第八話:紗枝の授業
第八話
「でさぁ、パパったら『ヘッドフォンから音楽が聞こえない。壊れたかな』とか言ってんの!ヘッドフォン付けるの忘れてるの」
これだから酔っ払いは嫌だよねーと紗枝先生が言っていた。
「はぁ、そうですか」
「あれ?面白くなかった?」
「そりゃーそうですよ」
「え?話題のチョイス的にダメ?」
「だって、今は授業中ですよ」
他の生徒から冷たい視線…先生にではなく、俺にだ。
被害者だと言うのに、まるで容疑者みたいな扱いを受けている。
「でも今現国の授業だから」
「どこら辺が授業だったんでしょう」
「はい、じゃあ今の文章を自分なりに要点だけまとめて。会社に入ったら『社長のうざい言葉は聞き流そ~』とか言って連中、重要な事言うから気をつけるように」
紗枝先生の言葉にクラスメートたちは慌てて筆をとる。
「愛する冬治君には先生からのプレゼント。勿論、ラブをいっぱい詰めてます…黒板に見本を見せてね。先生を幻滅させちゃ嫌だゾ」
「…」
他の生徒たちからは冷たい視線ではなく、同情の視線が。お前が居てくれるおかげで面倒な相手をしなくていいよというものが向けられている。
話は一応聞いていたので要約するのは時間があれば出来ただろう…いいわけじゃないよ?いいわけじゃないとも。
「はい、三分経過」
「え?五分って言ったじゃないですか」
「五分は他の生徒達、黒板に書くのに二分ぐらいかかるでしょう?最初の授業でルールを決めたでしょ?」
そんな俺ルールあったのか…。
「はい、じゃあ冬治君お願いね。後一分しかないよ」
「う…」
一分で要約した内容を書き写す。黒板に文字を書く事にいまいち慣れていないので、急いで書いても途中までしか書けなかった。
言い訳っぽいな…実際、いいわけだけど。
「うーん、意外と字が汚い」
「時間が無かったんですっ」
「内容も微妙と来たか―」
「酷い」
「先生残念です」
「…」
「というわけで、冬治君にはお昼休み先生と一緒にお昼ご飯を食べてもらいます。いえーい」
「そのくらいはまぁ、いいですけど」
羨ましいなーと言う声と、あんな面倒な性格とは思わなかったーという声が聞こえてきた。
授業が終わり(授業のチャイムが鳴る一分前には終わるので昼前だったら喜ばれている…主に、購買組に)、俺の元へ友人達が寄ってくる。
「今の心境は?」
「筆舌し難い青春の苦悩と葛藤と重荷と絶望の日々だ」
「またまたー、本当は嬉しいんでしょ?」
「…本当を言うと、ちょっとだけな」
自分の顔が見られるならきっと苦虫をかみつぶした顔をしているんだろうな。
「ほら、先生が待ってるよ」
「ああ、行って来る」
非日常を楽しめているという点でその時の俺は悪くないかなと思っていた。
「ねぇ、冬治君。最初に出会った時何言ったか覚えてる?」
お弁当を食べている先生からそんな質問をされた。
そういえば、女性って記念日とか大切にしているって言うからなぁ…なし崩し的な今の関係だけど、ちゃんと答えたほうがいいんだよな。
「えっと、飲みに行こうって言いましたよ。俺は、驚いてええっしか言ってません」
ばっちり覚えてますよアピール。どうだと顔を向けると首を振られた。
「そうだけどさー、ここは『一目ぼれしました!結婚してください』なんて言ってくれると嬉しい」
「そんな無茶な」
本当に、平和な日々だ。
絶望、という言葉ではない物の面倒な重荷を背負う羽目になったと思ったのは数日後だ。
そろそろエンジンをかけていきたいと思います。どれも大差のない日常の話…他のキャラが他のキャラの話に出ても何ら違和感をもたれることはないでしょう。差異は出していかねばなりませんので、それはそこ、作者の頑張りどころでございます。約束は破るためにある、期待は裏切るためにあるという言葉もありますゆえ、お手柔らかにお願いします。