閑話「クレスとエレーナ前編」
カロン・カルライナ。科学者なら誰でも知っている量子力学に革命をもたらした科学者。ただ、彼は何故か科学者を引退。ゲーム制作に力を入れると声明を残し、量子力学会から姿を消した。僕は何故彼が科学者を辞め、ゲーム制作に力を入れるのか気になっていたので、彼が開発したネットゲーム”カードバトルオンライン”を研究の為、プレイすることにした。
「”カードゲームの世界へようこそ”」
いつのまにか? 僕はこの世界へと飛ばされていた。
「”そして、貴方がその第一人者です! おめでとうございます!”」
何だ? 何が起きたんだ? この世界に来た僕が真っ先に抱いた感想だった。
とりあえず、現状を探ってみる。
「ふむふむ」
まず気づいたのが、目を閉じると普通のRPGでは良くあるメニュー画面が開いたこと。その一覧にヘルプというボタンがあったため、迷わすそのボタンを押す。
ヘルプ画面が開く、そこには人体コストとモンスターコストがあり、それぞれ説明があった。
モンスターコストに入れるモンスターは既にいて、僕がカードバトルオンラインで最初に育成したスライムを召喚してみる。
「いでよ! スライム」
するとスライムが僕の目の前に現れた。
とりあえず、モンスターを召喚出来たことは理解した。そして、僕は辺りを見渡す。辺りは平原になっていて、何かうようよ動いてるものたちがいる。それらをよくよく観察してみると僕が召喚したスライムと同じ形をしていた。
で、今の僕に出来そうなことが探して見る。まず僕がこの世界に来た時に「カードゲームの世界へようこそ」という言葉が脳内に響いた。ということはここは”ゲームの世界”ってことになるのだろうか?
とりあえず、ここから動かないとな。
「ん?」
瞬きをすると新着メッセージが届いていますと通知が来た。何だろう? そのメッセージを開く。「”おめでとうございます!”貴方は第一人者なので、人体コストはそれぞれ100ポイントからのスタートになります!”」
メニューに人体コストというボタンがある為、それを押す。
体力100
素早さ100
攻撃力100
精神力100
これだけでは分からない為、僕はヘルプのボタンを押して人体コストについて調べた。
まず、体力はHPみたいなものだっていい。これが0になると死ぬらしいが、ゲームの中だけの僕が死ぬのか、リアルの僕も死ぬのかについては記載はない。
次に素早さ。歩くスピードに影響があるらしい。
次に攻撃力。モンスターに与えられるダメージの量が増える。ただ、僕的にはモンスターが召喚出来るのでモンスターに戦わせたほうがいい気もする。
最後に精神力。これも攻撃力同様必要かは分からない。ヒーリングとか使えたら活躍する能力値かな。
人体コストについては概ねこんな感じかな。
「では」
早速僕は移動を開始した。ちなみに周りにはスライムがいるが、こちらに敵意を向けてはいなさそうなので無視した。とにかくどこか街みたいなとこはないだろうか? そこでこの世界の情報を探る必要がある。
――。
どれくらい移動しただろう。やっと街らしいところに辿り着いた。看板には「”穏やかな雰囲気が売りの町 シャイリアへようこそ!」と書かれている。
とにかく人がいるので情報収集だ。
「あの?」「はい?」
待てよ。どう聞けばいいんだ? 誰かに「ここはゲームの世界ですか?」 なんて聞いてもおかしいと思われるのがオチな気がする。
「ここはゲームの世界で貴方はNPCですか?」
ただ、敢えてそう聞いてみる。
「はあ? 何言ってるんですか? 貴方大丈夫ですか?」
なるほど、僕にとってはゲームの世界でもこの世界の人からした自分達は単なるこの世界の住人でゲームの世界にいるという認識がない。一応これだけでも少し進展はあったが、これからどうすればいいのか分からない……。
とりあえずお腹が空いたから、何か食べたいがお金は……。
「ん?」
新着メッセージが届いた。
「”おめでとうございます! 第一人者への特典です!”」
とアナウンスが出て1万Gを手に入れたと表示が出た。まあ、何とか食いつなげそうではある。
――。
とりあえず、現状を把握してみる。まずこの世界をゲームの世界だと思っているのは僕だけだということ。そして、僕意外にこの世界に巻き込まれたプレーヤーは現時点では見つかっていない。そこまでは分かってるとしよう。で、これからどうするかだ。
「…………」
僕は薄らと恐怖を感じていた。この意味の分からない世界に僕一人だけ。次第に絶望感が僕の心を支配した。
そして、ある単語が僕の脳内で湧きおこった。
……自殺だ。
ある意味、ゲームの世界に巻き込まれた時点で僕の研究は進んだと言ってもいい。しかし、この状況は却って詰んだとも言える。もう死ぬしか手段がない。それで、もし運よく現実世界の僕が生きていたなら研究は続けるだろう。しかし、死ぬしかないならもう……。
「そこの貴方」「ん?」
女性が僕に話しかけてきた。
黒髪の長いポニーテールで巫女みたいな姿をしている。
ゲームの世界でもこういう格好の女性がいるんだなと少し驚いた。
「大丈夫ですか?」「え、あ」
僕は、
「大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます。気にしないで下さい」
とその女性に返事を返した。
「そうですか、分かりました」
その女性はそう発言した後、僕に軽い会釈をして立ち去って行った。
さあ僕はこれから先、どうしようか。
――。
結論が出た。
「死ぬ……か」
僕は死ぬことを本気で考えた。ただ、勘違いはしないで欲しい。自殺という手段を使って死ぬのではない。どうせ死ぬならゲームの世界なんだし戦って死にたい。
ということで僕は、最初の特典で得た1万Gを使って軽い装備を揃えた。そして、ドラゴン討伐に向かう。勿論、ドラゴンの餌食になる未来は見えてる。けどいい。
「ぐるるるうる」
ドラゴンがいる巣まで辿り着いた。ドラゴンは僕を見て威嚇している。
「さあ、どこまでやれるか?」「がううううううう」
ドラゴンが僕に向かって突進してきた。
「よし! ……」
ダメだ。体が動かない。やはり戦は怖いな。中世の騎士とかだともうちょっとまともに動けたのかな。どの道僕はもう死ぬだろう。
「く、ここまでか」
僕は死を覚悟して目を閉じた。
「白虎」
ん? 死んでない? 僕は恐る恐る目を開けた。
目の前には大きな白いトラと女性が一人。
「そこの貴方。大丈夫ですか?」
これが僕とエレーナの出会いだった。




