第六話:不安への出航
第六話
ぽっと出の義妹をかなり警戒しつつ、家事をする俺。
一人暮らしをする以上、家事はしなくてはいけないし、やりくりしないとお金が足りないので学食よりもお弁当を作らなくてはいけない。
初日の料理は俺が担当したし、義妹のお弁当まで用意した。
「…」
「ああ、弁当あるんだ。じゃ、持ってく」
そういって義妹さんは行ってしまいましたとさ。
「ありがとうもなしかよ…いや、もういいけどね」
ヤンキーだってありがとうの一つ言ってくれるのになぁ…つまり、ヤンキーじゃなくてあの葉奈ちゃんが礼儀知らずなんだろうね。
本当のことを言うと義妹からありがとーって言ってほしかっただけさ。ちょっと女々しいだけなのさ。
家に電話をして確認すると『学園の近くに住む友達の家に厄介になる』と言って出て行ったそうな。
つまり、あの子は嘘をついて家にやってきたようだ。
その日の授業が終わって、友人から遊びの誘いを断って妹に会う…というよりも校門で待っていた。
「あれ、兄さん?」
「ああ、そうだよ」
てっきり『兄さんとかいらね』と言われるもんだとばかり…それはとりあえず置いておくか。
「ちょっと話があるんだ」
「話?」
「そうだよ」
他の生徒達が俺たち二人のことを見て行っていた。
「おい、お前らみせもんじゃねぇぞ」
そこはそれ、ほら、ヤンキーざんしょ?ちびるぐらいのメンチ切って散らせるなんて芸当を見せてくれましたよ。
ちょっと洒落た喫茶店に入ると後から入ってきた葉奈ちゃんが深呼吸をしていた。
「具合が悪いのかい?」
「え?違う違う。こんなところに連れてきてもらうなんて初めてだから、ちょっと緊張してるだけ」
「ふーん」
「さぁて、兄さん予算はどんくらい?ぶっちゃけていうとどれぐらい頼んでいい?」
「五百円以内だよ」
「へーい」
雑な感じで注文をして俺は話を始める。
「率直に聞くけど何で俺の部屋に来たの?」
「親父が嫌いなんだよ。過保護すぎて」
うんざりした感じでそう言った。
「兄さんには悪いけど、新しく出来た母親というのも…気持ち悪いと言うか…」
俺の方を見て気まずそうに言う。そりゃあ、そうだろうな。でもまぁ、そこは納得できる話でもある。
「ま、いきなり家族が出来ても戸惑うよねぇ」
「だろ?」
「悪いけど、俺にとっては君もその一人だよ」
機嫌が悪くなるかなと思いつつ、正直に話してみた。
「うーん、やっぱりそっか」
「葉奈ちゃんだってそうだろう?」
「葉奈ちゃんだって?」
まるでアフリカでネッシーを見たような顔をしている。
「え?名前間違えた?」
「いや、葉奈だけど。ちゃんは無い」
「そうかなぁ、可愛いよ?」
「…ま、兄さんがそういうんならいいけどさ。えーっと、あたしにとって兄さんと一緒に居たほうがいいから一緒に居るだけだ。ただ、それだけ」
「ああ、そう」
とりあえず父と、母の顔を見るならまだ俺と一緒に居たほうが自由ってことか。
その後は、家事とかの分担を話し合うだけだった。特に何かできる事は無いようなので殆ど俺担当になってしまったが…。