第四十九話「トラウマ」
俺は目を覚ました
見慣れた天井
我が家だ
俺はすかさず携帯電話で日付と時間を確認する
「……同じだ!!」
起きた時間は7時ちょうど
前起きた時間も同じ7時だった
ここで一つ仮説が出来上がった
さっきあの世界に来た時は1時間も経っていなかった
だけどこの世界では8時間も経過している
……つまり
あの世界ではどれだけたくさんの時間が経過しても
どれだけ短い時間のうちに元の世界に戻ったとしても
元の世界での時間は変わらない
これだけ分かれば十分だ
これはクレスにとっても有力な情報になるだろう
どう有力になるかは分からんが
頭のいい彼のことだ
きっと有力な情報になってくれる、うん
さて、俺は今日も元気に朝食を取り
支度をして学校へ向かった
「……ただいまあ」
今日の学校は最悪だった
いや、今日も学校の授業で自習があってよ
俺はまた先生をはめようと皆に提案し教室のドアに黒板消しを設置したんだけどさ
俺、また尿意に襲われたわけよ
前は自分で仕掛けた罠に自分で引っかかったわけだから
そのことを思い出し今度は罠を設置したドアからじゃなく後ろのドアから行こうと思ったわけなんだよ
それで後ろのドアを開けた瞬間俺の髪の毛は真っ白になったわけね
もう、言わなくても分かるね
はめられた! ちくしょおおおおおおお!!
いや、いいんだけどね
俺は友達のまとめ役と同時に盛り上げ役なわけだから
笑いの種になることはむしろいいことだと思う
でも、まさか俺がはめられるとは思わなかったぜ
そんな茶番はさておき
母ちゃんは今日もパートで忙しいから家にいない
父ちゃん……
もう考える必要はない
そんなことは分かってる
だけどどうしても父ちゃんのことを忘れることが出来なかった
なんやかんや言って俺は父ちゃんのことが好きだった
家族の中心だった父ちゃんが好きだったのだ
もうやめよう
こんなことでぐじぐじ悩むべきじゃない
俺は家事をこなしつつ
母ちゃんのために料理を作った
「ただいまあ」
「お帰り、母ちゃん」
「あら、今日はカレー?」
「そうだよ!」
俺は母ちゃんとテーブルで席を囲みカレーを食べた
俺と母ちゃんは他愛もない会話を交わした
「うん、美味い!」
「でしょ」
「用太郎、随分と料理の腕を上げたわね」
「えっへん! 俺は何でも出来る子だからね」
「もう! 用太郎のそういうところ父さんそっくり」
「やめろよ!!」
俺は思わず怒鳴り席を立ち上がった
「え?」
「あっごめん」
父ちゃん
これが俺のトラウマワードなのかもしれない
「僕の部下の中には現実世界にトラウマを持っている人もいるんだ」
クレスのその言葉を思い出した
そうだな
そうだよな
俺、何も考えてなかった
ブラだってそうだ
彼も現実世界にトラウマがある
だからこの世界に戻りたがらなかった
俺はあの世界の人たちの気持ちを考えてやる必要がある
しかし、いいのか? あれで
いや、前を見つめるべきだ
俺も父ちゃんの死とちゃんと向き合うべきなのかもしれない
「ねえ、母ちゃん」
「どうしたの?」
「暇があれば父ちゃんの墓参り行かない?」
「あら、珍しいわね。前はあんなに行きたがらなかったのに」
「ちょっとさ、ね」
そう前を見つめるべきなのだ
俺は逃げない
この世界の現実から絶対に逃げない
向き合って見せる
俺はブラやあのクレスの部下とは違う
「あっもうこんな時間か」
ネットサーフィンしている間にもう夜の11時だ
「さて、どうするかな」
俺はあの世界で何をやるべきなのだろう
皆に元の世界に戻るよう説得したけど誰も聞きやしなかった
説得を続けるべきか?
いや、無意味だろう
そうこう考えているうちに俺は眠りについた




