第三十九話「元の世界」
「ん? ここは」
俺の目の前には見知らぬ天井がある
周りを見渡す
右は壁、左には点滴を打つ機械が置いてあった
ここは病院か
「用太郎」
その声に俺は安心感を覚える
母ちゃんの声だ
「!!」
母ちゃんが俺に抱きついてきた
「良かったあ、用太郎、良かったあ!!」
俺は母ちゃんを抱き返す
「あんたまでいなくなったら私……私……」
「かあ……ちゃん」
母ちゃんはしばらく泣き続けた
俺も同じように泣き続けた
終わった
そう全て終わったのだ
あれは夢
そうただの夢なのだ
だけど夢にしては妙だな
病院に運ばれるほど眠っていたとは
ネトゲのやりすぎで死亡する人がいたりするが
俺は家事の合間にやる程度なので大丈夫だと思っていた
まあいい
次からはゲームのやりすぎには気をつけるとするか
数日後
俺は体調が良かったおかげか退院した
自分の家へと辿りつく
我が家だ
あんな夢を見ていたせいか
我が家が懐かしいとすら感じる
さて、暇だしカードバトルオンラインでもやるか
そう思っていた
だが俺は躊躇した
今日は母ちゃんとコミュニケーションを取ろう
そう思ったのだ
母ちゃんと近くのレストランに行きたくさん話をした
母ちゃんが俺が寝ている間どれだけ心配したか
また俺が夢の世界であった話など
母ちゃんはその話を面白そうに聞いていた
後日
俺は学校にも通い始めた
「よっ! 用太郎、久しぶりだな! 大丈夫か?」
俺は友達に心配された
「大丈夫だよ、ちょっと可笑しな夢を見ただけさ」
「可笑しな夢を見ただけで入院なんかするかよ」
周りの友達はゲラゲラと笑い出した
俺も笑った
俺たちは友達皆で笑い合う
やはりあの夢の世界よりはこっちの世界だな
俺は友達と久しぶりにワイワイガヤガヤと騒いでいた
先生に注意もされた
まあ先生も今日は俺が退院していたってのもあって
厳しくすることはなかった
俺は帰宅する
「あまりやりすぎないようにしないとな」
何事もほどほどにだ
ゲームは一日一時間
あの名人の言い付けは守るべきだな、うん
俺はゲームへとログインをした
「皆、心配してるだろうなあ」
特にブラ当たりがそうだろう
しかし、彼との夢での冒険は楽しかった
夢の中に彼の姿があったのはきっと俺と彼がとても仲がいいからだろう
このゲームで一番最初に友達になったのは彼だしな
俺はフレンドリストからブラの名前を指定しメッセージを送った
”アダム:よお、ブラ”
……返事がない、ただのしかばねのようだ
おっとそんな冗談を言ってる場合じゃないな
”アダム:おい、ブラ”
……やはり返事がない
まさか……まさかな……
俺は言い知れぬ恐怖を感じた




