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第九話:愛

第九話

 心の底からあの子のことを愛すると言ったらおかしいかな。

 特別な何かをしているわけではないし、友達づきあいの延長みたいなものだ。

「じゃあね、雫さん」

「うん、冬治君もまた明日」

 交差点で別れて手を振る。俺が背を向けても、雫さんは手を振ってくれているので急いで帰らなくてはお互い手を振って時間が過ぎてしまうからなー。

 それがいいんだけどさ。

「あれ?冬治君じゃん」

「七色…何してんだ?」

 交差点を少し歩いて七色が脇から出てきた。

「買い物」

「ああ、今日はお前が担当なのか」

「そうそう。人数が多いってわけじゃないんだけどさ、やっぱり面倒だよねー」

 こいつの料理がまずいと言う事は家庭科の実習で嫌というほど知っている。被害に会うのは俺と、友人、後は本人だ。

 それでも、健気に頑張っているところを見ると応援してやりたくなる。

「そうか、それじゃあまた手伝おうか?」

「え?いいのー?」

「おう、いつもお世話になっているからな。そんなにうまいってわけでもないがね、やっぱり下ごしらえぐらいは手伝いたくなるわけよ」

 七色にはノートや、買い食いでお金を借りたりしている。

 友人だから気にしなくていいと言う七色だから、こういうとき以外に返せる部分が無いんだよ。

 違う大学に入ったらそれっきりになったりするって親戚の兄ちゃんが言っていたし、困った時はお互い様だ。

 まぁ、そんなこんなで俺は七色宅で夕飯を準備したのであった。

 これだけだったら友達を助けてあげた何と言う心の優しい御仁なんだと言うだけで終わった筈だ。

 次の日、雫さんが戸惑いながら俺のところへとやってきた。

「あの…さ、昨日冬治君と別れたじゃん?」

「え?別れた…嘘、別れたの、俺達?」

「ううん!違うよっ!道で、道で別れた後」

「あ、ああ…なんだそっちかぁ…驚いちゃったよ」

 こっちの方が驚いたよという顔をされる。そりゃそうか。

「えーっと、七色さんに会ってなかった?」

「え?あ、あー…うん、会ったよ?」

「そっか。何で?」

 何でか…これは母親が居なくなっている七色の家の事情だからなぁ…簡単に言っていい問題なのかな。

「言えないんだ?」

「そう言うわけじゃない。七色の家の問題なんだ」

「それなのに、どうして冬治君が?」

「俺は…」

 答えに窮したところで七色…ではなく、友人が口を挟んできた。

「それはね、馬水さん。七色の家は母親がいないんだ」

「おい、友人」

「大丈夫、許可は取ってある…まぁ、そう言う理由で冬治は料理が下手な七色を助けてやってるんだよ。わかった?」

 そういって馬水さんの方を見ている。

「…ごめんね、冬治君」

「あ、いや…いいんだよ。俺もはっきり言わなかったのが悪いんだから」

 顔を真っ赤にして馬水さんは恥じているようだった。ま、嫉妬してくれたんだよな?それなら嬉しいもんだ。


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