11.調査一日目
場所は変わって、現在俺とカナタ、大和名は廊下を歩いていた。
つまり生徒会室まで大和名を案内する途中なわけだ。アズミがいないのは用事があって先に戻ったからだが…………正直、行かせるんじゃなかった。
三人で歩いている、ということは俺とカナタっていう男子二人と大和名っていう女子一人が一緒にいるってことだ。つまり……俺らに視線がめちゃくちゃ集まってる。しかも現在進行形で増えてるし。視線だけじゃなくてこそこそと話してる奴もいるし。あからさまに睨んでくる奴らもいるし。カナタはいつも通りに見えても視線が集中してるせいでなんか動きが機械的だし大和名はこの状態を全く理解してないみたいでゆっくりのんびり歩いてるし……!!
そりゃ美少女が男二人連れてる光景は珍しいだろうし、そのうちの一人は茶髪で目つきが悪いんだから気にもなるだろうけど!はっきり言おう、……うっとうしい!!
と、俺らを見ていた奴らがいきなり視線を逸らし、立ち去り始めた。……口には出してないはずだよなぁ?
「…………………サタン、気配がすごいことに……」
「へ?」
「……………殺気が…………」
うわ、やっべ。つい前の癖で殺気だしちまった。昔っから変に注目されるのって苦手だからな……。でも苦手かだけで殺気出すってどれだけ危険人物なんだ俺は。
「え、どうかなさったんですか?紅宮さん」
って大和名!お前は今の殺気にも気付かなかったのか!?俺らの半径五メートルに人がいないことで何か察してくれ!人によったら十メートル離れてたけど逃げた奴もいたるのに、なんで一番近くにいるお前が分からないんだ!?カナタなんか今にも逃げ出しそうだったぞ!?
……とはいえ、んなことを正面切って言えるはずもない。気付かずに言ってたら色々アレだが。
「……いや、なんでもない。それよりも大和名」
「何ですか、紅宮さん?」
「それ、その『紅宮さん』っていうのやめてもらえるか?俺の兄貴も生徒会にいるから、名字だとややこしいんだよ」
さっき呼ばれたときに思ったんだが、生徒会室に行ったら紅宮が二人だからわかりにくいだろう。それに俺は紅宮って呼ばれるのに慣れてないから反応しにくいしな。
「だから、サタンでいい」
「わかりました。あ、じゃあサタンさんも私のことショウコって呼んでください」
「え、いいのか?」
「はい、もちろんです!」
確かにそっちのが呼びやすいっちゃあ呼びやすいんだが、会ってそんなにたってない女子を名前で呼ぶのは気がひける。まあ、本人がそう言ってるんだから呼ばないのは逆に失礼だろう。にしても名前にさん付けってすげぇ違和感があるんだよなぁ……
「……わかった。じゃあショウコって呼ぶぞ」
「はい!あ、空嶺さんもショウコって呼んでくださいね」
にこり、と大和名ーーもといショウコがカナタに笑いかけたが、本人は表情一つ変えずに小さく頷いただけだった。とはいえ、いつも反応があるわけではないので俺は気にしない。反応があるだけましなくらいだろう。
と、そういえば聞いておきたいことがあるんだった。個人的な疑問なんだが……
「なあ、ショウコ」
「はい?」
「お前、どうして俺らに依頼したんだ?」
「え?」
「ただ“万屋”の奴だからって俺とカナタとアズミに頼んだわけじゃないだろ?全く知りもしない相手に頼むのは気が引けるだろうし……。それに俺たちの噂、本当に知らなかったのか?」
「それはーー」
「死ねええええええぇぇぇぇぇーー!!」
縁起でもないことを叫びながらバカが横から突っ込んできた。一瞬考えてから後ろによけ、右足を前に出しておく。
「ブゴフゥッ!?」
おお、見事に引っかかってくれた。顔面ダイブ痛そうだな。まぁ、死ねとか言ってる奴にはいい気味だ。
「いきなり人に死ねとは何事だ。冗談はお前が死んでからにしろ」
「いや死んだら冗談言えな」
「黙れ」
「グエッ!」
ゾンビみたいに動きながら近づいて来るんじゃねえよ。顔腫れてて余計に気持ち悪いし、思わず蹴り上げちまったじゃねえか。
「ひ、ひで……」
「ピクピクすんな気色悪りぃ」
お前のせいで話が中断したんだ。ブツブツ何か言ってるけど無視だ無視。会話邪魔されるとかなりむかつくんだよ。
顔面押さえてうずくまってるバカをげしげしと蹴りながら少しずつ壁に追いやり、放置。相手にするだけ無駄だ。
「え、あの。大丈夫なんですかあの人?」
ショウコがバカを指差して聞いてくる。ま、問題はない、バカだからな。
「ああ、大丈夫だ。これくらいでへこむ奴じゃな」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」
ちっ、もう復活しやがったか。うるさいなマジで。
ヤツはいきなり立ち上がるとショウコの手を取りキザったらしく一礼した。
「これはこれは、お見苦しいところを見せて申し訳ない。ーー美しいお嬢さん、私はあなたの美貌に捕らわれてしまいました。どうか私めとお付き合いを」
「ごめんなさい」
「即答!?」
ショック受けてるな。つーか断られて当たり前だろ。……あ、自分から壁の隅に座り込んだ。
困った表情でバカを見ているショウコ、隅でいじけてるバカ、少し離れたところで傍観しているカナタ、そして俺。
面倒だがこのままじゃ何も進みそうにないな…………仕方ない。
「おい、バカ」
「誰がバカだと!?」
「お前だバカ。…………で、結局何しに来たんだスサ。ショウコをナンパするために来たわけじゃないだろ」
十握須佐。それがこのバカの名前だ。美人とみたら誰であろうと構わず声をかける変態。見た目的には短めの髪に右目だけを隠すように伸びた前髪が特徴。ちなみに金髪。顔はそこそこ整ってるんだから変な行動さえなきゃもてるだろうに。あと身長が俺より少し高い。ムカつく。
「ああ、そりゃ…ってぇ!サタン今なんで蹴った!?」
「お前の足に虫がいたんだ」
「そうか、なら仕方ないな!」
信じた。バカは単純思考で助かる。
「それで、続きは?」
「ん、さっき生徒会室に行ったときアズミちゃんに伝言頼まれたんだよ。即行で追い出されたけど」
「当たり前だ」
スサは生徒会員じゃない。単に生徒会長と月読先輩の従兄弟ってだけでよく生徒会室に入り浸っている厄介者だ。それに、おおかたアズミの仕事の邪魔でもしたんだろ。
「で、お前とカナタを探してたら美人と一緒にいるところを発見、ぜひ声をかけなければ!とやってきた次第だ」
「ほう……なら俺にむかって死ねと叫びながら突撃してきた理由は?」
「美人な方とお近づきになっていたからだ!!」
「わかった。死ね」
「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!?」
近くにあった階段から蹴落とす。ゴロゴロ転がる音がしたがどうでもいい。ここは二階だからそのうち壁にぶつかって止まるしな。
「あの……伝言聞かなくていいんですか?」
忘れてた。まあ、大丈夫だろ。
「あんなバカから聞くより直接アズミに聞いた方が速い。いくぞ」
三階にむかって階段を登り始めると、カナタとショウコが急いでついてくる足音がした。
なんか、すげぇ面倒なことになりそうな気がするなあ……
新キャラ、十握スサ。一応準レギュラーの予定。