第十五話「アダムとブラの過去」
「父ちゃんこれ好物でしょ? 父ちゃんにあげる!」
「いいのか用太郎? サンキューな」
「もう! これは用太郎が嫌いな食べ物でしょ」
「母ちゃん言わないでくれよお」
「アハハハハハ」
俺、新垣用太郎は幸せな家庭を送っていた
父ちゃんはサラリーマン
母ちゃんは専業主婦
そして俺は小学生でサッカー部に所属しているヤンチャ坊主
そんなごくありふれた家族構成だ
俺たちは毎晩家族三人でこうやって食卓を囲み
今日あった出来事を話し合いながら楽しい時間を過ごしていた
俺が小学校六年生になったある日
「どうしたの? あなた」
「今日は気分が悪い、仕事を休んでいいかな?」
「ええ、別に構わないけど」
珍しく父ちゃんが仕事を休んだ
今まで毎日元気に通っていたのに
そんな父ちゃんが仕事を休んだ
俺は父ちゃんを心配した
「おい! 用太郎、何ボケーッとしてるんだ」
「あっ、ごめん」
学校の授業中も休み時間の時も父ちゃんのことで頭の中がいっぱいだった
普段は友達とワイワイやりながら授業中も注意されていたのに
「すいません、今日は用事があるので部活早退します」
俺はコーチにそう告げサッカー部を早退した
皆、不思議がってた
まあ毎日元気よく練習してた俺が休んだのだから無理もない
「ただいまあ」
俺は家に帰った
「母ちゃん?」
母ちゃんは家にいなかった
恐らく買い出しに出かけていたのだろう
「父ちゃん、気分はどう?」
俺は父ちゃんの部屋のドアを開けた
「父ちゃ……」
俺は言葉が出なかった
ハハハ、何か幻覚でも見えたのかな
そう信じたかった
だけど現実がそうさせてはくれなかった
「ただいまあ」
丁度母ちゃんが帰ってきた
「あら用太郎、今日は早いの」
「うあああああああああ!!!」
「どうしたの用太郎、あっ!!」
俺の母ちゃんは愕然としていた
そりゃ当然だ
目の前には首を吊った父ちゃんがいたのだから
葬式の日
お坊さんがお経を唱えている中
俺は席を立った
「ちょっと用太郎!」
俺は母ちゃんの言葉を無視して
父ちゃんの遺影の前に向かった
「この馬鹿野郎!!」
お坊さんのお経が止まる
周りがざわつき始めた
「勝手に死にやがって……俺と母ちゃんを置き去りにしやがって……ふざけるな!!!」
「……」
「俺はお前のようにはならない! 絶対に……絶対にな!!」
母ちゃんの号泣が聞こえた
周りの人々もそれに釣られたかのように号泣した
俺の父ちゃんはこれだけの人々を悲しませたのだ
許せるはずがない
「母ちゃん、俺、母ちゃんの手伝いをするよ」
「いいのよ、用太郎は好きなことをしなさい」
「いや、そうさせてほしい、母ちゃんも大変だろうから」
母ちゃんはパートで働き始めた
俺は好きだったサッカーをやめ家事に専念するようになった
そんな中暇つぶしにネットサーフィンをしていたら
カードバトルオンラインというゲームに出会った
このゲームは暇つぶしにはもってこいのゲームだった
俺が中学校2年生になったとき
俺は日常に飽きを感じていた
今思えば父ちゃんが家族の盛り上げ役と言っても過言ではないのかもしれない
でも父ちゃんはもういない
「はあ……ゲームの世界の中に入れればいいのに」
俺はそう思うようになった
「あっもうこんな時間か」
俺は明日に備えて寝むりについた
「ん? まぶし」
もう朝か
俺は目を覚ました
あれ? 何かがおかしい
周りを見回す
俺は平原に立っていた
”カードゲームの世界へようこそ”
アナウンスが流れた
「あなた! 酒ばかり飲んで飲み過ぎると体に毒だよ」
「うるせえ黙ってろ!!」
「キャッ!!」
俺の名前は市松仲渡
俺の家庭は最悪だった
父ちゃんは会社をリストラされ毎日やけ酒しては俺たちに当たる
「母ちゃん、怖いよう!」
「ごめんね、仲渡」
そんなある日、母ちゃんは勇気ある決断をする
「あなた」
「何だ?」
「別れてちょうだい」
母ちゃんが離婚届を父ちゃんに提出した
俺は母ちゃんが父ちゃんに殴られるんじゃないかと心配だった
「へっ! 構わねえよ」
だけど父ちゃんは意外とあっさり承諾してくれた
こうして父ちゃんと母ちゃんは離婚した
「仲渡、今まで辛い思いをさせてしまってごめんね」
「うん、いいよ母ちゃんも辛かったよね、今度は俺が頑張ってかあちゃんを喜ばせるよ」
「仲渡……」
母ちゃんは喜びの涙を流した
俺は一生懸命勉強した
テストはほぼ毎回百点だ
そんな中、中学校三年生の時の誕生日
「仲渡、これなんでしょう?」
「うわあ、パソコンだ」
「いつも頑張っているご褒美よ」
「母ちゃんありがとう!」
俺は念願のパソコンを手に入れることが出来た
そんな喜びも束の間
皆が受験勉強に躍起になっている時期
俺は難関な高校を推薦で合格していた
それが原因なんだろう
「よう! 脳みそ小僧」
俺は虐められるようになった
「か、かあちゃああああああん!!」
「どうしたの? 仲渡」
俺は母ちゃんに虐められてることを打ち明けた
母ちゃんは頑張ってくれた
学校に掛け合ってくれた
しかし、学校側は取り合ってくれなかった
教育委員会にまで相談しにいった
でも結果は同じだった
「こんな世の中腐ってる」
次第に俺は引きこもるようになった
母ちゃんも事情は察しているため無理に俺を学校へとは行かせなかった
「仲渡、たまには外に」
「うるせえ!!」
俺は父ちゃんと同じようになってしまった
あれだけ父ちゃんのようにはなるものかと誓っていたのに
俺が21歳になった頃
俺はあるゲームと出会う
カードバトルオンラインだ
このゲームは操作が単純だが
他のゲームとは違い放置する必要がない
時間と金を掛ければすぐ強くなれるゲームだ
俺はそのゲームにはまった
そんなある日俺は平原に立っていることに気づく
”カードゲームの世界へようこそ”
アナウンスが流れた
俺は喜びを隠せなかった
夢のゲームの世界に入れたのだ
近くにはアダムがいた
俺はこの世界で頑張ろうと心に誓った
次第に仲間も出来、ミリーユという可愛い子とも上手くいき幸せだった
そんなある時、俺はアダムと喧嘩する
アダムは何かと俺をニート扱いしていた
カードバトルオンラインでもそんな喧嘩をよくしていた
だけどここまで本気になったのも初めてだった
俺はアダムを殺そうとしていた
アダムはこの世界を薄っぺらい世界だと言った
それは俺にとってはミリーユが薄っぺらいと言われる様なものだった
それで俺は切れた
「やめるんだブラ! 仲間同士で戦うんじゃない」
アダムスが俺たちの喧嘩を止めに入った
しかし、俺の耳にアダムスの声は届かなかった
「何してるの!!!」
ミリーユの言葉に俺は我に帰った
目の前には傷ついたアダムスがいた
「……最低」
「ミリーユ違う! これは!!」
「もう二度と私たちの前に現れないでちょうだい!!」
「……」
俺はミリーユの前から姿を消した
「アハハハハハハハハ」
笑うことしか出来なかった
この世界でやっとまともに生きれると思っていた
なのにあの様だ
俺は死を決意した
俺は路地裏に向かい
ある程度人がいないことを確認すると
右手に剣を出現させ
自分のお腹に剣を突き刺した
俺の意識は遠のいていった




