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6.寮での会話

「忘れてた」

 俺たちが生徒会室から逃、もとい出てきて校門でアズミと別れ、寮の自室に入ったところで突然カナタが呟いた。いきなりすぎて何事かと思った。

 さっきまでの行動からわかるように、俺とカナタは寮で生活している。同室で、高校に入ってから丸2ヶ月間一緒に暮らしているとさすがに互いの趣味嗜好なんかもわかって来るのだが、そんなこと以外にも色々知ることが出来た。

 最初は入学して偶然同室になった奴が一番の友人になるなんて思いもしなかったな……

「?、サタン、顔赤い」

「え、いやなんでもない。カナタこそどうしたんだ?」

 ……危ねぇ、友人って言葉から連想して中学の時のこと思い出しちまった。あん時は荒れてたからなー、赤面モンだよマジで。いやー俺も若かったなー。

 鞄から出した荷物を片付けながらぽつりとカナタが言った。

「ちょっと用事思い出しただけ。気にするな」

 なら良いけど、珍しいこともあるもんだな。カナタ(こいつ)忘れる(・・・)なんて。生徒会長のせいか?うん、奴のせいに違いない。

「あと、サタン。自分で若かったとか言うのはどうかと」

「まーたーでーすーかー!?」

 なんでこうも思ったことが口に出るんだ俺!は、まさか実は俺以外は皆エスパーで俺はそんな中唯一の普通人だったり……

「しない。サタンが正直過ぎるだけ。夕食食べ損ねたくないならさっさと用意する」

 へーへーわかりました。当たり前だが冗談だからそんな微妙な視線を向けるのはやめろ。というか、カナタいつもより若干言葉に棘があるな。なんかうっすら顔が赤いし、熱でもあるのか?

「あと……」

「ん?」

「例え考えるだけだったとしても、その、一番の友人とか、そういうのは使わない方がいい」

 そう言って部屋から出ていくカナタ。バタン、と大きな音をたててドアが閉められたところで我に返る。

 ああ顔が赤かったのは恥ずかしかったからであの態度は照れ隠しか…………ってそうじゃなくて。

「言ってたのか俺〜〜〜〜っっ!!」

 穴があったら入りたい、って気持ちが理解できた。できれば理解したくなかったが。

 その後、夕食を食べてるあいだじゅう恥ずかしくてまた叫びそうだったが、なんとか我慢した。ギリギリだったけど。

 




 夕食を食べ終わり、自室に帰ってきた俺とカナタ。

 現在はカナタが部屋ごとに備え付けの風呂に入っている。

 いや、それにしても一部屋づつに風呂付きってどんだけ豪華なんだよって感じだ。もう慣れたがホテルみたいな部屋だ。

 これだけ豪華なのだから寮代も馬鹿にならないはずなのだが、正確な料金を俺は知らない。ぶっちゃけ俺が特待生だからだ。

 この学校にある特待生制度はかなり特殊で、学業、スポーツ、芸術、その他のなんでも良いので推薦で入学すると寮代を免除してくれる。そしてこれが一番特殊なのだが、この学校ではバイトが基本的に禁止の代わりに推薦入学生のみ生徒会に入ることで授業料を減らしてくれるのだ。この制度は理事長が

「将来有望な生徒たちが金がないからと言って勉強ができないのはおかしい」と言って作ったらしい。

 正直感謝している。この制度がなければ今頃何をしていたことやら。

 ちなみに俺はスポーツの特待生だ。アズミは芸術で、カナタは学業の特待生らしい。全体の一割いるかいないかの特待生だが、一つの分野で優秀な成績を取り続ける限りその権利が剥奪されることはない。よっぽどのことがない限り、と兄貴は言っていたが。

 ついでに言っておくと、俺の兄貴のクロスは男子寮の寮長をしている。全寮制ではないとはいえ、かなりの人数が寮生活を送っているため苦労しているらしい。そんな役職、俺なら絶対にご免だな。うん。

「サタン、何か感慨深げ?」

「うおっカナタいつの間に!」

「さっきからいた」

 気付けばカナタが正面に立っていた。抑揚の少ない声でいきなり話しかけられると心臓に悪いな……

「だったらもっと早く声かけてくれても良いだろ?」

「それもそうだ、次からそうする」

 今気付いたというように頷くカナタ。……わざとらしいな。

 だがそんな俺の視線を気にせず、本人は自分の机で鞄から出したノートパソコンをいじり始める。こうなったらカナタは周りが見えなくなるので話しかけるだけ無駄だ。


「サタン」

「……ふぁ?」

 何なんだよもう、せっかく人が寝てるっていうのに。安眠妨害は重罪だぞ、公務執行妨害並と同じくらい。つーわけでムショ行き決定、よっておやすみなさい。

「意味不明なこと言ってないで起きる。眠いなら自分のベッドで寝る。他人のベッドを占領するな」

「えー」

「えーじゃない」

 だって二段ベッドの上にのぼるの面倒だし。

 つーかいつの間にか寝てたみたいだな。おかしなことを口走った気がするが気にしないことにしよう。


「ん?寝るってことはまだ朝じゃないのか?」

「さっき日付が変わった」

 てことは三時間ちょっと寝てただけか。まだ寝るには早すぎる。

「カナタは作業終わったのか?」

「終わった。だから寝る。けどサタンが邪魔」

 ごもっともです。

 仕方なく下のベッドから這い出し自分の机の椅子に座る。

 入れ替わりにカナタがベッドに入り、布団にくるまった。

「おやすみ」

「ああ、おやすみ」

 いつもながらカナタは寝るのが早い。起きるのも早いし、年寄りかっつーの。

 さて、携帯でもいじりますか。生徒会員だからって強制的に持たされた物だが、今では便利な暇つぶしの道具として活用している。

 メールや電話?自分からしようとは思わねーし。だから暇つぶし。

「ところで」

「うぉっ!」

 唐突にカナタが喋った。……寝たと思ってたから正直かなりびびった。

「ど、どうした?」

「いや、気になったことが」

「何だ?」

 寝ようとしてたのにわざわざ言うってことはよっぽどのもんなのだろうか。

「よく知らないけど、織姫先生がサタンはかなり宿題ためてるから、そろそろ制裁発動って」

「そういうのはもっと早く言ってくれ!」

「……今思い出した」

 最近何も言ってこないと思ったら、密かに何しようとしてんだあいつ!

 今からやって終わる程度の量じゃないぞ、マジで。

「そうだカナタ手伝って」

「……………くー」

「もう寝てる!?」

 どんだけ寝付きいいんだよ!喋ってから五秒たってねぇのにおかしくないか?

「いや今はそれよりも……」

 自分の机の隅に山積みとなった宿題。これをどうにかしないと。………………うん、まぁあれだね、

「ちりも積もれば山となる、ってか」

「因果応報、自業自得………」

 ん、今何か聞こえたような――

「って“ような”じゃねぇよ!カナタお前起きてんじゃねぇか!!」

「……しまった」

「しまったじゃねーーー!!」




 この日から、男子寮では夜な夜な悲鳴が上がるという噂が立ったとか立たなかったとか。


読んでくださりありがとうございます。


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