8.放課後・生徒会室にて
「………おそい」
「……………」
現在放課後。授業終了から三十分。左隣で無言のままのカナタと二人して生徒会室に来てから二十五分。現在この部屋にいるのは………
「今日もいい天気だねぇ、命。こういう日はやっぱり昼寝するに限ぐぇっ!」
いつも通り会長席でふざけたことを言って蹴られている生徒会長。
「限らないわよ!さっさと働きなさいこのバカ」
生徒会長に蹴りを入れている月読ミコト先輩。
「月読、あんまりかまってると調子乗るからその辺でやめとけ」
月読先輩がいるおかげか、昨日より大分気楽そうなクロス副会長。
「…………………」
やっぱり無言、無表情に入口を見ているカナタ。
「………なんでまだ来ないのサタンー!」
そしてけっこー苛々してきたわたし、アズミ。
の計五人。
………少ない。が、それは別に問題じゃない。招集日以外で十人より多く人がいることの方が珍しいくらいだし。
それよりも今はサタンのこと。わたしが教室出たときにちゃんと帰る準備してたのになんでまだ来ないわけ?どれだけ片付けに時間かけてるのよ?
とはいえ、本人が来ないことには文句を言えないし、ここにいる人達のファッションチェックでもしていよう。
トップは生徒会長こと天照美神。生徒会長って呼ぶか呼び捨てにするか今も迷う人。なんでもできる完璧超人なのにダメ人間といういろんな意味で残念な人物。顔もいいのに。
本日は高そうな黒のスーツ上下。下に着込んだワイシャツも心なしか高級品。ぜーたくな。
「アズミさん?さっきからどうしたんですか、私の顔に何かついてます?」
「はい。靴跡という名のメイクがくっきりと。すごく似合ってますよ」
机にうなだれ始めたし、あとは月読先輩に任せよう。あの人がいないとずっとサボってるだけだしね。
そうそう、ついでに言っとくと、生徒会員は事務部・情報部・執行部問わず白いワイシャツもしくはブラウスを着ることが義務付けられてる。だからみんな服がワイシャツなんだよね。一般生徒と見分けやすくするためらしいけど、あんまり意味ない。私服でも着てる人多いし。
さて、続いてはわたしが尊敬する月読命先輩。二年生で、サタンと同じ執行委員長を務める長い黒髪の美人さん。生徒会長とは従兄弟同士で、だからこそ(色々な意味で)容赦の欠片もない方。別に会長に容赦する必要はないけど。
そんな彼女は男物の白ワイシャツにワインレッドの紐ネクタイ、黒のジーンズに同色の巻スカート……と遠目に見ればギャルソンみたいな格好をしている。そしてとてつもなく似合っている。
動き易さ重視の中に女性らしさもあって、………ほんと尊敬します。
まぁ男子はもちろん、わたし以外の女子からも絶大な人気があるんだけど。…………みんな月読先輩の怖さを知らないからなぁ。知ったらどうなるんだろう。まぁ、わたしには関係ないけど。
「ねぇ紅宮。この昼行灯をどうにかする良い方法ない?」
「具体的には?」
「真面目に仕事するように」
「無理」
即断即決、ミコト先輩にさえ淡々と話すのはサタンのお兄さん、紅宮玄守先輩。口は悪いけど面倒見が良くて皆から頼りにされてる。いいお兄さんなんだけど、サタンには厳しいんだよねぇ……。愛情の裏返しって奴かな。
服は黒いズボンにワイシャツで、赤いネクタイが特徴的。端にある白い蜘蛛の巣のデザインがポイントだね。ちょっと不良っぽいのも似合ってて格好いい。サタンみたいにセンスが悪いのと本当に兄弟なのか疑いたくなるよ。
「…………………」
うん、カナタはもう少し喋るべきだと思うよ。話しにくくてしょうがない。
空嶺彼方。高校になってできたわたしとサタンの友人。そのせいで『悪魔の参謀』って呼ぶ人もいるらしい。それに合わせてわたしを『魔女』って呼ぶ輩もいたけど、………………………………今はいなくなったなぁ。
まあそれはおいといて、カナタはいつも通り白黒な服を着ている。黒ズボン白ワイシャツ黒ネクタイ靴も黒。肌も白いし、きっとカラー写真と白黒写真どっちで撮ったとしてもおんなじに見える。サタンとは対照的だよまったく。
……………ドドドドドドドドド……
ん?………やっと来たみたいね。ちょうどいいわ。
……ドドドドドド、バンッッ!!
「悪い遅れぐぎゃぁっ!」
お、いい具合に入ったなぁ…………回し蹴り。
しかも駆けこんで来たサタンの勢いの分威力が増したしね。だからって……可哀想とか許してやろうなんて思わないよ?
「さて、どうして遅れたのか、たあっーぷり話してもらいましょうか?」
「い、いやアズミ。これにはやむを得ない事情が……」
「ふぅん」
本当のところ、別に内容によっては許してあげないこともない。けどなぁ……
「えっと………、宿題1ヶ月未提出の罰として一人で教室掃除を」
「やっぱり自業自得じゃない馬鹿サタンっ!!」
「ぎっ!?」
わたしは静かに笑いながら、座りこんでいたサタンに――ラリアット。
「げえっ!!」
続いて、腹に――踵落とし。
「ぐぎゃっ!」
よし、決まった――アッパー。我ながらにいい角度。
「………ぶぅっ」
ズドドドドド、がらがらばたん!
「ちょっ、サタン君大丈夫?!」
少し離れたところで何かが激突して崩れる音と、月読先輩の声が聞こえるけど気にしない。しないったらしない。
「…………アズミ?」
「え、カナタ何?」
今日生徒会室に来てから初めて喋ってるし。自分から話しかけるなんて珍しい。
「……サタン、全部じゃないけど宿題やってた。だから三十分遅れた」
「どういうこと?」
「……つまり、少しでも宿題したから掃除だけですんだ。本当に1ヶ月出してなかったらもっと遅い」
えっと、それは、その………
「………わたし、やりすぎた?」
こくりと頷くカナタを見て、大きく息をつく。そのままサタンを殴り飛ばした方向を向いて―――机に埋もれて足だけ突き出しているサタンの姿を見て………
「また、やっちゃった……」
…………………どうやって言い訳しよう……?下手なこと言うとヤバい、よね。
とりあえず、心の中で謝っておくことにした。
今回はアズミ視点でお送りしました。次話はサタンに戻ります。
が、時折別の人の視点で書くかもしれません。