第四十二話「あの世界へ」
俺は今日もカードバトルオンラインをプレイしている。
無論ずっとプレイしているわけではない。
学校や家事の合間にプレイしているのだ。
今日学校ではクラスのタケル君とリナちゃんが付き合っていると話題になっていたので。
ヒューヒュー!! と喚いてやった。
「ただいま」
母ちゃんはパートで忙しいので家にはいない。
いつもなら家にいるべきだった母ちゃんが……
父ちゃんは死んだ。
理由は知っている。
仕事でノイローゼを患っていたのが原因で自殺している。
俺は父ちゃんの選択を許すことが出来ない。
ノイローゼを抱えているなら俺と母ちゃんに素直に相談してくれば良かったんだ。
俺ももっと早く気づいてやれば良かった。
しかし、どうやって気づく?
父ちゃんは表立って俺たちにそういった様子を見せてはくれなかった。
ただ一日今日は仕事を休みたい。
そう言っただけだった。
その時に俺が理由を聞き出して相談に乗るべきだったか?
俺がそういった対処をすることが出来れば父ちゃんは死ななかったのかもしれない。
責任は俺にもあるかもしれない。
俺がもっと早く父ちゃんの悩みに気づいてやれば……。
クソッ!
今更悔やんでも仕方がない。
父ちゃんはもういない。
その事実だけが残っている。
俺がこれからやることは決まっている。
今は母ちゃんの手伝いをし、高校生になったらアルバイトを始めて家計を支える。
それだけだ。
ああ、他にもあったな。
あっちの世界のプレイヤーたちにこっちの世界での現状を伝えることだ。
ブラやクレス、他のプレイヤーたち。
彼らはこっちの世界では植物状態なのだ。
しかし、どういう仕組みで俺たちはあの世界に迷い込んだんだろう?
クレスは俺のことをイレギュラーと呼んだ。
他のプレイヤーたちはゲームをしている最中にあの世界に迷い込んだという。
俺だけが別だ。
俺は眠っている最中にあの世界に迷い込んだ。
この違いが何を意味しているのかは俺には分からない。
ただ一つだけ共通点を挙げるとすれば。
あの世界に迷い込んだプレイヤーたちは皆カードバトルオンラインというゲームをプレイしているということだ。
とにかくあの世界のプレイヤーたちにこのことを伝えなければ!
俺がそこまでする義理は無いが
ブラは本音をぶつけ合った友人だし
クレスには元の世界に帰るのに世話になった。
彼らを助ける理由はある。
しかし、どうやって向こうの世界へ行く?
クレスは言っていた。
あの世界に二度迷い込む人物はいないと。
ただその事例がないだけであの世界へもう一度行く方法はあるはずだ。
「ただいまあ」
もう9時か。
母ちゃんがちょうど帰ってきた。
「お帰り母ちゃん。あ、ご飯作っといたから食べてね」
「いつもすまないねえ、退院したばかりだと言うのに」
「気にしないで、母ちゃんだって頑張ってるし」
あの世界へ向かう方法。
俺には一つしかなかった。
このゲームを続けることだ。




