブラックドラゴン”だなんて名前を付けたんだろう?
何度も言うが恥ずかしいったらありゃしない。
グレもそうだ。
”グレネードランチャー”という名前。
失笑ものだ。
ブラックドラゴンはレア度4コスト20のモンスターで、
ドラゴンの中でも比較的強い位置に当たる
「ん?」
よく見ると角が生えてる。
ブラックドラゴンリーダーか?
ブラックドラゴンリーダーはレア度5コスト25の強力なモンスターだ。
こちらも廃人様ご用達のカードだ。
「やはりいたか、出でよ! ルシファー!!」
クレスがルシファーを呼び出した。
うん、一瞬だ。
どれだけ強力なモンスターでもクレスのルシファーの前では手も足も出ない。
だってこの世界の大魔王ヘルフェスをHP半分残して倒しちゃうぐらいだよ。
化けもんとしか言い様がない。
「さて、イニシガの森の南にはギエール山っと」
クレスはポケットから紙を取り出し何かを書き込んでいる。
恐らく地図か何かだろう。
「そういえば君はガサーリア方面から来たんだよね」
クレスが聞いてきた。
ガサーリア?
初めて聞く名前だ。
とりあえずクレスに訪ねてみよう。
「ガサーリアってなんですか?」
「最初僕は君たちとペットリンで出会ったよね」
「はい」
「だとしたらガサーリア方面だと思うけど……」
クレスはしばらく考える素振りを見せた後、話を続けた。
「そういえば君は初めどこにいたんだい?」
「どっかの平原です」
「君たちが初めて来た町はどこだい?」
クレスがさらに聞いてくる。
「シャイリアですが……」
「やはりこの世界はゲームの世界であることが色濃くなったね」
「どういう意味ですか?」
「僕はいろんな町をまわったりしてるけど、僕がその街に来たときはガサーリアという名前だった」
「それがどうかしましたか?」
「つまりこのゲームの世界の作者が街の名前を変えた可能性がある」
なるほど。
そういう考え方もあるのか。
しかし……。
「唐突に街の名前が変わったとして、NPCはそれに気づかないんでしょうか?」
「そういう風に仕込んでる可能性が高いね」
「ふむ」
「もしくは何らかの事情でNPCたちが街の名前を変えたのかもしれない」
「なるほど」
「まあこの件も後々考えていこうと思うよ」
クレスはルシファーを戻した。
「さて、もうここには用はない。グランガに戻ろう」
意外とあっさりだったな。
クレスのルシファーのおかげだが。
俺たちはグランガに帰った。
道中、俺は気になったことがあったのでクレスに尋ねた。
「クレスさん一つ質問いいですか?」
「どうぞ」
「仮にこのゲームの世界を作った人がいるとして」
「……」
「地図作りをするのは無意味じゃないですか?」
「どうしてそう思うんだい?」
このことに関しては一つだけ根拠がある。
俺はそのことをクレスに話す。
「この世界を作った作者がこの世界の地形を変える可能性もあるのではと」
「なるほど」
クレスは納得した顔をしていた。
しかし、こう反論してきた。
「無駄ではないと思うよ」
「どうしてそう思うんですか?」
「まず、いちいち世界の地形を変えるのには手間がかかるのと」
「……」
「後から地図にした地を訪れて、そこが違った場所になっていたんならここがゲームの世界だということがより一層色濃くなる」
なるほどな。
クレスさん良く考えてらっしゃる。
ブラとは大違いだな。
いや、ブラと比較すること自体恐れ多い。
俺たちはグランガの街に辿り着いた。
もう辺りは夜だ。
「アダム、エレーナ。お疲れ様」
「お疲れ様です。クレス」
「お疲れ様でした。」
うわっまた一つ疑問が出てきてしまった。
一応聞いていたほうがいいだろう。
「クレスさんは眠くなりますか?」
「そうだね。僕はこの世界でも普通に睡眠を取るよ」
「なるほど」
ってことはやはりプレイヤーによって三大欲求は個人差があるのか。
それならブラや他のプレイヤー達の行動も辻褄が合う。
「それじゃあアダム。お休み」
クレスは宿に入っていった。
俺もそろそろ寝るか。
現実世界で友達とワイワイガヤガヤと騒ぎたい。
しかし、今日一日楽しかったな。
ギルドサービスの車に乗って移動するよりも、
生の動物に乗って移動したほうが新鮮味があっていい。
空気も美味しいしな。
さて、俺は現実世界でもカードバトルオンラインをサービス終了に追い込むまで活動する必要がある。
前は進展はあったが大きな進歩ではない。
そもそもカードバトルオンラインはネトゲの中でももっとも有名なゲームだ。
運営がそう簡単にサービスを終了するとは考えにくい。
でも……やるしかないんだよな。
まあボチボチ頑張ってみますか!
そう思いつつ俺は眠りについた。




